第251話 障壁合戦の末に
「超電磁プラズマシールド展開ッ! 慣性空間壁形成ッ! 量子中和フィールド全面展開ッ!」
それは惑星間を光速度の数十パーセントで走り回り恒星間を超光速で渡るこの時代の宇宙船においてはデブリ対抗策として必須のものであり、恒星間戦争においては敵の攻撃を防御するものです。
戦艦の装甲をも貫徹する大火力の重ガンマ線レーザー、強固な艦体構造物すらねじ切る対消滅の爆炎、あるいは縮退炉のブランケットすら吹き飛ばす重力子弾頭――そのような剣呑な兵器用いられる戦場では、バリアの性能が戦の雌雄を決すると言っても過言ではありません。
「接触まであと5・4・3――縮退炉オーバーブースト!」
このバリア技術というものは様々な方式が存在し、それぞれに一長一短得意不得意の面があるためこれらを複合的に用いることが一般的であり、その性能差というものは艦外障壁を作り出すためのパワーリソースの大小による所が大きいものです。
「ぶちかませ――――ッ!」
「う、うわぁあああああああああああああ――――ッ!」
そして、最大出力を超えたオーバーブーストを用いたデュークと、数隻の戦艦から構成される縮退炉クラスタを用いるプロメシオンのバリア合戦が始まり、強力無比なる縮退炉が作り出す堅牢無比な
直後バリアが食いついて――――両艦の位置関係が一時的に同調します。これは量子的な効力を持つ艦外障壁がベクトルを相殺しあうという効果です。
「バ、バリアがゴリゴリ削れてくぅ――!」
「あちらさんも同じだ! 押し負けるなぁ――っ!」
デュークの眼前では、衝突一歩手前のところで激しい火花――その一つ一つが超高温の粒子であるそれを無数に発生し、僚艦の間にある相対速度がバリアによって熱に変化し、あるいは重力波の衝撃と変化しているのです。
「か、艦首がもげそうですよぉぉぉぉぉ――――!」
「艦首を正対させて衝撃を龍骨で受け止めろッ!」
デュークは「も、もってくれよ僕の龍骨――――!」と艦首にかかった負荷を調整し、その衝撃を最も堅牢な構造物である龍骨で受け止めました。バリアとバリアの間にある凄まじいエネルギーが彼のカラダをガタガタと震わせ、並の戦艦であればそれだけで消し飛ぶほどの衝撃です。
そして――
「て、敵が、目の前で止まっていますっ!」
「くっ、実力伯仲だと⁈ 完全に相殺しあっているじゃないか!」
超巨大戦艦のパワーリソースは期せずして均衡伯仲と言った形で行われていたため、お互いの間に僅かな間隙を置きながら、ゴリゴリとバリアを削り合う状態で停止したような状態になっています。
「こうなれば、このまま相手のバリアをぶち破れ! 敵のそれよりも大きなパワーを出すんだ。航行用縮退炉も使って、フルパワーで――うっ?!」
ラスカー大佐が「パワーリソースを全て艦外障壁に!」と命じたその瞬間――彼はデュークの艦外障壁の避弾経始が低下していることに気づきます。デュークの艦外障壁発生装置に異常が生じたことを示すアラートが鳴り響き始めたのです。
「くそっ、これまでのダメージがここで出てくるかっ!」
デュークの縮退炉にはまだ余力があるのですが、戦闘で多くのダメージを受けた艦外障壁装置は相当に疲弊しているのです。ラスカー大佐は「艦首バリアの出力を補正しろっ!」と叫びますが、ジリジリと劣化を始めた艦外障壁はものの数十秒で限界を迎えることがわかりました。
「大佐、もう脱出しましょうよ!」
「駄目だ、この状況下では自滅行為だ!」
ラスカー大佐が言うには、「巨大な質量同士が押し合うような状況で、下手な動きを見せればどのような損害を受けるかわかったものでない!」ということなのですが、その瞬間、ピキッという嫌な音が鳴り響くのです。
「りゅ、龍骨が……!」
「い、いかん。龍骨にまでダメージが入っていたか?!」
その上、酷使しきった彼の龍骨にはかすかなひび割れが生じ始め、デュークは「痛い、痛いよっ」と敵から受ける重圧だけではなく、これまで感じたことのないような激痛に涙します。
「いだだだだだだ! バリアの前に龍骨が折れるぅ――!」
「ま、不味いっ!?」
ラスカー大佐は「なにか一撃で、一撃で敵のバリアをぶち抜ける手段は無いのか?!」と考えるのですが、長時間覚醒状態に維持した上に対高G戦闘を繰り返していた彼の頭には、相当な疲労が溜まっていますから逆転の妙手は全く浮かんでこないのです。
「大佐、大佐ぁ――――痛いですぅ――――!」
「こ、こうなれば――――!」
艦長席の後方にスタスタと進んだラスカー大佐は「こ、これを使う日が来るとはなっ!」と、なにかのスイッチが付いた装置を眺めます。
「使いたくはなかったが――――」
装置の前で大佐は「つ、使うぞ、つかっちゃうぞぉ!」とガタガタと震えながら逡巡を見せました。
「もうなんでもいいから、やっちゃってくださぃぃぃっ!」
デュークが「龍骨が折れる寸前なんです――――!」と絶叫すると、大佐は「やむをえまい!」と、”ドクロのマークが付いているボタン”を押し込むのです。
「お、押してしまった……艦長代行権限で自爆装置を作動させたぞぉ――――っ!」
「ふぇっ?! じ、自爆ってっ?!」
「司令部ユニットを自爆させて、爆発の威力で敵のバリアを砕く! その瞬間、お前の主砲をぶちかませ――!」
「ほ、本気ですか――――?!」
「本気と書いて、マジと読むのだ! 総員退艦、総員退艦っ! 爆発まであと30秒だ――!」
断固たる口調でラスカー大佐は司令部ユニットのクルーに命じます。乗組員を護る対Gシェルは瞬時に脱出用カプセルに変化し、バシッバシッと慣性制御装置の力で艦の外に排出されるものですから、その命令に従えばクルー達の命は助かる可能性が出てきます。
ですが誰一人として、脱出しようとするものはおらず、「ダメです、サポートがなくなれば、デュークは数秒ともちません!」ということであり、「縮退炉のセイフティはすでに外れていますっ――こうなれば縮退爆発させてやりましょう!」と、脱出を拒否したのです。
「グルルルルル! よしっ俺も残るぞ! 敵を道連れにしてやるっ!」
ラスカー大佐は深々と頷くと「ドンファン・ブバイもご照覧あれ!」などと、戦場神の信者でもないのに神の御名を高らかに読み上げ、司令部のスタッフ達も「くたばれメカロニア、くたばれメカ貴族ども!」「共生万歳! 宇宙軍は銀河最強っ!」「行きましょう、スピードの向こう側にっ!」などと、箍が外れたような奇声を上げました。
「ふぇ、僕が壊れる前に、皆のほうが壊れてたぁぁぁぁぁぁっ?!」」
大佐もスタッフも優秀かつ分別にあふれる軍人でしたが、対高重力戦闘用ナノマシンをしこたまぶち込みながら極限状態の綱渡りを行うことで、徹夜続きで社畜の如き精神状態――――「ああ、これで楽になれるや」状態に陥っていたのです。
それは演算能力を全開まで高め熱暴走状態に陥った艦載AIも同じ様子で、「Goodbye friends《あばよダチ公》」などと、気の早いメッセージを漏らしています。
デュークはそこで「や、やめてくださいっ、自爆なんかしたら駄目ですよ!」と叫ぶのですが、ラスカー大佐は断固たる口調で「駄目も何も、あと15秒で爆発だぁ!」と叫びました。
「待って――!」
「待たん、待たんぞぉ!」
「だから、待って待ってぇぇぇぇぇぇ――――――っ!」
「ぐははは、後は任せた!」
絶叫するデュークを無視したラスカー大佐が「あと10秒だぞっ!」などと気勢を上げ、諦観に満ち満ちた司令部スタッフたちが「サラバ!」とスパリとした敬礼を下して覚悟完了したその瞬間――――
「なにかが来てるから、自爆は待ってぇぇぇ!」
デュークの優れた視覚素子は、いずこからか照射された何かの電磁エネルギーを捕捉していたのです。
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