第108話 辺境宙域巡回戦隊
兵装のテストを終えたデュークたちは第13辺境宙域巡回戦隊の一員として、いくつかの任務に従事することになりました。
そして数カ月後――――
「宇宙海賊に、宇宙マフィア、宇宙テロリスト……辺境宙域というのは、危険なところなんだなぁ」
辺境は大変にカオスなところで、非合法スパイスを売り歩く反社会的組織や、様々な星系に火の粉を撒き散らすアナーキーな輩が徘徊しているのです。巡回戦隊はそのような者たちから共生知性体連合の権益を守るべく日々活動していました。
「辺境野郎Bチームなんて笑える人たちもいたけれどね」
Bチームは傭兵のくせに不殺をモットーとした辺境宙域を渡り歩く愉快痛快な集団であり、デューク達は彼らと協力関係してとある惑星における政治的な騒動を解決していました。
「でも、銀河刑事のおっちゃんは格好良かったよぉ~~!」
ペトラが言っているのは共生知性体連合警察司令長官直轄の特務武装警察官のことで、連合中央から辺境へ逃れた極悪宇宙人を逮捕する任務を帯びた彼が、デューク達をお供にとある軌道プラントで大活劇を繰り広げたのは数週間前のことです。
なおペトラは彼の特徴的な変身ポーズをパクって、「昇天!」とか言いながら装甲表面のナノマシンをいじって商船に化けるという新しいテクを身につけていました。
そんな感じで辺境宙域のパトロールにも慣れて来た今日の彼らは、戦隊の艦艇200隻とともに、とある星系へ向かっています。
「ここってずいぶん荒れてるよぉ~~! 航宙しづらくって仕方がない~~!」
「確かにあっちこっちに落とし穴があるのだもの。なんでこんなにたくさん重力異常があるのよ」
「聞いたところによると、古い時代このあたりで恒星間戦争があったんだって」
デュークが戦隊のクルーから聞いた所によると、今は亡き上代の文明人達のあいだで勃発した戦争において、時空に影響するほどの大量破壊兵器が使用されたのではないかということでした。
「じゅ、重力子弾頭よりも危険な兵器ですって?」
複数の任務をこなすうちに重力子弾頭の取り扱いにようやく慣れてきたナワリンですが、その威力に慣れることはありませんでした。そんな重力子弾頭よりも危険な兵器と聞いて彼女は「昔の人は馬鹿だったのかしら?」と思うのです。
「で、こんなところに何が居るのさ~~~~? 宇宙海賊とかかなぁ~~?」
「生真面目おばさんは、不明艦の探索とだけ言ってたわね」
生真面目おばさんとは戦隊におけるキ・マージメ中佐のあだ名です。
「ナワリン、中佐のことをおばさんっていうのやめた方がいいよ」
「だってあのおばさん、いっつも生真面目で厳しいんだもの。他の皆もそう言ってるわよ?」
それなりの期間、巡回戦隊の任務に従事してきたナワリンは、ことあるごとに中佐からかなり厳しい指導を受けていました。とある惑星で休眠していた宇宙怪獣を、迂闊にも起こしてしまったときにメッチャクチャに叱られたのはいい思い出です。
「だからさぁ、顔に出ない人だけど、結構気にしてるみたいだから」
「でも、おばちゃんはおばちゃんだよ~~!」
キ・マージメ中佐は40絡みですから、ペトラからしてみても十分おばさんなのです。なお、彼女は変に要領がいいところがあってあまり叱られたことがありませんから、おばちゃんは愛称のようなものでした。
「まったく、聞かれてたら大変なことになるよ……」
「大丈夫よ、私達の会話って暗号化してるもの。電子戦に特化したサイキックでもいない限り、副脳同士の会話が漏れることはないわ」
「まぁ、そうだろうけれど……それはそれとして、その中佐が言うには最近辺境宙域で辺境の技術には不釣り合いな航宙デバイスとステルス性能を持ったフネが確認されているんだって。諸元から察するに、どうやら
「人類史上主義……それってニンゲン族のことよね。でも、あいつら辺境と反対側のところに居るはずよ?」
共生知性体連合の中でも最強の戦力と呼ばれる第一艦隊が対峙している人類史上主義連盟は、共生知性体連合を挟んで数千光年も離れている場所に存在しています。
「先の大戦の残党――ほら、昔、龍骨星系の近くまで攻め込できたニンゲンがいたって聞いたことがあるでしょ?」
「その話はおばあちゃんから聞いてるわ。どうやってか知らないけれど、1000光年単位の大距離ジャンプを行った一個艦隊が連合の裏手に潜り込んできて、散々酷いことをしたってあれね」
「たくさんの星や種族滅茶苦茶にした宇宙海賊よりも酷い奴らだ~~!」
先の大戦についてデュークは老巡洋艦オイゲンから昔話として教えられています。他の二隻もニンゲン艦隊の突然の侵攻とその後の激戦、そして龍骨星系での攻防戦について老骨船達から教えられていたようです。
「でも、あの戦争って30年以上も前のことだわ。それだけの時間があったのに、なんでまだ辺境にいるのかしら?」
ナワリンが素朴な疑問を口にすると――
「この当たりの辺境星系は超空間航路が限られている。そうなるとスターライン航法頼みになるけれど、連合の勢力圏を大回りする必要があるから、下手をすれば数十年単位の航海になるのよ」
突然キ・マージメ中佐が通信を飛ばして、デューク達の会話に入り込み「辺境の奥深くに根拠地を構えて、勢力を蓄えているのだ」と説明を加えました。
「ははぁ、なるほど、帰るのを諦めたんですね…………あれ中佐? 僕たちの会話を聞いてたのですか?!」
デュークがそう言うと中佐は「私の専門って電子戦なの。あなた達、暗号化が緩んでいるわよ」と言うものですから、ナワリン「ヤバ……」と口ごもり、ペトラはキリリとした表情で「お疲れさまです。中佐殿ぉ~~」と媚を売りました。
「中佐、今回の任務って、そのニンゲン達と戦うのですか?」
「戦闘の可能性もあるけれど、彼らの新造艦の存在を確認するのが目的ね。あそこには彼らの前進基地があると目されているからそれも探索する必要もあるの。現地の星図は200年間更新されていないから気をつけて」
巡回戦隊の目的地はかつて連合船籍のフネが漂流同然に行き着いたことがなければ、その存在すら認知されないような場所だったのです。
「これまで調査することなく打ち捨てられていた場所ですか。ここにニンゲン達の新造艦が隠れているんですね?」
「ええ、不明船が最後に観測された場所を丹念に分析した結果、スターラインはこの星系の方に向いていたわ。確度は高そうよ」
「中佐ぁ~~そのニンゲンの戦力って、どんだけですかぁ~~?」
「先の大戦から30年間、辺境宙域では相当数の残党を討ち果たしているけれど、また増えているみたいなのよね。目的星系には新造艦が最大で100隻程度がいると見ているわ」
先の大戦後ニンゲン達は複数の集団に分かれ辺境に潜み、辺境巡回戦隊の討伐が繰り返されていましたが、辺境の奥地にまでは入り込めないため、それなりの戦力があると考えられていました。
「僕らは200隻、数の上では有利ですね」
現在の第13辺境宙域巡回戦隊は200隻ほどの艦艇で構成されており、予想される敵戦力が100隻程度であれば力押しに揉みつぶすことも可能かもしれません。
「でも、気をつけるのよ。奴らは本当にしぶとい奴らだから」
ニンゲン達との戦闘経験が豊富な中佐は「各艦、気を引き締めなさい」と告げたのです。
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