第135話 核反応

「ええ、あの中に選手がいるんですか?」


「彼の種族が表示された名前の通りならば、そのはずだな」


 メリノーは手元の表示をちらりと見てから、闘技場にゴロリと転がる黒い球体を眺めます。


「なんで、あんなのに入っているのかしら?」


「ふむ……あれは身を護るための装置、いわば防殻なのだ――彼らは防衛本能がとても強いことで知られている。他の種族と一緒の時には、アレに閉じこもってなかなかの出てこないのだよ」


 メリノーは、超構造体の防殻は、中にいる種族にとって大変居心地が良いと言うのです。


「ふぅん、揺りかごみたいなものかしらね――自分の身を守るには最適の場所なのかもね」


「私たちの縮退炉も大事に守られているしぃ――外殻を打ち抜かれても、縮退炉は無事だったなんてこともあるって、お婆ちゃんに聞いたことがあるわぁ」


 ペトラはお腹の辺りをポンポンと叩きながら、「お腹の中だから、確かめたこともないけれどね~~」と笑います。


「じゃぁ、あのまま殻に閉じこもったまま、戦うのですか?」


「いや、準備は整ったからな」


 メリノーは、「戦艦の装甲並みの厚さがあるデュラスチールと、強力な電磁障壁、――これがあれば、観客は安全だな」と言いました。


「ええと……それはどういう事でしょうか?」


「まぁ、見ていたまえ――出てくるぞ!」


 ドカン!


 何かが爆発するような音がすると、ビリビリビリとした振動が響きます。それは闘技場の中心にある黒い球体の中から届いているようです。


「球体がっ!」


 デューク達の目に入ったのは信じられない光景でした。超構造体で出来た黒い球体が歪んでいるのです。それは内部から何かが殴りつけたような印象を受けるものでした。


「ふぇぇっ⁈」


「超構造体が壊れて行くわ!」


「何が起きてるの⁈」


 強固な素材で出来た黒い球体が歪みを増して、バキリ! バキリ! バキリ! と言う音が連続的に生じます。


「戦艦の主砲並みの力が加わっている……」


「あ――!」


 ナワリンが声を上げると同時に球体に隙間が生じます。すると、デュークの達が持つ感覚素子が異常なデータを検出し始めました。


「高熱源体反応――⁈」


 球体が歪み、隙間が生じると、そこから強い光と特徴的な粒子と電磁波が漏れ出しました。


「これって――⁈」


「これって放射線反応~~! なんで惑星上で~~!」


  それは核の光でした。原子が分裂し、融合し――強力なエネルギーにより大気が焼け、危険な放射線が撒き散らされるのです。


「「「ぎゃぁぁあ!」」」」


 デューク達は一瞬、彼らが経験した戦場――熱核砲弾が飛び交う状況を思い出し、身を固くします。軍艦サイズの本体であれば、「熱いよぉ……」という位で済むエネルギー反応ですが、いまのデューク達にとっては、目の前で起こっている現象は、大変に危険なものでした。


「退避――! 退避――! 退避――!」


「だ、駄目だわ……間に合わないわ」


「せ、世界は核の炎に包まれたのよ~~!」


 ペトラが言う通り、闘技場の中は地獄のような業火が支配する場所と成っていました。強力な閃光が巻き起こり、大気がプラズマ化しているのです。


「「「ひぃぃぃぃ!」」」


 観客席の中で、デュークらは身を寄せ合いながら、最後の瞬間を――


「ふはは、そこまでびっくりするとはな。まぁ、大丈夫だよ」


 ――味わうことはありませんでした。メリノーは白い髭をなでながら、眼前の光景を涼し気に眺めていました。そう、闘技場内の核反応は、戦艦の装甲並みの厚さがあるデュラスチールと、強力な電磁障壁により完全に遮断されていたのです。


「重力制御もしているからな、観客は安全だといっただろう」


 メリノーが言う様に、闘技場の中で起きた現象は、完全な制御下にあるのでした。


「な、なるほど! こ、このための装甲板だったのか…………で、でも……中で何が起きているんだ⁈」


「ん、そろそろ調整が終わるから、よく見てご覧なさい」


 観客席を守る障壁がキラリと輝くと、闘技場の内部で起こる強烈な光がうまい具合に調整されてゆきます。


「あれは――」


 デュークは強力なエネルギーの中心にある――いえ、エネルギーその物の姿を捉えるのです。


 眼窩には煌々とした瞳が鎮座し、緩やかに開閉する大きな顎からは鋭い牙が見え隠れしていました。特徴的な三角形の耳を乗せた頭部は、胴体から伸びるしなやかな首に支えられています。


 胸部は筋肉の塊のようであり、かつ柔軟さも持ち合わせるような質感を持っています。脇から突き出た腕は前方に突き出され、指先には黒光りする鉤爪がついていました。


 腰部からは長い尾が伸び、それはデュークらのクレーンと同じようなフレキシブルな動きを見せています。重量は小型船舶並みのものが有るのでしょう、カラダを支える脚は闘技場の地面に大きくめり込んでいました。

 

「この生き物は――」


 デュークの目の前で、黒い球体から現れたと思われる生物は、口を大きく開けるとファァァと欠伸をします。そして、前脚を上げると頭部にをカリカリと撫ぜるのです。


 そして、全てフワフワモコモコの皮膚に覆われたその生物は、ニャーンとした鳴き声を上げました。


「――――ネコ?」


 デュークの龍骨は、目の前にいる種族が、巨大なネコのだと認識したのです。

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