第197話 ゴルモア星系小惑星帯防衛戦 その2
「敵部隊後退を始めました」
「下がってゆくな……」
ペパード大佐率いる混成部隊は、小惑星帯を盾とし、民間船を有効活用した連続射撃を武器に、機械帝国の数次に渡る襲撃をしのいでいます。
「ガッハッハ、やるではないか我軍も!」
後退する帝国軍を見つめながら、ティ大佐は満足げな笑みを浮かべました。
足が遅く機動戦には向かないゴルモア艦艇も、共生宇宙軍から供与された重ガンマ線レーザー砲を用いて効果的な砲戦を継続していました。ゴルモアの民間船は、戦闘の合間を縫って小惑星帯に入り込み、戦線の維持に貢献しています。
「これを繰り返せば、いくらでも時間が稼げるぞ!」
ティ大佐がガパァと口吻を広げて、鼻息荒くそう言った時でした。
「敵の新手が現れました! 数2000!」
次の攻撃に備えて偵察艦からのデータを分析していたベネディクト参謀が、次の襲来を報告するのです。
「全艦に通達、攻撃開始!」
小惑星帯に布陣したゴルモア防衛軍は、再度の連続射撃を開始します。キカッ! キカッ! キカッ! と立て続けの閃光が輝く度に、機械帝国の艦艇に爆発が巻き起こりました。
ですが――――
「おかしい……敵の陣形が崩れないぞ」
「ええ、横に長い隊列を敷いてなおも前進してきます」
機械帝国の艦艇は、艦列を並べて横隊陣形で前進を続けてきます。
「とにかく撃て!」
ゴルモア防衛軍のレーザー砲が煌めき、前面にいる帝国軍は痛撃を加えられつつも陣形を崩しません。穴が空いた所には次の艦が入り込み、大破した艦艇であっても推進力が残る限り前進を続けるのです。
「後続艦が次々に進出して、穴埋めをおこなっています」
「奴ら一体何を考えているのだ……あれでは、ただの的ではないか!」
ティ大佐は呆れた様子で帝国軍の前進をながめていました。
「まるで古代の戦列歩兵のようだな……」
ペパード大佐はその光景に、宇宙に出ることも考えられない程の過去にあった戦争の形を思い起こします。共生宇宙軍の軍人には、そのような歴史を学ぶことが趣味である者がそれなりにいるのです。
「大昔、命中率の悪い火薬式の銃を使っていた頃に、損害を顧みず敵の目の見える所まで前進し、横隊が一丸となって射撃戦を繰り返す。そんな戦いをしていた兵士達がいたという――」
「彼らはそれを宇宙戦闘でやっていると言うのか?」
ティ大佐の言葉に、ペパード大佐は「多分、そういうことだ。損害を無視した平押しだな」と首肯しました。
「後続艦が多数接近中です。やはりこちらも横列を組んで進んできます!」
「寄せて来ますよ。マズイですな」
ヒタヒタと近づく機械帝国軍の姿に、歴戦の猛者である重巡洋艦バーン艦長シュールツも焦燥の感を隠せません。
「敵部隊先頭、停止した! 高熱源反応確認――!」
「全艦、射撃中止! 退避、退避、退避!」
前進を続けていた帝国軍はピタリと足を止めると、艦首を揃えて主砲の全力射撃を開始します。そしてゴルモア防衛隊の各艦隊は小惑星の影に入り回避しようとした時でした。
キュバッ! という閃光とともに、一隻の艦艇が爆発したのです。
「避退の遅れたゴルモア砲艦が直撃を受けました! 帝国軍の射撃精度が上がっています!」
「距離が詰まれば、当たる時は当たる……か」
旗艦バーンが隠れている小惑星にも多数の砲火が集中します。ゴガッゴガッ! と強力なエネルギーが叩きつけられると、小惑星が砕かれ岩石や破片がそこら中を飛び交い始めます。
「うっ、地表に設置していたセンサ群が半壊しました。ほかの小惑星にも横隊が近づき、猛烈な射撃を繰り返しています! 各艦、頭を抑えられた格好です。どうされますか?」
ベネディクト少佐は、防衛隊の他の艦艇や部隊も機械帝国ににじり寄られて攻撃を受けていると報告しました。
「艦長、対艦ミサイルを使うぞ! 手持ちの2割まで使用を許可する! 各部隊にも同様に通達し、一斉同時発射で飽和攻撃を行え!」
ペパード大佐は、弾数に限りが有るため温存していた対艦ミサイル攻撃の開始を決心しました。
重巡洋艦バーンが持つ128基の
「射撃が弱まりました!」
「今だ! 各艦、艦外障壁を艦首に集中しつつ、臨機に射撃戦を行え!」
ゴルモア防衛隊は機械帝国の損害を無視した攻勢に対して、辛うじて防戦をつづけました。
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