第257話 味方艦との邂逅

「じゃぁ、最適コースで巨大ガス惑星に向かいますね」


「いや、最適コースから、ほんの少しだけ進路を変えてくれ」


 デュークが示したコースは最適な軌道を描いていましたが、ラスカー大佐は僅かに脇にそれるような進路を示しました。


「我々に先行しているこの輝点を見ろ」


「あ、これは僕たちを援護してくれたフネですね」


 データを確かめると、大威力の熱戦砲を用いて援護を行ったフネ――特設砲艦アーナンケが先行しているのがわかります。


「ガス惑星に向かっているようだが、見たところ船足が遅い」


 いち早く撤退に移った特設砲艦アーナンケですが、どうも推進機関に問題があるらしく、プンスカプンスカと騙しだまし噴射しながら進んでいるのです。


「あれだけの大出力の熱戦砲を使った反動だろう。推進機関にダメージを負ったかもしらん。どちらにせよ、助けられるのは俺たちだけだ」


「じゃぁ、コースを修正しますね」


 そのようにして進路をスルスルと進んでしばらくすると、ラスカー大佐のいうとおり通信レーザーが飛んできて「こちら特設砲艦アーナンケ、推進力が不十分な状態だ。そちらでキャッチアップできるか?」というほどのメッセージが届きます。


「そのつもりだと返信しろ――――うん? なんだありゃ?」


「フネがつながっていますね。あれはクロガネさんと重巡バーンですよ」


 デュークがアーナンケに向けて視覚素子を伸ばすと、装甲艦クロガネと重巡洋艦バーンが接合しているのがわかりました。


「ははぁ、応急的に作った急造の砲艦なんだな。しかし、よくもまぁそんなもの運用する気になったもんだ。ン、あの格好だと、他にもう一隻くっついていないとバランスが悪い感じがするな」


「なにがあったんでしょうか?」


 重巡バーンから伸びる構造物をよく眺めると、クロガネとは反対側に伸びるパイプの先がねじ切れていました。


「ふむ、まずは最接近に備えよう。お互いのベクトルはかなり似ているが、彼我の速度差はかなりのものがある。繋がったら縮退炉をフルパワーして速度を同調する」


「わかりました」


 直上を通り過ぎる瞬間、デュークはその長大なクレーンをいくつも伸ばし、特設砲艦のエンジンとなっている龍骨の民クロガネも同じようにしてクレーンを展開します。


「3・2・1、キャッチアップ! 重力スラスタ偏向放射!」


 二隻の龍骨の民が伸ばしたクレーンがガシッ! と重なるとデュークの運動エネルギーがクレーンを通してグググとアーナンケに伝わります。同時にデュークは縮退炉を全開にして慣性制御を用いた係留索――重力アンカーを放ちました。これは近距離でしか使えない牽引ビームのようなもので、宇宙船同士が接舷するために用いるものです。


「よいしょ――――っ!」


 強靭な龍骨の民の腕と腕、縮退炉のパワーをフル活用した重力制御により、二隻は急激に同調を始め――


「よし、相対速度、進路合致した」


 程なくして一つの飛翔体のようになるのです。それと同時に、巡洋艦バーンに座乗するゴルモア星系分遣隊指揮官ペパード大佐が葉巻を横咥えにした姿が現れます。

 

「おお、ラスカー参謀大佐か。デュークの指揮権限が君になっておるが、カークライト提督はどうした?」


「ああ、それは――」


 ラスカー大佐は斯々然々と端的に事実を伝えました。


「はぁ? サイキックパワーで戦艦の主砲を受け止めて、失血死しただと……」


「幸い、医療ユニットにより速やかにステイシス状態に入ることができましたから、しかるべき手段を講じれば復活の可能性は高いかと」


「まぁ、ありったけのナノマシンを投入すればどうにかなるか……それにしても無茶なことをするものだ」


 葉巻を横咥えにしたペパード大佐は、恐竜ヅラをしかめながら、呆れ声を漏らしました。それに対してラスカー大佐は「いや、貴官も相当な無茶をしておられるようですが……」と呆れたような口調で応えました。


「時に大口径熱線砲を放った艦の姿がみえませんな。砲の諸元から察するに、戦艦デウスあたりを流用したはずですが?」


「はっ、さすがは大砲屋として名高いラスカー大佐だな。だがデウスはすでに廃棄した。限界まで砲圧力を高めたおかげで、艦体が持たなかったのだ」


 ペパード大佐は「乗組員はバーンに回収し、重巡に戦艦の乗組員を詰め込んでいるから内部はえらいことになっとる」と続けます。


 スクリーンの奥を見ると重巡バーンは艦橋まで居住区として稼働させているようで「おい、俺の尻尾を踏むな!」とか「誰よ、私のお尻触ったの!」となどと満員電車のような状態になっているのです。


「艦内空調がギリギリだから、葉巻を吹かすわけにもいかん」


「なるほど……こいつは酷い状態ですな。デュークの格納庫には空きがありますから、簡易生命維持装置を持たせて移乗させてください。時に、デウス艦長のティトー准将はどうしました?」


「あの総統閣下か? 艦と運命を共にするとかなんとかゴネてたから、トランキライザーを打ち込んで眠らせてある。怪我もしているから、撤退終了するまでこのままだな」


「となると上級指揮官二人が行動不能ですなぁ」


「うむ、だから今後の指揮はラスカー大佐、君が取ってくれ」


「先任はそちらですが?」


「いや、さすがに限界でな。実のところ不眠不休でここまでやって来たものだから、そろそろ冬眠モードに入りそうなのだ。なにせ、アーナンケ防衛戦初期からこの方1週間は闘い続けてきたのだ……」


 ペパード大佐は曰く恐ろしいほどの体力を持つ恐竜族といえど、体力の限界が近づくと強制的な冬眠状態に陥るということなのです。彼のゴツゴツとした巌のような眼窩にある眼球はトローンとしたものになっており、限界が近いことが伺えます。


「わかりました。私が指揮を執ります。後は任せてください」


「助かる」


 そう言ったペパード大佐は「寝る前に葉巻吸いたかったなぁ」などとため息を漏らすと、立ったままグゴゴゴッゴとした寝息を立て始めたのです。

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