第360話 調査終了?
「戦争ってものは、こういったものから段々と進化していくものなのよ」
エクセレーネは「士官学校のライブラリにはこれとは違った時代のデータがあるわ。戻ったら眺めてみるのね」と嫣然とした笑みを浮かべながら先輩らしい助言をしてくれます。
「わかりました。ところで……」
デュークはそこで口ごもると、艦首を傾げながら「初めて見たものだし、戦場の勢いと熱気に当てられてはっきりと認識できなかったんですけれど」と言いました。
「ここで行われているのは同族間戦争ですよね?」
「そうね。クマ同士、同族が戦ってるわ」
「そう言うものがあるってことは知識としては知っていましたが――」
デュークは「どうしたら、同族撃ちができるのか理解できません」と続けました。龍骨の民は部分的にプログラム的思考を持っており、本能のレベルで同族殺しをすることができない生き物なのです。
「同族相争う中で発展する――共生知生体連合の加盟種族の多くが似たような歴史を持っているわ。私達キツネのご先祖たちも同族間戦争をやりながら発展してきたの」
エクセレーネは「負の種族的特性と言う物ね」と説明しました。
「そして文明が発展していけば、いずれ同族間で殺し合いをすることはなくなるかもしれないわ。私達キツネの祖先たちのようにね」
エクセレーネの祖先達も眼下のクマたちのように殺し合いをしていた歴史があるのですが、恒星間航行種族になるまでにそれを克服してきたのです。
「だがな、キツネの騙し合いは治らんな。お前んとこ、二枚舌で有名だろ」
「否定できないのが悲しいわね」
キツネがずる賢いのは負の特性というよりも、進化において身に着けた資質のようなもので、特にキツネの上流階級ではそれが顕著で美徳の一つとして考えられているほどです。そして外交的な側面から見れば、タヌキ族の腹芸と双璧を成すというほどに定評のあるものでした。
「そういうあなたのペンギン族はどうだったかしらね?」
「俺様の種族か? まぁ、ちょいとばかり複雑でな。ご先祖様達は
スイキー曰く、古代ペンギン族にはエンペラ・アデル・ボルフン・パスタ・コガータなどの氏族的系統が存在し、それぞれ性質が違い、程度の差こそあれ過去には相争うこともあったようです。
「ま、たくさんの血が流れたのは事実だな。だが同時に血が混じりあい続け、最後にエンペラって一つの種族になってからは、大規模な戦争はしなくなったぜ」
恒星間航行種族となったペンギン族は今はエンペラという種族にまとまっており、古代ペンギン族の血統をすべて混ぜ合わせたようなものになっていました。帝国皇族たるスイキーは古代エンペラの血を多く引き継いでいるため、大柄で温和な感じは強いのですが、嘴の作りや歩き方にコガータの特徴が残っています。
「しかしまぁ、コガータの血が強く残っていたら、どうなっていたことやら……」
実のところ、古代コガータペンギンはチッコイ癖に凶暴であり、オスもメスも尋常ではない攻撃力をもつ無敵の戦士集団だったと伝わっています。
「コガータって歴史映画で見たことがあるわ。タマゴを崖下に落として生まれる前から強さを選別するのよね? まるで百獣の王みたいにね」
「うむ、昔はそういうことをしてらしい」
共生知生体連合では様々な種族の歴史を題材とした映画が作られていました。
「ふぇぇぇ、そんなことをしていたの⁈」
スイキーが肯定すると、デュークは「マザーから産まれたばかりの幼生体を宇宙に放り出すってことじゃないか」と、龍骨をブルっとさせ、いつも真っ白な艦首を蒼白なものにしました。
「あと、コガータは産まれて来たばかりのヒナのときから狩りをさせ、毛が生えたらすぐ戦士になって戦場で鍛え上げ、大人になった頃には一匹で数百匹を屠る狂戦士になるのよね?」
エクセレーネ曰く、古代コガータペンギンの映画は、「100万vs300」という題名を聞いただけでスパルタンな気持ちになるものや、「鬼⚔🐧ミ🥚」のような不穏すぎる記号の綴りがタイトルであったりするものが目白押しとのことでした。
「それはまぁ、映画だからな」
「誇張されているというのかしら?」
「あ、いや…………」
エクセレーネの問いにスイキーは「実はゴア表現制限で控えめに表現されているんだぜ」と吐き捨てるように言いました。古代コガータペンギンは想像を絶する死狂いな生き物だったようです。
「だが、そんなご先祖でも長い時間を経てどうにかなるもんだ。ここのクマたちもどうにかなるだろうよ」
そこでスイキーはポン! とフリッパーを叩き合わせるとこう続けます。
「この惑星の調査もこれくらいでいいだろう」
士官候補生達の任務はこの星系までの航路探査であり、あと数百年は宇宙に進出することもないであろう住民の調査は本来的には二の次でした。
「あとは他の星に目立つものがなければ、帰るだけだぜ。他の星のデータは届いているか?」
「星系内にばら撒いておいた観測機の情報をみているけれど、あまりもめぼしいものはないね」
デュークが星系内に撒いていた観測用の無人観測機のデータを確認しましたが、この星系には他に調査する必要がある星はないようです。
「そうか、それじゃ手じまいだな。使い終わった観測機は処分だ」
観測機の位置を確かめたスイキーは「あれは使い捨てにするもんじゃねーが、時間の方がもったいないからな」と言いました。この星系に存在する文明は産業化もさほど進んでいない程度の技術力しかありませんが、先々宇宙航行技術を手に入れた時に発見されても困るので処分が必要なのです。
「もう全部恒星に落ちる軌道に入れたよ。加速を掛けて落としてやれば、大体1か月できれいさっぱり燃え尽きるかな」
「じゃあ、加速コマンドを打ち込め」
と、スイキーが観測機の処分を指示した時でした。「ちょっと待って」と、エクセレーネが待ったを掛けました。彼女は顔を恒星に向けなにやら瞑目し、ピンと耳を立てていますから、どうやら恒星をサイキック探査しているようです。
「恒星の調査は終わっているかしら?」
「大体は終わってますけど」
「観測機は恒星の熱にどこまで耐えられるかしら?」
「共生宇宙軍の軍用観測機だから相当なところまでいけますよ。それこそプロミネンスの直撃でも受けなければ、結構持つと思います」
それを聞いたエクセレーネは「では、恒星表面を詳細に観測できるわね?」と尋ね、デュークは「はい、短時間で良いなら」と答えました。
「おいおい、何をしようってんだ。ありゃ、ただの恒星だぜ。恒星学の研究材料にもならんぞ?」
「そうね、平々凡々の星系――主星も同じようなものかもしれないわ」
「じゃぁ、なんで観測なんてするんだ?」
「あのクマたちに気を取られて、気づけなかったのだけど――」
そう言ったエクセレーネはひとつ尻尾をピン! と伸ばします。それはA級サイキックである彼女が何かを見つけたということを示していたのです。
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