第18話 龍骨のレストラン
「はよう中に入れ!」
「う、うん」
オライオが、デュークの背中を押すようにして中に迎え入れました。
「ここは……」
暗闇に慣れたデュークの視覚素子が徐々に調整され、広がりを持った空間がハッキリと見えてきます。そこは白く淡い光を放つ小さなランプが茶色く染まったレンガの表面を照らし、白いクロスが敷かれたテーブルがたくさん置かれた場所でした。
テーブルでは、テストベッツの老骨船の
「良く一隻で、航路を抜けたな。偉いぞデューク」
「ワシが小さい頃は、ここに来るまで10回くらいはかかったのになぁ」
「ほっほっほ、良く頑張ったこと。先が楽しみね」
アーレイや、ドク、タターリアといった老骨船が、笑みを見せています。
「なんで、みんなここにいるの?」
「ふふ、お前が活動体に入ってから、ここに来ることはわかっていたのだ。だから、待っていたのだよ」
龍骨が成長するためには、いろいろな体験をすべきです。その一つとして独航――ただの一隻で未知の航路を行くこともまた必要でした。老骨船たちは、それをデュークが経験するのを見守っていたというのです。
「そうだったのかぁ……でも、ここって何をするところなの?」
「ああ、そうじゃな。まずはそこにすわるのじゃ」
「うん…………よいしょっと」
デュークは
「へぇ……これは、なんだろ?」
テーブルの上では、見たこともない物体たちが、デュークを歓迎するように待ち構えていました。
丸いお皿の上にナプキンがのり、わきにはスプーンやフォークたちが綺麗に並んでいます。外側の小さなパン皿の上にはバターナイフが置かれ、反対側の黒の容器の上ではおしぼりが丁寧に丸められていました。
逆さになったグラスが店内の照明を反射してフワリとした影を落とし、おおぶりの器の中には見たこともない植物が飾られています。
「ここはなぁ、異種族たちの言うところのレストランじゃよ」
デュークと同じ席に着いたオライオが、ここはレストランだと説明しました。
「ご飯を食べるところ……食堂と違うのかな?」
デュークが素朴な疑問を呈すると、オライオはこう答えます。
「ここはな、異種族たちの食べ物――料理を食べることができる場所なんじゃ」
「異種族……食べ物、料理……」
デュークは不思議そうな顔をして、いつも食べている物を思い出しました。いつもデュークが食べているものといえば、強化精製金属体、潤滑油、有機化合フレーク、洗浄剤のブロック、グリース、重金属の錠剤といったところです。
「だが、異種族たちは、そういうものは食べないのじゃ」
「へぇ」
っそしてオライオはクレーンを伸ばし、レンガの壁の隙間にあるもう一つの空間を示しました。そこにはキッチンがあって、タターリアが忙しく立ち働いています。
白くて薄い装束に身を包んだ彼女は、鋭い刃を振り回して切ったり、丸い円盤のようなものを火にくべ、なにかを寸胴の中でグツグツとさせていました。
「あ、いい匂い!」
厨房の中から香りの成分が飛んできて、デュークの嗅覚――口の中にある分光計を刺激します。彼は、お腹がグぅ~と鳴るのを感じました。
「これが異種族の食べ物の匂いなんだなぁ。僕でも食べられるの?」
「ははは、龍骨の民はなんでも食べるものだからの。問題ないのじゃ。じゃがのぉ、異種族の料理を再現することは、材料からして大変なことなのじゃ」
オライオは、小惑星からとってきた岩石や、ガス惑星から抽出した液体水素、コマコマとしたスクラップなどと違って、鮮度の必要な貴重な素材が必要なのだと説明しました。
「それに大変な手間がかかるのじゃ、食材を切って割ったら叩いて
「うわぁ……すごく大変そうだね」
オライオが一息で述べた
「手間暇がかかるし材料も貴重じゃから、フネのミニチュア――小さな活動体で味わう他ないのじゃ」
「あ、活動体でもモノを食べられるんだ!」
生きている宇宙船を模した活動体には、本体と同じような仕組みが備わっていますから、ご飯を食べる事ができるのです。
「デュークもいずれ外の世界に出ていくのじゃ、活動体を使って異種族たちと同じテーブルにつくこともあるからのぉ」
そしてオライオは「料理の食べ方講座じゃぁ――」と、笑みを浮かべて言ったのです。
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