第250話 激突に至る道

「直撃してないっ?! なによあの動き、想定外だわっ!」


「粒子砲だ、接触の寸前に粒子砲の反動で進路を修正したのだっ!」


 粒子砲をスラスタ代わりにぶっ放して進路修正したデュークが、プロメシオンの艦首戦艦の舷側をゴリゴリ削りすり抜けると同時にドカドカと至近砲撃を叩き込んでいます。


「フハハ、まったく見事な操艦であることよ!」


 ギリギリのところで進路を修正し至近距離から乱打を浴びせる――それは空間戦闘の機微を突いたものであり、同様の技術を持ち合わせるデュランダル男爵などは「やりおるっ! やはり、あれには相当な舵取りが乗っているぞっ!」と喝采を上げたのです。


「艦首戦艦で潰せると思ったのに――してやられたわっ!」


 艦首重装戦艦を飛び道具として用いたアレクシアですが、思惑のとおりにデュークを仕留めることは出来ず「これはまずったかしら?」というニュアンスを含む言葉を吐き捨てました。


「気に病むな、アレクシアっ!」


 艦首戦艦を射出して敵艦にぶつける作戦により致命的な打撃を与えることは出来ませんでしたが、戦場指揮官として相当の場数を踏んでいるデュランダルは「戦場の機微は、計算できるものではないっ! 指揮官たるお前の判断は間違っていない!」とフォローを入れてから、「次の動きを指示しろ!」叫びました。


「指示も何も――やれることは唯一つね」


 彼我の状況をサッと確認したアレクシアは――


「プロメシオンをぶつける一手! 相打ちになってもやつを殺る! このフネが殿下に賜与されたものだとしても、捨てる覚悟でぶち当たるのよっ!」


 と、瞬時に判断を下しました。これまでいろいろと考えを巡らせながら、常に計算高く戦闘指揮を執り行って彼女ですが「グレゲル家の武威を示せ!」と、電子頭脳が完全なる武人モードに切り変わったのです。


「フハハハハハハハハハハハハハッ! 準備はとっくにできておるぞ!」


 策がはまらなくともそれに拘泥せず、さっさと次の行動に移れるのは指揮官として重要な資質です。デュランダルは年若い従妹――実のところ武将としては弟子のような彼女がサラッと気持ちを切り替えたことに満腔の笑みとともに「棟梁、御大将、指揮官殿! この太刀をお使いくだされ!」と言うのです。


「ええ、見せてあげるわ、斬艦の太刀プロメシオンの力! オーホッホッホ!」


 金髪縦ロール貴族令嬢式の高笑いを復活させたアレクシアの電子頭脳は、武人貴族グレゲル家の棟梁として完全に覚悟を決めたものになっていたのです。


 そのようにして腹を括ったメカの貴族が呵々大笑している同時刻、デュークは――


「このままだと真正面からぶつかりますっ!」


 突っ込め突っ込めと言われて敵艦に迫ったのはいいものの「イタタタ、かなり装甲が削れてるんだよな」などと内心少し弱気な言葉を漏らしているのです。


「下手に躱そうとするな――アレはデカくて重いんだ。真正面から当って敵の重心を射抜かんと応力がえらいことになって艦体がへし折れるかもしれん! だから真正面からぶち当たれ!」


 速度が乗った巨大戦艦同士の激突は中世の馬上槍試合にも似ています。舳先の真芯を捉えることが出来なければ、激突の衝撃が偏ってしまえば艦体が折れてしまう可能性があるのです。


 その可能性を認識したデュークは「なるほど……」と納得します。ついでながらデュークの龍骨に残る先祖も「賛成多数!」「異議なし!」「突っ込め!」などと言っていました。

 

「残存しているリソースは全て艦首艦外障壁にぶちこめ! 接触の瞬間最大出力を掛けるんだ! 艦載AIっ! 司令部ユニットの慣性制御装置で支援しろっ!」


 ラスカー大佐は接触までの僅かな時間の間にサラサラと必要な指示をだしてゆきます。宇宙戦艦で衝角戦をやるなど共生宇宙軍のまともな軍人ならば考えることすら無いのですが、これほど差し迫った状況でそれができるのは、彼が大砲屋としてだけでなく軍人としても優秀だからこそなのです。


「接触まであと10秒――――進路そのまま、ヨーソローっ!」


 敵艦との距離が指呼の間にまで近づいたところで、ラスカー大佐が「衝角戦、はじめっ!」と短く咆哮します。


「舵そのまま――――衝角戦始めます――――っ!」


 そしてデュークはゴォォォォォォオンとした重力波の雄叫びを上げると、その身を打ち捨てるかの勢いで、敵艦との間に残った距離を詰めたのです。


 二隻の超巨大戦艦が激突の時を迎えるのは、それから数秒後のことでした。

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