第194話 援軍

 バキッ! バキッ! バキッ! 12.7ミリ単分子徹甲弾がヒットすると、司令部ユニットの周囲を旋回していたミニ超獣達のカラダがバラバラに吹き飛び、ズギョェェェェェェェ! とした鳴き声が響き渡ります。


 続いて、ギュィィィィィィィィィン! と、7.62ミリ軽機関銃の無慈悲な金切り声が上がり、司令部ユニットに向かおうとしていたエーテル超獣の一団が文字通り分断されました。


「擲弾、投下! 投下! 投下――!」 


 その様な掛け声がかかると、丸みを帯びたり柄がついたりした重擲弾の固まりが投げつけられます。それらは、司令部ユニットを厚く囲んだミニ超獣の群れの中で爆散し、成形炸効果やら超テルミット反応で、超獣の群れに穴を開けるのです。


「総員、目標、司令部ユニット! 降下、降下、降下――――!」


 超獣達の群れに空いた穴に向けて、ガスマスクめいた装具を付けた男達が背中につけたジェットパックをヒュバッ! ヒュバッ! ヒュバッ! っと吹かして、次々に降下してゆきます。


「近接戦闘ぅ――――!」


 司令部ユニットの外壁に取り付いた彼らは、周囲のエーテル超獣めがけて手にした得物を振り下ろします。バキッ――――! ドガッ――――! それらが振るわれるたびに、ミニサイズの超獣が吹き飛びます。


「え、援軍だ――! 援軍がきたぞ!」


「しかし一体、どこの部隊だ?!」


「お前、馬鹿か! 近接武器を抱えて突撃するなんて非常識なやつらは、武装特務憲兵隊ケルベロスだけだ――!」


 司令部ユニットの内外で防戦に当たっていた要員達から歓声があがりました。デッカー麾下の特務武装憲兵達が駆けつけたのです。


 憲兵隊とは、軍内の交通整理をしているお巡りさんのような存在ですが、一朝事あれば、「右手にライフル、左手にスコップ! 星間テロリストやギャラクィーマフィアもなんのその。俺たちゃ無敵の憲兵隊!」などと叫んで巨悪に吶喊する猛者でした。


 今回の敵は、別に巨悪というわけでもありませんが、職務に忠実な彼らは艦隊司令部を蹂躙していた超獣達に無慈悲な攻撃を加えます。


「悪意粉砕、粉骨砕身、秩序を乱すやつは許さんぞ!」


「検挙――検挙――! 全員逮捕だ――――!」


「はい、そこの超獣おとなしく止まりなさい――じゃぁ、そこに停車してね。君、司令部の扉にぶつかったね? じゃ、違反キップ切るからね」


 ガスマスク状のヘルメットを被った彼らは、赤い目を光らせて、手にした得物を思い思いにふるいます。そのたびに超獣の触手やら何やらがビシビシ! と、吹き飛んでゆきました。


 機先を制された形のミニ超獣達は、その光景に驚くような素振りを見せるほどでした。その光景にナワリン達がめを丸くしています。


「うわぁ、凄いわ」


「やれ~~! やっちゃえ~~!」


 一部の群れはなんとか統制を取り戻し、自分たちよりも小さな生き物に噛みつこうと襲いかかろうとします。


 ズォォォォォォオォッォッ!


 数メートルはある超獣はかなりの戦闘力を持っており、数はまだまだたくさんいるのですが――


 彼らは「切る突く叩く! 接近戦はこいつに限る!」「今宵の虎徹は血に飢えておる」などと言う台詞を吐いたり、「明るく元気に検挙検挙! 今月のノルマ達成――――!」「敗北主義者は吊るされるのがお似合いだ」など言う物騒な言葉を宣いながら、襲いかかるミニ超獣と一歩も惹かない堂々たる白兵戦を繰り広げました。


「うわぁ凄いわ。シャベルってああいう使い方ができるのねぇ……」


「お巡りさんには逆らっちゃいけないね~~!」

 

 憲兵隊の戦闘を眺めていたナワリン達が、驚愕の声を上げました。


「この聖剣エスカリボルグ――じゃなかった、共生知性体連合制式軍用シャベルを喰らえ! 空間スコップ十字斬! 波動シャベル彗星斬りぃ!」


銃剣バイヨネット二刀流奥義、霞斬の陣! うりゃぁああぁぁ!」


 憲兵隊員に噛みつこうとしたミニサイズの超獣達が、超硬金属の固まりであるスコップの前に、あっという間にバラバラになりました。銃剣というには大きすぎるロングソードのようなものを二本振り回し、凄まじい剣技を見せる隊員もいるのです。彼らは空間近接戦闘のプロなのです。


 ナワリンは「スコップ冥王拳ってなによ、スコップなのに拳って」と笑い、ペトラ「わぁ、バイヨネットなんちゃら流って、かっくいぃ~~! 後で教えてもらおっ!」と喜色を浮かべました。


 特務武装憲兵がそのようにして近接戦闘を繰り広げる中、カークライトは「まったく……ここは一体いつから、塹壕戦の時代になったのだ」と呆れた思いを口にしました。


「とはいえ助かる。司令部要員は連携して反撃に移れ!」


 カークライトが反撃の指示を出しました。勢いを得た司令部要員が特務武装憲兵隊にそれに加わり、距離が開いて重火器の投射が再開されると、戦況は明らかに好転するのです。


「よしっ! これで勝ったわね!」


「うん、勝った~~!」


 ナワリン達が、勝利だ勝利だとはしゃぎました。でも、まだ超大型の超獣が残っているのです。


「ま、まだ終わって無いんだからっ! こっちを手伝って――――!」


 デュークが助けを求めてきます。司令部ユニットの危機は去りました、彼のクーレンは依然として超獣の口に封じられているのです。


「あ、いけないわ。まってなさい」


「今行くよぉ~~~~!」


 ナワリンとペトラがデュークの手助けをしようと、クレーンを伸ばして、デュークを捕まえて話さない超獣の口に手をかけました。


「あれ、全然動かない~~!」


「くっ、こっちもよ!」


 でも、エーテル超獣は中々離してくれません。それどころか――


「こ、こいつ僕の腕ごと食べようとしてるぞ!?」


 デュークのクレーンをジワリジワリと飲み込み始めるのです。


「あ、こら! デュークの手を離しなさいよぉぉぉぉ!」


「こいつ口にしたものは、絶対に逃さないタイプだよ~~! ある意味、ボクらと同じぃ~~」


 などと、叫びながらナワリンとペトラもクレーンに力を入れてエーテル超獣の口を押し広げようとするのですが、万力のような口の力に、二進も三進も行かなくなっています。


「うぐぅぅぅぅ…………」


 どうにもならなくなったデュークが呻き声を上げた、その時でした。


「よぉ、お前ら。随分な大事になってるじゃねぇか!」


 デッカーが、スルスルとデュークの直上へ降りてきます。小型フリゲートの彼は「邪魔するぜ」と言いながら、デュークの舳先に鎮座しました。


「あっ、デッカーさん! どうしてここに!?」


「その話はあとだ。しっかし、随分デケェ口をしているもんだなぁ。お前らの腕でも支えるのがやっとか」


 デッカーはデュークの腕を飲み込み始めた超巨大超獣の口を眺め――「それじゃ、オレっちがなんとかしてやるよ」と言いました。


「ふぇ、どうやって?」


「まぁ、見ていろ」


 デッカーが、巨大エーテル超獣の口の中に近づきます。


「ふぇぇぇぇぇぇ!? 危ないですよ!」


「任せておけ。とにかく俺が出るまでは持たせろよ」


 そう言ったデッカーは、開け放たれた巨大エーテル超獣の口の中にスルスルと入っていきました。


「ふぇぇぇぇぇっ!?」


「何やってるのよ――――?!」


 とんでもないことを始めたデッカーにデューク達が驚愕します。エーテル超獣の口の中に入り込んだデッカーのカラダは、すぐに見えなくなってしまいました。


「デッカーさんが、食べられちゃったよ~~~~!?」


「ど、どうればいいのかしら?」


「と、とにかく口を抑え続けるんだ!」


 こうなると、最早三隻には何も出来ることはありません。超獣の口とカラダを抑え続け、デッカーが何かをやってくれることに期待を掛けるほか無いのです。


「でも、う、腕が……もう限界……だ」


「こっちも……よ」


「うぎぃ! 指先が折れそうだよぉ~~!」


 デューク達がガクガクと腕を震わせます。ペトラの指先がメキリッ! とした嫌な音を立てました。


 彼らが、「「「もう無理――――――!」」」と龍骨を震わせて、叫び声を上げた時です。


「戻ったぞぉ……」


 巨大な口の中からデッカーが戻ってきました。彼のカラダは超獣の唾液や体液でベトベトになっています。


「畜生、ひでぇ臭いだぜ。鼻で選択処理をしても、龍骨に染みてきやがる……」


 超獣の唾液に塗れた彼はしきりに「クセェクセェ」と罵りの言葉を漏らしました。


「一体、なにをやってたんですか?!」


「なに、ヤツの腹の中にちょいと細工をな」


 そう言ったデッカーは「ほんじゃま……ポチッとな!」と、なにかの起爆信号を口にするのです。すると――


 エーテル超獣の中で、ボン! ボン! ボン! となにかが爆発する音が聞こえました。


「ふぇぇぇぇっ?! こ、これは――」


「ヤツの中に仕掛けたミサイルが爆発してるんだ」


 ズゾゾッゾゾゾゾオォォォォォォォォォオオン!


 体内でミサイルが爆発したエーテル超獣が大きな悲鳴を上げました。するとそいつは、これまでけして離すことのなかったデュークのクレーンを「うべっ」っとばかりに開放したのです。


「やった、離れたぞ!」


 そして、ボン! ボン! ボン! とさらに爆発音が鳴りました。すると、超巨大エーテル超獣は、凄まじい勢いで身悶えを始めるのです。


「うわぁ、のたうち回ってる……」


「俺が持ってるミサイルは小型のばかりだがなァ。ああいう風に飲み込ませて破裂させれば、こうなるのさ――山椒は小粒でもピリリと辛いってことだ」


 小さなフリゲート艦であるデッカーは、「覚えておけよ?」と、飄々とした口調で言い放ったのです。

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