第89話 ご先祖様のアドバイス

「このM47はアサルトに設定――300メートルが限界なのだぞ、それをお前は500メートル先にあてるとは、ゴロロ……」


 デュークが放つ弾丸の行き着く先を確かめたゴローロが絶句しました。M47はメンテの際に弾速を変更することができるのですが、この時マッハ3程度と比較的抑えられた設定となっているので、500メートルといえば相当な遠距離射撃なのです。


「500メートル……そんな先を撃ってるのっ?!」

「おいおいおい! 俺たちゃ、手前の的でも中々当たらないんだぜ」

「これはビックリしました!」

「ほほぉ、流石は龍骨の民、武器の取り扱いは慣れているのかノォ……」


 周囲の仲間達は「うわぁおっ!」と驚愕の声を上げました。ゴローロは「お前らは、手前の的をしっかり狙えぇぇえぇぇぇっ!」と周囲を黙らせてから、「射撃やめ!」とデュークの背中にあるライフルを取り上げました。


「え、もう終わりですか。調子良くなって来たばかりなのに」


「ふん、お前のご先祖の記憶はM47程度では満足していないはずだ。だから、代わりにこいつをくれてやる!」


 龍骨の民のご先祖様システムは軍の中ではよく知られた話なので、ゴローロは「ご先祖様の声というやつは――――お前の力でもあるからな」と言いながらM47よりも銃身の長い鉄砲をデュークの背中に載せました。


「お、重い……っ」


 ゴローロがデュークの背中に載せた長大な銃は全長1メートルを軽々と超えており、その重量は15キロ以上もあるのです。


「この銃の名前はM555だ。共生宇宙軍の対物対装甲狙撃銃――いわゆるアンチマテリアルライフルというものでな。口径12.7ミリの重タングステン弾頭や、思考化狙撃弾頭を用いるスナイピングライフルだ! これをお前に特別に撃たせてやる!」


 そして、ゴローロは「お前の本体に乗ってる大砲に比べれば、小さいかもしれんがな」と苦笑いします。


「ミ、ミニチュアで使うには重すぎですよぉ。地面に這いつくばっていいですか?」


 デュークの頼みにゴローロは「それが正式な使い方だから別に良いぞ」と応え、「よぉし、あそこを狙ってみろ」と言いました。


 ゴローロが示したのは、かなり遠くのにある点のような的を示すのです。


「測距します――――1000メートルはあるなぁ……」


 デュークが視覚素子の倍率を上げて探知した的は1キロも先にあるのです。横にいる仲間たちは「アレはさすがに無理だわ!」とか「素人に狙撃銃もたせるなよ!」などと軍曹に聞こえぬように無茶だと見守っています。


「やれ!」


「ええと、調整して、こんな感じかな? 撃ちます――」


 そしてデュークはなんのためらいもなくと発砲するのです。ヒィ――――ン! という特徴的な電磁加速の発砲音が響くと――ドッ! と地面で銃弾が弾ける音が返ってきます。


「右にそれたぞ」


「右かぁ……」


 双眼鏡を覗いていたゴローロが「外れだ」と言うのですが、デュークは「もう一回!」と、二回目の射撃準備を行います。


「今度は左だな……」


「ええ、左ですね……」


 第二射撃を行っても甲高い音ではなく、土をえぐる音しか聞こえません。周囲は「やっぱ無理か」「さっきのはまぐれ当たりだったのかしら」などとため息を漏らすのですが――


「夾叉したか」


「はい、次弾、修正射、行きます」


 デュークはキリッと狙いを修正し、ゴローロが「やれ」と告げると、龍骨こころの中で「ッ!」と叫びながらそろりと引き金を絞りました。


「弾着――今!」


 デュークがそう言った数秒後、ギィヤァァァァァァァン! という甲高い命中の反響音が戻ってきました。


「当たったか!《ゴロロ――! ゴロロ――》!」


 デューク見せた射撃にゴローロは喉を鳴らして嬉しげな声を上げました。周囲の仲間達も「すげぇ!」「当たったわ!」と歓声をあげています。


「夾叉してから修正射ということは、そいつは大砲の砲撃手順だな?」


「ええと、僕の中のご先祖様が……」


 デュークの答えにゴローロ軍曹は「別に構わん」と苦笑いし、「よし、あとは好きなだけ撃て、戦艦デューク」とお褒めの言葉を与えたのです。


 そして射撃訓練を受けたあとの休憩時――

 

「デュー、お前スゲェの銃の腕前じゃねーか!」


「龍骨の民は幼い頃から射撃訓練をしているのですかな?」


「大砲をズドーン! ぶっ放すのが軍艦ですから、お手の物なんでしょうなぁ」


「だが、ライフルも大砲の様に扱えるとはノォ」


 仲間たちは口々に「すごいすごい」というのですが、デュークは艦首をねじりながらこう答えるのです。


「ふぇぇぇ、主砲どころか個艦防衛用のレーザも撃ったことがないよ。武器を使ったのは初めてだったんだ」


 デュークはそんな訓練を受けたことはありませんし、かっちりとしたセイフティが龍骨に掛かっているのだと説明しました。


「はぁ? 初めてでアレだけのことができる筈がねーだろ?」


 スイキーが「嘘言うない」と言うので、デュークは「ご先祖様から、アドバイスを貰ったんだ」と答え、こう続けます。


「なんていうかね、僕たちって龍骨の中に、ご先祖さまの記憶が残ってるんだ。時々それが人格を持っていろいろと、コツやら何やらを教えてくれるんだよ」


 デュークは龍骨の民特有のご先祖様システムに付いて説明します。


「ご先祖の声って曖昧な場合もあればそうでない場合もあってさ、個体差が激しいらしいんだけど、訓練の時に話しかけてきたご先祖様は、実家のじいちゃんみたいな感じに丁寧にモノを教えてくれたんだ」


「なるほど、ご先祖様が物を教えてくれる……か。実はワシら接ぎ木で増える樹木型種族も同じなのだ」


「他の種族にもそういうのってあるのっ?!」


 他の種族にもご先祖さまの声というものが有ると聞いたデュークは、ビックリしました。博識なパシスなどは「記憶を遺伝子や何かで継承する種族というやつですね」と頷きました。


「しかし、物を教えてくれるなんて、便利なご先祖様だな! 俺っちなんぞ、墓参りとかしたときに、誰もいないところでヒタヒタって足音が聞こえる程度なんだぜ。すげー寝苦しい夜とかに、死んだじいちゃんが枕元に出てきて、クワカカカ! って笑うんだ」と半分冗談めかして言うのです。


「それってば、ご先祖さまの霊魂かもね。思念波の名残が子孫のカラダに残留するタイプだわ。私達サイキックだと意図的にそれをやる場合があるわ」


 マナカは「空中に姿を現して思念波フォースを信じろ、とか言ってくるのよ――」などと、嘘か真かわからないような口調で嘯くのです。


「へぇ……いろいろあるんだなぁ」


 カラダに宿るご先祖様もいれば、思念波のような形になったご先祖さまもいるのでしょう。デュークは「なるほどなぁ」と、また一つ賢くなったのを感じました。

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