第333話 発進準備

「予定ルートへの投入にはカタパルトを使うぞ。お前さんの自前の装備じゃないが、が問題ないな?」


「うん、ドクトル・グラヴィティ謹製のカタパルトだからね。調整はできてるよ」


 デュークが本体の龍骨とミニチュアのそれを同期させながら、これも知らないうちに装備させられた電磁重力複合式カタパルトを起動すると、艦体に張り付くようにして寝かされていた金属製の構造物がズゴゴゴと動き出しました。


「そしたら、僕らの戦闘機をカタパルトに載せるね」


「載せるって、おいまさか…………う、うぉっ!?」


 そう言ったデュークが頭の上でクレーンをミョインと動かすのを見たスイキーがコックピットの上を眺めると、トンデモなくデッカイ金属の塊が落下してきて――


「大丈夫だよ、潰したりしないから。まぁ、その時は僕も一緒だけどね」


「おいおい、手ひどいジョークだ……ぜ」


 ガシンッ! とい衝撃と共に、戦闘機はデュークのクレーンに掴まれるのです。


「で、これをこうして――――――よし!」


 自前のクレーンを動かしたデュークは、自分が乗っている艦載機を掴みあげて危なげなくカタパルトに置きました。艦載機と言っても100メートルもあるので小さなフネを持ち上げるような感覚ですから、細かい作業が苦手なクレーンでも問題がないのです。


「艦載機とカタパルトのデータリンク接続を確認したよ」


「うし、最終調整だな」


 スイキーはカタパルトの制御装置にアクセスし発射の準備を始めました。


「カタパルト射出角よし。速度は光速の5%に調整」


「えっと、加速度じゃなくって、それって速度だよね?」


 通常カタパルトといえば重力加速度10Gなどとなるところ、スイキーが読み上げたのは速度であり、しかも光速の5%というとんでもない数値です。


「こいつは概念機関式射出装置――慣性の法則を捻じ曲げて、初期速度として亜光速を与える装置だからな」


「ええと、空間と時間を騙して結果だけを引き出す装置……そんな感じだって聞いてはいるけれど……」


 一応新型装備については一通りの説明は受けているものの、量子数学と思念波技術を用いて時空間的マジックを引き起こすという概念機関なのです。デュークはまったくもってどういう理論で動くのかわからないものですから、目をパチクリさせながら「訳がわからないよ」と呟く他ありません。


「それは俺っちもご同様だぜ」


 共生知生体連合の科学力の最先端技術となれば、技術屋ではないデューク達にとってはブラックボックスのようなものでした。


「そんなものをいきなり使って大丈夫かなぁ?」


「ああ、それは任せておけ。俺っちはこいつを使ったことがあるんだ」


 スイキー曰く「星系軍の頃、共生宇宙軍のテストパイロット部隊に派遣されたことがあってな」ということなのです。


「へぇ、そんな経験があるんだ」


「よし、航行準備の最終チェックだ。縮退炉正常稼働、バイパススイッチオン。燃料スターターオン、スタータレディランプ点灯。火災警告灯オフ、メインエンジンスタート」


 スイキーが艦載機のエンジンに火を入れると、コオォォォォォォッ! っという振動が機体を通して伝わってきます。彼は「右推進機関、左推進機関、最小出力をレディ」と言ってから「ECCスイッチをサイクル、各システムの警告灯……正常。慣性航法装置アライメント」と続けました。


「飛行計器正常、マスターアームとレーダーOFFを確認」


 これから偵察飛行に出るといっても、彼らの乗る艦載機にはそれなりの武装が積まれていますから、スイキーは不測の事態に陥るのを避けるため武装系にロックを掛けました。


「カメレオン装置――ビジュアルステルス起動」


 カメレオン装置は大電力を必要とするため通常の艦載機には搭載できないのですが、フリゲート並のこの機体には小型の縮退炉が搭載されているため、それが使える設計になっています。


「おぃ、外から見てちゃんと機能してるか見てくれんか?」


「うん、いい感じにボヤッとしてるね」


 100メートル級戦闘機はカメレオンモードに入り、その輪郭はよくよく見なければわからないくらいに透明なものになっていました。


「よし、ハーネスを再チェック。射出座席アーム、舵作動チェック、フラップ距離ポジションチェック、トリム距離位置チェック、気密ハッチ完全閉鎖を確認」


 チェックを終えたスイキーは「あとは飛び出すだけだ」と言いながら、司令部たる高速機動艇に発進の許可を求めました。


「こちらのタイミングでいつでもどうぞ、か。カタパルト、何時でも行けるな?」


「うん、カタパルト電力供給問題なし。縮退炉3つ分の電力をため込んでるのだけれどもね」


「お前さんの縮退炉が3個分とは、すさまじく電力を喰らう装置だぜ。飛ばすのが通常型の30メートルクラスの戦闘機ならもっとはましだろうが……」


「まだまだ改良の余地がありそうだねぇ」


 概念機関は時空間を騙す装置と言っても、その対価として相応のエネルギーを必要とするものです。デュークの縮退炉は通常のそれよりも大きなパワーを持っているのですから、通常の縮退炉であれば10個分の力がいるかもしれません。


「まぁいい、そんなこと俺たちがここで考えることじゃねぇからな。飛ぶことに専念するとするか」


 そう言ったスイキーはパイロットヘルメットをかぶり直し「じゃぁいくぞ、カラダを固定しておけよ」と言い、デュークは「よいしょっと」とクレーンで体を固定して射出に備えたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る