第237話 最終防衛ライン その4

「右翼の部隊が全滅だと? 最新鋭巡洋艦が10隻がか」


 機械帝国大型戦艦プロメシオンの艦橋で、デュランダル男爵が巨体を震わせながら、右翼に配置した巡洋艦戦隊がものの30分程で全滅したという報告に、耳を疑っていました。


「まさか、あの白い超大型戦艦のせい? 右翼にいたのはダミーじゃなかったの?」


 辺境貴族グレゲル伯爵アレクシアは「ちょっと話が違うわよ!」と憤りました。


「本物だったようだな。定石ならば防衛ラインの中央に配置するのが本当だがね」


 機械帝国は連合分艦隊の超大型戦艦――デュークの動向に注意しており、正面戦力を中央に集中していたのですが、肩透かしを食らった上に、機動戦力の半分を丸々喰われてしまったのです。


「白い戦艦が――あれは本物だ」


 続いて入ってきたデータ解析から、戦闘の様相を大方把握したデュランダルは「中央の部隊は戦意が高い……それが仇となったか」と呟きました。


 小惑星追撃の任務を受けた彼らは、皇女アルルから戦力の補給を受けていたのですが、中央最精鋭の巡洋艦部隊を直率することは編成上の問題があり、右翼で集中運用していたのです。


「それが全滅……まずいわ。責任問題で粛清されるぅ~~!」


 アレクシアがワチャワチャと腕を振り回します。でも、その声はどことなく嬉しげでした。


「お前、あれが本物だと分かって、そのままにしていたのか?」


「何よそれ、人聞きの悪い事言わないでよ。中央のエリート様が、めちゃくそいけ好かないやつだからって、私は味方を見捨てはしないわよ」


 続けてアレクシアは「味方ならね」とニッコリと笑うのです。その意味なセリフ柄を聞いたデュランダルは小山のように大きなカラダから「はぁ……」と大きなため息をもらすのです。


「そんなことより、あれに乗ってるのは、やっぱあのときの奴かな?」


「わからん――いや、そうだと考えて行動すべきだ」


 アレクシアが「だと良いね~~」とスクリーンを眺めていると、オペレーターが「白い戦艦が、我が方に向かって加速を開始!」と報告を上げてきます。


「あれ? あれ? 白いあいつがくるわよ」


「ふむん。作戦目的に変更がないのであれば…………」


 一方その頃、デュークは艦尾に設置された対消滅ブースターの最後の一つを使って戦域を移動しています。


「加速――終了です! 最後の対消滅ブースターを使い切りました!」


「もうさっきのような無茶な機動はできんな」


 ラスカー大佐は「まぁいい、次の戦域に入れれば、それで十分だ」と言い、通常加速をデュークに命じました。デュークのカラダが通常加速に戻ると、司令部内の対G防護態勢が解除されます。


「よし、艦体の各部状況を報告」


 ラスカー大佐は、これまでの戦闘で受けたダメージについて報告を求めます。司令部ユニット内でデュークのカラダをモニターしているスタッフから「叩かれた装甲は自動補修が始まってます」「兵装に問題なし。冷却材があればいくらでも撃てます」「縮退炉、オーバーブーストの影響で乱れがありますが、許容範囲内」などと報告が帰ってきました。


「デューク、推進器官の調子はどうだ? プラズマは安定しているみたいだが」


「推進剤がある限りは、いつまでも飛んでいられますよ! って、それより――カークライト提督は大丈夫なんですか?」


「おぅ、大丈夫だ。強制的に眠ってもらって、医療用ナノマシンを大量投与したから問題ない」


 最初の大加速時に肺にダメージを負ったカークライト提督は、現在医療用ナノマシンを含んだジェルで満たされた対Gカプセルに移送されています。大佐が言うには、その装置により、提督は一種の仮死状態に置かれており、容態は安定しているというのです。


「ここは司令部ユニットだからな、医療機器は充実しているんだ」


 ラスカー大佐は「ヒューマノイドであれば、最悪、首だけになったとしても助かるぞ」とも言いました。恒星間制勢力の中でも高い科学技術を持つ共生知性体連合の医療技術というものは、それだけのことが可能です。


「ま、龍骨の民の場合、龍骨が折れてなければなんとかなるのと同じだ」


 フネというものは、艦首がバッサリと砕かれたとしても、応急処置を間に合わせて修理できるところまで回航できれば、復活することができるのです。


「じゃぁ、提督は助かるんですね」


「ああ、治療ができる所まで。戻れればな」


「わぁ!」


 デュークは「良かったぁ」と安堵しました。


「だが、今後は、提督は指揮を取れんぞ。我々だけで作戦を完遂せねばならん」


「あ、そうか……意識が無いんじゃ、そうですよね……」


 さしもの提督も意識を失った状態では指揮を取ることができないのです。


「一旦仕切り直しを図って、後退したい所だが――」


 ラスカー大佐は「それはできんな」と呟き、デュークは「そうですね」と答えるほかありません。彼らの目には、アーナンケに向けて進軍する敵中央部隊の姿が映っていたのです。

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