第129話 歓楽街のひとつへ
デューク達は、セントラル・コアからシャトルに乗って、衛星カステルの反対側に到着しています。
「ドームがたくさんあるぞ?」
直径100キロほどのクレーターであったと思われる地形の上に、大小さまざまな
「でも、大きさも色もバラバラねぇ」
ナワリンが見るところ、ドームは色とりどりに塗装され、あるいは透明であったりと統一感がないものでした。
「てっきと~~に並んでる」
ドーム群は、都市計画があるとは思われない乱雑さで、重なり合う様にして配置されていました。
「外観からして猥雑だろう? あれが連合世界有数の歓楽都市区画モザイクだ」
メリノーは、ドームの一つ一つが小都市であり、それぞれ治外法権を持っていると言います。
「酒、賭博、暴力。法律によって連合世界の多くの場所で制限されているものが、緩やかになっているのだ」
「へぇ、軍の売店でお酒を飲んでいる種族がいましたけれど、違法なんですね」
「ん、違法ではないが、飲みすぎはマナー違反だ。だが、あそこではそれも許される。
様々な種族が混在する共生知性体連合では、法律やマインドセット、ナノマシンによって種族的な本能を制限する仕組みが整っています。
「それらが、都市ごとに違ったレベルで解除されている。場所によっては、
メリノーは、あえてそのような場所を作ることで、一種のガス抜きを行っていると説明しました。様々な種族が共生するためのシステムの一つだというのです。
「まぁそれはともかく、目的の人物はあの都市の中のひとつにいる。早速、行ってみるとしよう」
◇
天蓋都市のひとつに着陸すると、
彼らの頭上には立体映像が投射され、”バトルドームにようこそ! ここら先は、アルコールおよび賭博と暴力に対する一部の抑制が解除されています。自己責任でおたのしみください”という注意書きが浮かんでいました。
列をなした種族たちは、なにかに期待するように「くはっ……漲ってきた!」とか「チャンプの試合を生で見られる!」などと、思い思いに言葉を漏らしています。
「なんだか、活気がありますね」
入り口に近づくにつれて、空気がみなぎってくるようで、心なしか温度も上がってゆくのでした。
「バトルドーム……この都市は合法的な暴力を観戦できるところなのだ」
「合法的な暴力を見るというと?」
「例えば、格闘技とかだな。軍でもならったろう? あれの試合を見世物にするのだよ」
「ええ、訓練で受けました。仲間たちと殴り合いさせられたし、教官にぼこぼこにされて、ちょっと嫌な思いをしたものです。それを見世物にするのかぁ」
デュークは、「そんなことは考えたこともないなぁ」などと呟きました。
「格闘技――訓練所の訓練の中では結構好きなほうだったわ!」
「こんな感じだったっけぇ?」
ナワリンとペトラは、おもむろにクレーンを構えると、「キエーイ!」とか「アチョー!」などと奇声を上げました。
「ははは、それだそれだ」
メリノーは微笑みながら、ナワリン達に合わせるようなおどけた調子で「トリャー!」と声を上げて、ピタリとした構えを取りました。
「わぁ、メリノーさん。構えが決まってるぅ」
「軍の教官みたいだわぁ」
「フッ、若い頃はならしたものだ」
などと言ったメリノーは、「フン! ハッ!」と、二つ続けて拳を突き出しました。
「ふぇっ⁈ 凄い動きだ」
「ホント、格闘技の教官みたいねぇ……」
「あれよりもぉ、キレがあるわよぉ!」
彼の突き出した拳は、手の先がぼやけて、視覚素子で捉えることが難しいほどの速度を持っていたのです。
いつも身に着けている燕尾服が少し盛り上っているのは、彼が意外に筋肉質なのを示しているのでしょう。
「実のところ、昔は私も――」
上級執政按察官はグッと拳を握りしめて掲げながら、二の句を告げようとするのですが――
「ちょっと、ちょっとお客さん。まだここは外側ですよ。熱気に当てられるのはいいけれど、そういうことは中でやってくれませんかねぇ」
ドームに入ろうとする知性体を監視していた警備員が飛んできて、彼をピシャリと窘めたのです。
「あ、そうだった……」
メリノーは眼鏡をクイっと上げ、少し恥ずかし気な表情を浮かべながら「いや、すみません……」などと、シュンとして謝るのでした。
そんな彼を見たデュークは、いつもは紳士然としているメリノーの意外な一面を見た気がするのでした。
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