次の任地へ

第163話 鈍足戦艦デューク?


 ズゴゴゴゴ――! 


 デューク達がプラズマを吐き出しながら通常空間を飛んでいます。彼らは第四艦隊での臨時任務を終了し、陸戦の単位を確保した上で、次の任地に向かっていました。


 そんな中、デュークは艦首をねじりながらこう言います。


「なんだか、加速のノリが悪いなぁ」


 彼は巨大な推進機関を持っているので、自分の巨体をかなりの勢いで加速させることができるはずでした。でも、最近その性能が微妙に落ちてきているようです。


「最近、推力比が悪いって言ってたわね。多分、デブってきたからじゃない? お腹のあたりがポコンとしてるわよ」


「こ、これは推進剤を多めに飲んだだけだよ」


 デュークは否定するのですが、自分のカラダを計測して見ると、「確かに目方が増えているなぁ……」と思わざるを得ないのです。彼はいくど目かの繭化の後に、重量を増しているのです。


「そのうちスノーウィンド執政官みたいな感じになっちゃうんじゃない~~」


 ペトラはクレーンの形をまるっとさせて、駆逐艦とは思えないほどふくよかなシルエットを持った執政官の事を表しました。龍骨の民も代謝が悪くなると艦型が太ましくなったりするのです。


「まるまっちく……それはいやだなぁ」


 デュークは、スノーウインド執政官のことは好きでしたが、あの丸いスタイルになるのは御免でした。戦艦である彼のカラダが大きくなるの良いのですが、性能に影響するとなれば話は別です。


「なら少し痩せることを考えなさいよ。他の種族の太っちょさんは、ええと――――”ダイエット”ってのをするらしいわぁ」


「あ、知ってる~~! ご飯抜いたりするんだよねぇ~~!」


 ナワリン達は、他の種族から聞いた言葉を引き出しました。食べなければ太らない、とは確かに事実ではあるのです。


「ええ――ご飯はちゃんと食べたいなぁ。装甲の品質とかが落ちちゃうし」


 龍骨の民は無機質有機質のどちらも食べて、カラダを新陳代謝させています。ちゃんとしたご飯を食べないと、船体の各所が劣化してしまうのでした。それはフネの健康にとっても大変まずいことなのです。


「ミサイルとか、武装を吐き出せば、痩せられるかな」


 デュークのカラダの各所には、長射程の対艦ミサイルやら迎撃ミサイルが仕込まれていました。それらは、体内ナノマシンたちが、貯蔵庫にある物質を「カンカンッ! キンッ――そら、出来たぞ!」とばかりに製造しているのです。


「全弾射耗すれば――」 


 ――カラダのナノマシンが体内に余ったマテリアルを加工するので、強制的に痩せることができるのですが――


「駄目よ! 発砲許可がおりていないのに、勝手にぶっ放したら、司令部にめちゃくちゃ怒られるわ」


「ミサイルとか撃ったら、デブリになって、一発アウトで営倉行き~~!」


 適当な宙域でそんな事をすれば、連合航宙法やら宇宙軍法違反で逮捕されてしまいます。隠れて撃っても、副脳に収められた航海日誌ログに記録されるので、駄目なのです。


「むむむ……」


 営倉行きの経験を得たナワリン達は、それなりに反省していました。デュークも軍の規律を破るのは嫌なので「どうしたものかな」などと、龍骨をひねるのです。


「じゃぁ~~運動したらどう~~? 推進器官を鍛えれば、推力比が向上するって爺っちゃたちが言ってたよ~~!」


「それね! カラダの代謝も良くなるから、軽くなるわ。ひとっ走り、超空間ステーションまでビシッと全力噴射運動しましょ!」


「そっか、推進剤もたっぷり有るし」


 彼らは次の超空間航路まで通常航行しているのです。そこまでは、かなりの距離があるのでした。


「縮退炉に推進器官に活を入れなさい!」


「推進器官をブン回せ~~!」


「よしっ、カラダを思いっきり動かすぞ!」 


 デュークはそう言うと、12個ある縮退炉の内、航宙に使っている後ろの6つエンジンの熱を上げようとします。


「よいしょ、よいしょ――――縮退炉――――最大出力!」


 自分の縮退炉が熱く燃え上がり、膨大なエネルギーが作り出されるのを感じたデュークは、次に推進器官をフリフリながら、龍骨の中で強く念じます。


「動け――――僕の推進器官! 両舷全速ッ!」


 するとデュークのお尻から伸びていたプラズマ流がズゴゴゴゴ――! と勢いを増していきました。


「凄いエネルギーだわぁ。……でも、やっぱり加速が足らないわよ」


「圧倒的なほど~~もっさりしてる~~」


「ふぇっ⁉ 思ったような加速が出来ないぞ……」


 ――デュークの横を飛んでいるナワリンたちは、デュークの加速を眺めてそう言いました。彼が放っているプラズマは大したものですが、いつものように加速するには不足だったのです。


「やっぱり、推力比がまずいことになってるわねぇ」


「もっと、エネルギーの供給を増やしたら~~?」


 ペトラが縮退炉の熱を上げたらと言いましたが、デュークは「こ、これで100%なんだよぉ」と答えます。


「100%? あんた、これまで縮退炉に負荷を掛けてなかったの? だからトロくなるんだわ!」


「それって、健康に悪くないかなぁ」


「え~~110%くらいでぶん回すものじゃないの~~? じゃないと、成長できないって、爺っちゃ達が言ってたよぉ?」


 龍骨の民は、そんな風に縮退炉を成長させるのです。でも、実のところ、複数の縮退炉を備えるデュークはこれまであまりその必要がなかったのです。


「カラダができるまで安定性を重視しろって言われたから……」


 テストベッツの老骨船達は、縮退炉の安定と連携を重視した航法を彼に教えていたのですが、そろそろそれでは不足する時期になっていたのです。


「不足化……じゃぁ、全力で、やってみるよ!」


 デュークはそう言うと、龍骨で念じて縮退炉の稼働を高めます。体内物質が凄まじい勢いで炉に放り込まれて、いつもより大きなエネルギーが発生します。


「燃えろ――――僕の縮退炉心臓! うおりゃ――!」


 そしてデュークは、推進器官に供給する推進剤をいつもより多めに投入しました。すると――


「あらぁ……いつもの90%くらいかしら? もっと頑張れないの?」


「微妙に加速が足らないよ~~これじゃぁ戦闘機動に支障がでる~~!」


「こ、これでいつもの二割増しなんだよぉ……」


 これまで持っていた加速よりも微妙に弱くなっていた事がわかります。 


「放熱板に余裕があるから、まだまだいけるけど」


 デュークは放熱板をフリフリさせています。それは鈍く光り、大量の熱を持ったカラダが排熱をしているのを示していました。


「縮退炉が追いつかないのねぇ」


「そうなんだ……これで精一杯なんだよ……はぁ、はぁ、はぁ……縮退炉調整……推進器官最大効率で運行……」


 カラダの各所に副脳を通じて龍骨に入ってくるデータは、「本艦は最大推力で航行中」というものでした。縮退炉を計測している副脳が「これ以上やめとけ、死ぬで」という感じに、アラートを放ってもいます。


「はぁ、どうにもならないわねぇ」


「縮退炉の限界じゃ仕方がないけれど~~」


「ううう…………くそっ……」


 デュークは思わず、いつもの彼なら使わない様な言葉を漏らしました。フネは速度が遅くなると、自分に腹を立てる生き物です。だから彼の眼からは薄っすらと涙が出てくるのも仕方がありません。


「あ、泣いちゃったわ……」


「ごめん~~」


 遅い遅いと追い詰めてしまったナワリンたちがこれはいけないと近寄るのです。でも、デュークはなんとも恥ずかし感じがして、目をつむって、口をヘムっと閉じました。


「あ、龍骨に閉じこもっちゃったわ」


「あわあわ~~ブツブツなにか独り言を言ってる~~?!」


 デュークはモニュモニュと口を動かして、なにやら自分の殻に閉じこもり「ふえっ……ふぇ……ふぇぇぇぇ…………」などと言っています。あまりの悔しさに、龍骨が涙を流しているのでしょうか。


「こ、これはまずいわね……」


「ボク達のせい~~?! あわわ~~」


 そのようにして、ナワリンとペトラが慌てていると、デュークの艦首がピクリと動きます。


「ふぇぇっ……?!」


 目を閉じたままのデュークは、なにかを見つけたかのように、艦首をフリフリとさせ、クレーンをパタパタと振り回し始めました。


「ふぇぇぇぇ? ふぇっ……ふぇふぇ……」


 デュークは口を開いてモグモグさせています。それは目に見えない誰かと会話しているようにも見えました。


「あ、これって……ご先祖と会話してるわね」


「啓示ってやつだね~!」


 龍骨の民は先祖の記憶をその龍骨に残しています。フネにより程度は有るものの、その記憶が時折語り掛けて来ることは普通のことでした。


「私は、一回くらい話したことがあるわね……

”良いか、ナワリン。武装する乙女とは――クドクドクドクドクド”(中略)” ……はぁ、乙女のあり方について、小一時間ほども説教されたわよ。ためになったけれど、うざかったわぁ」


 ナワリンのご先祖は、小姑みたいなフネだったのでしょう。


「ボクは、何回か結構あるよ~~幼生体のときにね~~”お前は船だ! 船の中の船だ! まごうことなき商船になるのだ! 心してうんぬんかんぬん……”とか言ってたけど~~」


 ペトラは、こう続けます。


「次にあったときはね~~

 ”許せ、やはりお前は巡洋艦だったようだ……すまぬ……すまぬ……このイッテツ、一生の不覚………………え、嘘ついたって……嘘じゃない、嘘じゃない、勘違いしただけだっ! だぁぁぁぁぁ、謝っとるじゃろぅがっ! ごめんと言っとるじゃろうがっ――! ワシャぁもう知らん――! 知らんっ!” とか、逆ギレしてから、唐突にフェードアウトしたんだよ~~! プンスカ!」


 ペトラの龍骨に残るご先祖様は盛大な勘違い屋さんだったのでしょう。このようにして、龍骨の民はご先祖と会話をするのです。


 そしてデュークはしきりにウンウンとうなずき、クレーンでお腹をドンドンと叩き、推進機関のスラスタをフリフリとさせて、放熱板をバタバタさせ――


「あははっ!」


 などと、突然目をカッキリと見開いて、笑い声を上げました。


「お、戻ってきたわね」


「やけにハイテンションだけど、ご先祖様から何かアイデアをもらったの~?」


「そうだよ、貰ったよ! こんな、こんな簡単なことだったのか! あはははっ! 残りの半分! 6個の縮退炉を使って! 12個の縮退炉をリンクさせれば良いんだっ! こんな簡単なことだったのか――――! あははははははっ!」


「え、12個って――あんた、そんなに縮退炉を持ってたのっ?! 私は5つしか持ってないわよ!」


「主機、補機、予備の3つで十分なのに~~」


 実のところデュークは、自分のカラダにある前の方の縮退炉は、兵装用にしか使っていけないと勘違いしていたのです。正確には、そのようにカラダを制御するように龍骨が無意識にリミッターを掛けていたのですが――


「よぉし! 全縮退炉全力稼働だ! あはははははははははは――――ッ!」


 この時の彼はとってもすっごくハイテンションです。それもそのはず、リミッターはすでに解除されており、あふれ出るパワーが彼の龍骨を熱く燃やしていたのです。そしてからは、12個の縮退炉をフル稼働させ始めました。

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