第88話 射撃訓練と謎の声
「ゴローロ軍曹の――――っ!
新兵訓練所の外にある土塀で囲われたエリアにて、ゴローロ軍曹がどこぞの武器紹介番組の題目のごときセリフを吐き出し「今日はボンクラどもに”武器”の取り扱い方を叩き込んでやる!」と叫んでいます。
「まず最初に知っておくべきことはぁぁああぁあ! 武器というものは肉体の延長線上にあるということだっ! 例えば、これだぁぁぁぁぁ!」
軍曹は右手で棒切れを掴み、左手でをつかみ上げると――「ウホホッ、ウホウホッ、ウッホッホッ!」とまるで原始人のような鳴き声を上げながら見えない敵に殴りかかったり、「フンガーッ!」などと吠えながら石を投擲しました。
「お前らのご先祖様も、このような石塊や棒切れを使って、厳しい生存競争を生き残って来たはずだ!」
新兵達は「サーイエッサー」と応える他ないのですが、たしかに知性体のご先祖様のが薄っぺらな知性しか持っていなかった時代においては、石とか棒とかを武器にしていたことが多かったのです。
無論、長いこと嘴とか牙という肉体兵器を武器にしていた種族も多いのかもしれませんが――
「俺の説明に茶々をいれるなぁぁあぁぁぁぁぁっ!」
と、第四の壁を乗り越える勢いで軍曹が絶叫するものですから、ここはとにかく黙って聞くほかないのです。
「さて――――このような武器というものは、時代が進むに連れドンドン進化していくものだ。槍や弓矢のように離れたところから、敵を攻撃できるようなものに!」
軍曹は「敵の手の届かないところから、好きなように攻撃する――――そいつが武器の進化と言うものなのだッ!」と吠えました。たしかに彼の言葉には真実が多く含まれています。
「そして多くの種族が、銃というものにたどり着く!」
そう言ったゴローロは、どこからか取り出した軍用ライフルを高々と掲げました。
「その頂点がこのM47ライフルだ! こいつは実にタフで頼もしい
ゴローロ軍曹が手にしているのはシンビオシス・トーア重工製の共生宇宙軍正式ライフルです。
「ゴロロロロロ……このライフルは弾丸を電磁加速して放つレールガンであり、真空宇宙であっても射撃可能だ! だから惑星の上でも、宇宙でも、どこであっても敵を撃つことができる!」
実に誇らしげなドヤ顔をしたカエルは、ライフルをクルリと回すと、コシュン、カシャ、ジャキン! とライフルを操作し始めます。
まず軍曹は機関部に弾倉を叩き込み、マガジンキャッチの固定を確かめると、チャージングハンドルをサッと後退させ、セレクターいじって「ア」の位置から「タ」の位置に動かし、ライフルの台尻を肩に付けました。
「ふむ……」
流石に武器を操作しているので、実に真剣な面持ちとなったゴローロが、実にドッシリとした格好でM47ライフルを構え、練兵場の100メートル程先にある金属製の的を狙います。
軍曹が「ガンズオン《発砲準備完了》」と告げると、脇の方で安全監視に当たる別の教官が「ファーイヤ!」という掛け声を掛けます。するとフッと息を吐いた軍曹はそろりと引き金を絞るのです。
キーン!
電磁加速の甲高い発砲音が鳴り響き、そのコンマ数秒後100メートル程先に据えられた丸い的の表面でカーン! と火花が散ると、的は見事に吹き飛ぶのです。
「バースト!」
続いてキキン! とバースト射撃が始まりカカンッ! キキキン! カカカンッ! という、リズミカルな銃声と金属音が射撃場で交互に鳴り響きました。
「シーズファイア!」
弾倉が空になり「打ち方やめ!」という合図が掛かると 軍曹は弾倉を取り外し台に置き、チャンバー内の弾丸がないことを確かめてから、フムンと満足げな鼻息を漏らすのです。
「敵をあの世に送り込むための武器とはこういうものだ!」
満面の笑みを浮かべたゴローロ軍曹は「今日はお前たちにこいつの使い方を叩き込んでやるっ!」と叫びました。
それぞれ一丁ずつ、M47ライフルを受け取った新兵たちですが――
「うへぇ……これが銃ってやつか。おっかないなぁ」
「俺は故郷で鳥撃ちをしてたから、なんともないぜ」
などと銃を初めて触るものもいれば、そうでないものもいるようです。
「思ったより、軽いな?」
「そりゃそうだ。こいつはアマカラニコフが設計したライフルだからな」
M47ライフルは、天才的な技術者が精魂込めて作り上げた傑作ライフルであり、泥水の中に漬け込んだとしても真空に長時間晒したとしても、絶対に動くという代物でした。
「これが銃かぁ」
デュークもM47ライフルをクレーンで支えて、そのグリップを試しています。すると、
「わ、すごく手になじむぞ!」
「ユニバーサル構造だな、俺のフリッパーでもシッカリと持てるぜ!」
M47ライフルは、様々な手の形をしている各種族にあった形に、自動的に変形するという機能があるので、手先の不器用なスイキーでも問題なく持つことのできるのです。
「よっしゃ、ボンクラども、的に向かってライフルを構えろ!」
「うんしょっと……こうかな?」
デュークは銃なんて構えたこともありませんが、構えよとの命令に従ってガチャリと銃を構えました。
「なんか違和感があるなぁ」
彼はライフルをお腹に抱いてみたりしますが、思う様に定まりません。脇に挟んで保持しようとしてもバランスがうまく取れないのです。
「なにをごちゃごちゃしている! フネは背中でしょいこめ!」
ゴローロ軍曹が駆け寄ってきて、デュークのライフルを取り上げて彼の背中に置きました。
「あ、なんだかいい感じです!」
「そうだ、フネ背中で銃を構えるものだ。重心が整うだろ?」
フネは武装を全身に装備する生き物ですが、ライフルは背中で抱えるのが一番都合がいいようです。デュークはライフルがしっくりと据わるのを感じ、「へぇぇぇ」と思いました。
「そのままライフルのスコープにアクセスしろ。近距離ならば無線が通るはずだ」
ゴローロの言うとおりにデュークがライフルのスコープに無線を飛ばすと、その中にあるメカとリンクが形成され、視界の一部に銃の狙いが映り込みます。
「ふぇぇ! すごく遠くまで見えるなぁ。でも、なんだかフワフワしてる……」
龍骨にはスコープの映像が映っているのですが、リンクしたばかりなのか、不明瞭な感じがしているのですが、そんなことはお構いなしに軍曹が「いいか――全員、的を狙え!」と命令を下してきます。
「あれを狙うのか――遠いなぁ」
デュークがスコープを覗くと、小さな的がフワフワと浮かんでいるのがわかります。ここが宇宙空間で彼が本来のカラダでいれば、それは眼と鼻の先のような距離なのですが、ミニチュアにいるので、大変遠いものに感じるのでしょう。
「目標は一番近い正面の的!」
ゴローロが合図をすると、訓練場の端の方からタンッ! タンッ! と新兵たちの射撃が始まります。
「当たらないわ……」
「畜生! 全然あたらん!」
「むずかしいものだノぉ」
マナカを始めとした新兵たちは、的にまったく命中させることができません。ゴローロ軍曹が「バカども! 一発位当ててみせろ!」と言いますが、彼らは訓練を受けていない素人ですから仕方がないことです。
「あ、やった、一発だけ当りましたよ」
「何処を撃っとるっ?! それは隣の的だ!」
パシスがガッツポーズをするのですが、当てずっぽうで放った弾丸が、射撃場の反対側の的に命中していたのです。正に的外れとはこのことで、危険極まりない行為ですから、ゴローロから「この糞虫ィィィ!」と怒鳴られました。
「ん? デューク、お前、何故撃たんっ?」
「ええと、ライフルっていうのを撃つのは初めてで……」
デュークは「ふぇ、あたるかなぁ」などと、龍骨をモジモジさせながら、狙いを定めてまだ発砲すらできていませんでした。
「何やっとる――さっさと撃て! 撃たなきゃ当たらん!」
「は、はい……」
ゴローロが罵声を浴びせてくるので、デュークは「仕方ないなぁ……えいやっ!」と引き金を絞るのですが、弾丸は的にあたるどころか、そのへんの地面を削るような様子もありません。
「全然あたらないよぉ……」
「もっと良く狙え!」
「的が小さすぎて、当たらないんです」
「小さい? スコープを使えば見えるだろうが!」
ゴローロが「とにかく撃て撃て!」と怒声を上げるので、デュークは再度発砲したのですが、やはり的に当たる気配はありません。
「んんん? お前、どこ狙っておるんだ」
様子を伺っていたゴローロが、デュークの銃口がずいぶん上の方にそれている事に気づきます。
「何処を狙っておるのだ?」
軍曹が訝しげな顔をすると、デュークは「ええと、あそこの的ですよね……えい」と引き金を絞り込みました。すると――
「あ、あたった!」
射撃場の遠くの方でカァァァン…………とした金属音が響きました。デュークの放った弾丸は、300メートル先の的にヒットしたのです。
「はっ、まぐれ当たりだな」
と言ったゴローロが「というか、全然違うところ狙っておるでは――」と制止しようとするのですが、デュークはさらに引き金を絞り込みます。そしてまた、カカカァァァァン…………と、やはり遠くから音が聞こえてくるのです。
「ね、狙って当てとるのか……」
実のところ、この時のデュークは、龍骨の中だけに響く不思議な声と会話をしながら、射撃を続けています。龍骨の中に響くそれは「方位・距離を計測、速度・進路把握、兵装データ、弾道特性把握。砲弾の飛翔時間算出、砲の方位角・仰角を計算――」などと言っていました。
「なるほどぉ、これって大砲の打ち方と同じなんだねぇ」
龍骨の中の声は「そうじゃ、ついでに湿度と風力、重力や惑星の自転も考えるのじゃ。そしたらもっと先の的でも結構当たるもんだわい」とアドバイスしてきます。
「へぇぇ……じゃぁ、射程延伸してっと…………撃ちます!」
やけに射撃に詳しい声の主は、多分龍骨の中のご先祖様の記憶なのでしょが、とにかくデュークがその指示に従って「
「よしっ!」
「ゲロロロロロロ――――! あ、あんな遠いところに――――っ!?」
”500メートルも先”の場所で金属音が響いたものですから、ゴローロはギョロリとした目玉をひん剥いて驚くほかありませんでした。
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