第107話 射撃訓練
「ここが訓練星系、辺鄙なところだねぇ。主星は褐色矮星かぁ」
「主星の光がほとんどないから、惑星も熱を持ってないわねぇ」
「く、暗い……ボクは暗いのが嫌いなんだ~~~~~~~~!」
第13巡回戦隊に編入されたデューク達は時折弱々しい光を放つ褐色矮星を主星とする居住可能惑星などが見当たらない実に寂しい感じのする星系に到着しています。
「だけど、射撃テストをするにはうってつけかもぉ~~!」
「そうね射撃訓練をするなら、こういうところが一番だわ」
「そうだね。流れ弾で誰かを傷つけることもなさそうだし」
デューク達がそんな会話をしていると、巡回戦隊旗艦パゴダ・パゴダから通信が入り、長い鼻をもたげた戦隊長パオン准将が福々しい笑みを浮かべて現れます。彼の横では、長い耳をクルクルさせるキ・マージメ中佐が控えていました。
「あ、
ペトラがパオン准将に深々とした拝手の礼をしているのは、他のクルーがそうしているので真似をしているのでしょう。それに対してキ・マージメ中佐が何かを言おうとするのですが、懐の深いパオン准将は「
「さて、そろそろ砲撃訓練を行うゾウ」
「はい准将、あの星を標的にするのですね」
デュークの視覚素子は、褐色矮星を巡る岩石惑星――生命の痕跡どころか、その材料すら存在しない星を捉えています。
「表面がボコボコですね」
標的星の表面は大量の弾痕でアバタだらけになっていました。パオン准将いわく「ちょくちょく利用しとるからな」ということであり、無人の惑星を標的にするのは共生宇宙軍ではよくあることなのです。
「まずはお手本を示すゾウ。中佐、始めてくれ」
「了解! 巡洋艦第一、第二小隊、訓練射撃、始め!」
中佐が切れの良い命令を下すと、戦隊を構成する艦艇の内、10隻ほどの巡洋艦群の主砲がグイッと持ち上がり、キュバッ! キュバッ! と斉射を開始しました。
「おお、重ガンマ線レーザーだ!」
「かなりエネルギーのあるレーザーね」
「着色波長が付いてるんだね~~すっごい綺麗~~♪」
デューク達の視覚素子に映り込むレーザーには様々な色が着いています。共生宇宙軍の艦砲は主に重ガンマ線レーザーであり本来は見ることのできないものですが、訓練射撃においては特殊な波長を用いて観測しやすくしているのです。
「あ、弾着したっ!」
レーザーは虚空をズイっと駆け抜けると標的星のど真ん中に重なるようにして命中し、その後数次に渡って発射された後続のレーザー砲撃もまた全て同じ場所、同じタイミングで弾着したのです。
「ふぇぇぇ、砲撃が完全に同調してる……」
「これってすごいんじゃない~~?!」
「ええ、とても高い練度だわ!」
砲撃など全く行ったことのないデューク達ですが、巡回戦隊の練度の高さをなんとなく龍骨で理解したようです。
「次は君たちの番だゾウ。共生知性体連合共生宇宙軍が准将ヴィグネーシュヴァラ・パオンが発する――」
パオン准将は「連合憲章および龍骨の盟約に基づき三隻に兵装使用を許可する。以後、共生宇宙軍兵器使用条項第3条に基づき云々カンヌン」と、なんだか長ったらしいセリフを続けます。すると――
「ふぇっ! 命令が龍骨に――」
「うわあぉ! なによこれ、副脳にも介入してるわ!」
「わぁ~~~武装のセイフティが解除されたよぉ~~!」
龍骨に届いた命令は解除コードとなってデューク達の火器を始動させました。なぜ、共生宇宙軍の将官の命令がそのような効果を生むのか詳細なことは解明されていませんが、古い時代から連合憲章や航宙法のような様々なコードを龍骨の中に取り込んできたことが影響していると言われています。
「ふぇ、お腹の粒子砲が熱くなってきたぞっ!」
デュークは両舷合わせて24門の高出力荷電粒子砲がジワジワと熱を持ちはじめる感触に驚きました。縮退炉から伝達されたエネルギーを用いて粒子加速器がフルパワーで稼働し、重金属粒子がプラズマとなって大回転旋回を始めているのです。
「格納庫の中のミサイルがアームドになったわっ!」
300セル以上も備えた多目的格納庫にある生体誘導弾がゴゴゴと震えるのを感じたナワリンは、大威力融合弾頭を搭載する対艦弾道弾や亜光速で飛翔する迎撃ミサイル達が「いつでも行けるっす!」と気勢を上げるのを感じました。
「速射砲~~! 近接レーザーも全部いける~~!」
ペトラは格納庫の扉をパカリパカリと開放し、中から中距離から近距離での砲戦を行うための電磁速射砲やら六連パルスレーザー砲などを引き出します。その数は無数と言っていいほどで、艦上の副砲群と合わせれば鬼のような対空射撃が可能でしょう。
このようにして彼らは各種の生体武装の調子を確かめ続け、最後は主砲――重ガンマ線レーザー砲塔とその砲身群に着手します。
「よしっ、エネルギー流路完全開放!」
「ああ、主砲弾薬庫に砲弾が溜まっていくわ――――!」
「わぁ~~漲ってくるぅ~~!」
縮退炉から強大なエネルギーを受け取った彼らの砲塔は、その基部にある弾頭生成器――大電力を用いた電子ドライブで陽電子を生成し磁場で閉じ込め主砲弾のパッケージをガチャコンガチャコンと生成します。
「砲塔内部安定――砲身、標的星に指向するね」
「射撃管制装置起動! よし、みんなとリンクさせるわっ!」
「副脳に皆のデータを入れるぞ~~! ボクかつ皆、皆かつボク~~!」
強力な冷却装置を持つ長大な砲身が順調に稼働していることを確かめたデュークら三隻は、お互いの射撃用副脳をリンクさせて統制射を行う準備を始めました。他種族の軍艦達と同じくこれを行えば射撃精度が著しく高まるのです。
「距離良し、いつでも行けるわ!」
「上下左右角度良し~~! 狙いはばっちりですぞぉ~~!」
「艦体動揺修正――後は発砲信号を待つだけだね!」
ナワリンは視覚素子をキラリと輝かせて標的星との距離を測り、ペトラは射撃用副脳を用いて砲身の角度をビキリと固定し、デュークは艦体の動揺を読み解いてカラダをキリリと安定させました。
「准将、各艦用意よしとなりました」
「よろしい、主砲、うちぃ――――方、始めっ!」
准将の命令は共生宇宙軍の暗号コードとなりデューク達の伝送用副脳に飛び込んだ後、射撃用副脳を経由して砲塔内に収められた砲に伝わり、コードを受けた砲は薬室に収められた弾薬パッケージに「開放」というシグナルを送ります。
磁場絶縁体で出来ていたパッケージが解けて陽電子が飛び出すと周囲に配置されていた電子と結合して、極低温の凝縮体であるポジトロニウムとよばれる物質と反物質の複合粒子を形成しました。
形成された粒子は142ナノ秒という僅かな時間で対消滅を起こし、超硬重金属でコーディングされた砲塔の底で強力なエネルギーを持つ強力なガンマ線に変化すると、砲身の中を光の速さで駆け抜け、ギョガ――――ッ! という爆音と共に三連装三基、連装四基、連装五基合わせて27門の砲口からガンマ線レーザーとなって飛び出したのです。
「やった、撃てたぞ!」
これが始めての主砲射撃でしたがデューク達は全く問題なくこれをこなし、続いて
彼らは視覚素子の機能の一つであるタキオン感知器で、自分たちが放ったガンマ線の行方を追いました。
「着弾まであと5秒ね!」
「3・2・1・だん~~~ちゃくっ!」
重ガンマ線レーザーは大気を持たない標的星に減衰することなくヒットすると、星の表面を形成する岩盤を瞬時に蒸発させて穿孔します。莫大なエネルギーは大地をえぐりながら周囲の物質を赤熱化、プラズマ化させ――
「あっ、爆発したぞっ!? すごい火の玉だっ?!」
地中深くで爆発へと至り、レーザーの着弾点を中心に巨大な光球を発生させることとなり、蒸発した岩盤が周囲の地形を爆砕しながら放射状に広がってゆくのです。
「ふぇぇぇ、爆発で山が消し飛んだぞ?!」
「ガンマ線レーザーって地形が変化するくらいの威力があるのねぇ……」
「ほぇほぇ、自分の事ながらおっそろしい武器だね~~」
そしてその数時間後――
「しゃ、射程は短いけれど、縮退炉直結のビーム砲ってこんなに威力があるのか……が、ガンマ線レーザーの数倍のパワー……」
デュークは主砲の次にテストした横腹についている荷電粒子砲群をクレーンで触りながら「いや、それ以上だぞ……」と驚愕の表情を見せました。それもそのはず、彼が放った大火力の熱線の直撃を受けた標的星の表面は半径100キロほどのドロドロのマグマの海となっているのです。
「じゅ、重力子弾頭って、怖いわ。こんなものが体中に詰まってるなんて……」
ナワリンがカラダの各所についている多目的格納庫を確かめて「勝手に爆発しないわよね……?」と恐れおののきます。それもそのはず、彼女が持つ多数の格納庫には重力崩壊によって戦艦の外殻すらやすやすと削り切る重力子弾頭入の対艦弾道弾が詰まっているのです。なお、彼女のミサイルにより、地殻をえぐられた標的星はやはりマグマの海状態となっています。
「光子魚雷っておっそろしぃ武器だよぉ~~!」
ペトラが艦首に触れて「当たったら対消滅するんだよぉ~~! マジヤバス」と、目を白黒させています。それもそのはず、彼女が艦首部にある射出口からポイッ!と放った飛翔体は、反物質を弾頭とした対消滅式重魚雷――標的星の地表で炸裂したそれはまばゆい閃光とともにレーザーによる火球の数倍もの爆発を引き起こし、やはり標的星をマグマの海に変えていました。
そしてその光景を眺めたパオン准将は「なんという威力だ……ゾッとするゾウ……」と呟き、キ・マージメ中佐は冷や汗で外れた眼鏡をかけ直す羽目になったのです。
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