第334話 蹴りこまれるフットペダル
デュークの背中でキィン! とした光が煌めいたその直後――
「よし、射出完了だぜ」
「えっ、もう速度が乗ってるの?」
星系内に突入したデュークたちは光速度5パーセントで航行中していました。本来であればQプラズマ機関を用いたとしてもこの速度に達するには数時間は必要でしたが、新型カタパルトは宇宙の法則を騙すことで瞬時の速度向上が可能です。
「まったく加速度を感じなかったよ。すごいものだねぇ」
「ああ、試作の初期は相当な大加重がかかったもんだが、かなり完成されてるな」
そういったスイキーは「さすがはドクトル・グラヴィティを名乗る男だぜ」と呟きました。
「あれ? その言いぶりだと、グラヴィティが本当の名前じゃないみたいだけど」
「そうだぜ。それは一種の称号みたいなもの――お前さんたちのいうところの二つ名みたいなもんだ」
スイキーは「実のところ本名は誰もしらんのだ」と言ってからこう続けます。
「メトセルにも名前があるらしいが、他人には絶対教えないそうだ。種族的、文化的風習というやつだな」
「へぇ、面白いものだね」
そんなことを言いながら、デュークはシートの上に艦首を伸ばしながらあたりをキョロキョロと見まわしました。
「走査完了、視認距離に艦影その他はないね」
「ってことは、数光秒以内には俺たちだけってことだな?」
デュークの活動体に備わる視覚素子はパッシブモードで動いているのですが、元からの性能が良いため100万宇宙キロの距離でも光学分析が可能です。
「俺っちもパイロットだから目はいいほうだが、龍骨の民にはかなわんな」
「でも、距離が近かったり小さな物体は見逃しちゃうからね」
生きている宇宙船は艦船型の種族でありその目は望遠鏡のようなものですから遠くのものを見るのは得意ではありますが、近接したもを見ることは間違いなく得意ではありません。
「レーダーも使えんしな。近くは俺が肉眼で確認するほかないな」
ペンギンは水陸両用の生き物であり水中で獲物を狙う肉食獣であり、動きの速いものをとらえる機能に優れたその眼球は、陸の上でも正常な視力を保つことができます。
「艦載機パイロットをなめるなよ?」
「そんなことは、知っているつもりだけどね」
その上スイキーは艦載機レベルで必要な空間認識能力を高める訓練を受け、たとえデブリの中に入り込んだとしても、それらを容易に回避することができました。
「まぁ、おまえさんとはその辺はわかりあえているからな」
「うんーー同期だもの」
共生知性体連合では種族的長所を組み合わせた部隊編成が行われるようになっていますが、現状デュークとスイキーのそれはかなりマッチしているといえましょう。
「で、あの閃光――どう思うよ?」
「あれって現地勢力の星系内紛争だよね」
デュークたちが当初の目標としている外惑星の近傍では爆発が立て続けに起こり、激しい戦闘が行われていることを示しています。
「核分裂か核融合の炎――原始的とはいわないけれど、あの程度じゃ脅威にもならないと思うよ」
デュークは恒星間戦争を戦う戦艦でありトップクラスの防御力を持っています。核融合爆発があったとしても「あちちっ!」と騒ぐ程度で、ものともしないのが彼なのですが――
「お前それを自分本体を基準にしとるな? この戦闘機は戦艦並の重装甲だが、何分サイズが小さいんだ。直撃を食らったら、あちちじゃすまんぞ」
「あ、確かにそうだね」
彼らの乗る新型艦載機は小型縮退炉によるバリアと戦艦レベルの重装甲を持っているのですが、全長100メートルとコルベットかフリゲートサイズですから、核の直撃があれば相当のダメージが入ることでしょう。
「巻き込まれたくはないが……」
「近づかないと偵察できないものね」
デュークは本体からの量子探査で星系内をおおよそ把握しているのですが、精度に難があって細かいことまでは掴んでいないのです。監察官との連絡がないということもあり、星系内を直接偵察する羽目になっていました。
「だけど、まだ戦闘宙域から相当離れているから
――――あ、いけない、すぐに進路を左にとって!」
「むっ⁈」
デュークが「右前方数光秒先で微弱なタキオン反応確認!」と警告を放ったと同時に、スイキーは左のフットペダルを蹴りこんだのです。
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