第130話 コロッセオの入り口にて

 デューク達はバトルドームに入場し、一つの施設に入場しようとするところでした。その施設は外壁に石造りの柱が何本も立ち並ぶ、古式ゆかしい遺跡のような姿をしています。


「これはコロッセオと言うべきものだ。ドームの中でも最も格式の高い闘技場の一つだよ」


「中から――音楽と人の声が聞こえますね」


 まだ闘技場の中に入ったわけでもないにも関わらず、その内部から怒号とも歓声ともとれる響きが伝わってくるのです。


「もうすぐ、試合が始まるのだ。早く入るとしよう」


「あの列ですね」


 コロッセオは、古臭い様式の闘技場にふさわしくチケットを購入するタイプのようです。そして、その販売所には、かなり長い列が出来ていました。


「購入までに、随分と待ちそうねぇ」


「いや、私たちはこちらから入るのだ」


 そう言ったメリノーは、脇に逸れたところにデューク達を連れていきます。少し歩くと、正面の入り口とは違ったこぢんまりとした入り口につくのでした。


「ここは一体?」


「闘技場の関係者だけが入れる入り口だよ」


 そこは、選手や闘技場のスタッフなどだけが通ることのできる入り口でした。時間帯的に、デューク達以外の関係者は既にコロッセオに入っているらしく、辺りには人影はまばらです。


「へぇ、ここから入れるのですか?」


「ああ、私は関係者だからね!」


 デュークの問いに、メリノーはグッと親指を上げました。どこか満足げな――自信に満ちた表情もしています。


「……ははぁ、もしかしてメリノーさんってば、ここの持ち主なのかしら? お家は古いお城だったし、この古臭い闘技場もそうなのね!」


「メリノーさんってぇ、もしかして凄いお金持ちぃ?」


 ナワリンとペトラは「オーナーだ、オーナー!」だと騒ぎました。


「いやいや、持ち主ではないが、私は昔から顔パスなのさ」


 そう言ったメリノーは、軽やかな足取りで歩を進めます。入り口に近づくと、随分と逞しい体つきをしたイヌ面のヒューマノイドが2体ほど構えているのが分かります。


「なんだか、怖い感じの種族がいますね。軍で似たような種族を見たことがありますが、背丈が遥かに……デカイ」


「イヌ型種族の警備員だな」


 デュークが見たところ、その警備員は一般的なイヌ型種族のそれと比べて実に大きいのです。メリノーは、イヌたちを指さして批評するように呟きます。


「ん、初めて見る顔だな短吻ぺちゃ鼻で、断耳、緩んだ肌――闘犬種か」


 恐ろし気な風貌のイヌ面を眺めたメリノーは、それ以上はどうと言うこともなく、入り口に歩を進めます。


 そして、彼が警備に当たるイヌたちに「通るよ」と言って脇を抜けようとした時でした。グルルルゥという鳴き声と共に、2匹のイヌ型種族が立ち塞がります。


「「ここは関係者以外立ち入り禁止です!」」


 イヌたちは短い鼻面を突きつけるようにして、デューク達をジロリと睨みつけてきたのです。


「うわわわ⁈」

「ひえぇ?」

「きゃぁ!」


 デューク達は、大型のイヌ型種族から向けられた殺気のようなものを感じて、思わず声を上げてしまいました。


 同じようにして留められたメリノーは、足を止めてイヌたちの方に向き直り、慌てるでもなくこう言います。


「おや、私の顔を知らんのか?」


「顔――? 知りませんな」


 メリノーは片目を上げて、訝しがるように尋ねましたが、イヌは「知らんがな」というほどに応えるのでした。


許可証パスを提示していただければ、お通しします」


「ぬぅ……いつもは顔パスなのにな……しかたがない」


 メリノーは、懐に手を入れて財布を取り出して探り始めましたが――


「おや……どこだ……」


 ――許可証が見つからないようです。ワタフタとするメリノーの姿に、にイヌの警備員は呆れたような目つきで、こう伝えます。


「パスが無ければ、執政府のお役人でも通せない。そう言う決まりです」


「そう、だったな……」


 イヌたちは、メリノーが上等な燕尾服を着ていることから、執政府の人間だと察したようですが、その威光はここでは通用しないようです。

 

「では、正面からお入りください」


「ううむ、この時間がだと、もう売り切れて……」


 などとメリノーが口をへの字に結んだ時です。関係者入り口に向けて、何やらドスドスドスとした足音が近づいてくるのでした。

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