第190話 ミサイル大作戦

「流れ弾ならぬ流れ首…………南無南無」


 光を失ったエーテル超獣の目が恨めしそうにデュークをにらんでいます。それは恐ろしげでもあるのですが、なんだか哀れな感じもするので、デュークはネストで教えられたまじない念仏を唱えました。


 恐ろしい怪物とはいっても生き物は生き物なので、デュークは手荒く扱うことも出来なかったのですが――


「は、早く捨てなさいよそんな物!」


「えんがちょ~~! デューク、それって、えんがちょだ~~!」


 ――ナワリン達が、ばっちい! ばっちい! と騒ぎます。


 仕方がないので、デューク「恨まないでよね……」と言ってから、首だけになったエーテル超獣を「よいしょっ!」っと、遠くに放り投げました。


 デュークのクレーンは、結構な腕力があるので、骸となった生首はエーテルの中にすっ飛んでいきます。そしてエーテル流の中に落ちると――


「げげっ、なんだか小さな群れが集まってきてるわ……」


「ぎょえ~~~~共食いだ~~共食いしてる~~~~!」


 エーテル超獣の死骸に、他の超獣の群れが襲いかかり、あっという間に影も形も無くなってしまうのでした。


「うわぁ、なんというか、たくましい生き物たちだなぁ」


 デュークはそれを見て、驚きながらも心底感心するのです。


「はぁ……どうしたらそんな感想を持てるのよ」


「共食い駄目、絶対~~~~!」


 エーテル超獣の血なまぐさい晩餐会に、ナワリン達はドン引きしました。


「まぁ、死んだら餌に成る。ヤツラにとってはそれが当たり前なんだろうな。大宇宙の厳しい掟ってやつだな」


 デッカー特任大佐が、訳知り顔でそう言いました。


「分艦隊、防御をさらに密にして、警戒。絶対に艦隊からはなれるな!」


 カークライト提督は「狼狽えれば、獲物になるだけだぞ」と全艦隊を戒めました。


「カークライトの大将の言うとおりだな。しっかり守りを固めるしかない」


 デュークはそう言いながら、警戒態勢を厳としました。旗艦である彼の周囲は大型艦の護衛がたくさん付いていますが、どこからエーテル超獣が攻めてくるかわからないので、気をつけなくてはなりません。


 その後分艦隊は、少しずつ前進を続けます。そして、度々エーテル超獣の襲撃を受けました。


 長時間の警戒を行う中、カークライトは「前衛を下がらせ、中段からの部隊を前に」などと、ローテーションを組んで、外側に配備されるフネを交代させていますが、被害は少しずつ増えていきます。


「光学兵器が使えないと、ホント面倒よねぇ。私達の近接射撃兵器は効果が薄いから、ほんとやることがないわぁ」


「旗艦部隊は真ん中にいられるけれど~~外周を固めているフネは働き詰めだよぉ~~なんだか悪い気がする~~!」


 旗艦部隊であるデュークらは、厳重な円形陣の真ん中で無聊を囲っていました。カークライト提督は「旗艦はデーンと構えておれば良い」と言うのですが、守られてばかりでは龍骨の民として、そして軍艦のプライドが傷つきます。


「そうだねぇ、歯がゆいなぁ……なにか方法がないかなぁ……」


 デュークは艦首をねじって手立てがないか考えました。


「実弾兵器は有効だけれど~~、ミサイルはどこへ飛んでいくかわからないから、使えないよぉ~~」


「ん、単純に射出してみるのはどうかしら? でも、だめね、初速が足らないから、避けられちゃうわね」


「初速を得る……なにか手段は……うーん、そうだなぁ」


 デュークは自分のカラダの各所を眺めます。


「この腕で殴る……いや、それじゃぁ遠くまで届かない……じゃぁ……これをこうして……あ、いけるかも!」


 クレーンの先を眺めた彼は、なにか妙案を得たようです。


「提督、ちょっと試したい事があるんです。少しでも被害を減らすために、僕のカラダと武装を活用させてください」


「ほぉ……やってみたまえ。ただし、位置を変えてはいけないよ」


 提督に許可を貰ったデュークは、カラダの中からミサイルを数本ばかり取り出し、クレーンの先でつまみ上げました。


「デューク、それをどうするつもりよ?」


「まぁ、ちょっと見ててよ……」


 デュークはミサイルの噴射装置をカットしながら、「タイミングは1分後くらいで良いかなぁ……」と言いました。


「よし、じゃぁいくぞ――――!」


 そして彼は、ミサイルを手にした右手を前方に回し、左手を後ろに回し始めます。ブンブンと振り回された腕は凄まじいトルクを生むのですが、左右反対にした動きで相殺されました。


 十分な速度が付いた所で、デュークは――


「えいっ!」


 ――と、襲撃行動を取ろうとしているエーテル超獣の群れめがけて、手にしたミサイルを投げ捨てました。


 速度の乗ったミサイルは、多少ふらつくものの進路そのまま群れの方に流れていきます。すると、それを見つけたエーテル超獣の群れの一団が、「なんだ、あれ」「獲物かな?」「喰っちまえ――!」とばかりに殺到しました。


「5、4、3、2、1……起爆!」


 デュークの投げたミサイルにエーテル超獣が食いついた時です。ドカン! と爆発が起こりました。独航した小型宇宙船と勘違いしたエーテル超獣の鼻先で、時限信管が作動したのです。


 これにはエーテル超獣もたまらず、群れは四散してゆきました。


「あ、タイミングを合わせて、クレーンでぶん投げればいいのね」


「獲物と勘違いして食い付くんだ~~!」

 

 デュークの行動を見たナワリン達は、比較的大きめの対艦ミサイルを選んでクレーンの先でつまみます。そして「「よいしょ――――――っ!」」と投げ捨てました。


 彼女たちが放った時限信管付きのミサイルは、デュークのそれと同じくエーテル超獣を欺瞞して、群れの中心で爆発しました。


「どうですか提督、これならミサイルを有効活用できますよ」


「なるほど、その手があったか!」


 カークライトは大変感心しました。彼は分艦隊に属する龍骨の民を中心に、クレーンを持った艦は、デューク達と同じ行動をするように指示します。


 そして、エーテル超獣達はデュークが考案したミサイルポイ捨て作戦にまんまとハマります。


「ふぅむ、これほどの戦果をあげるとは……」


 これには、経験豊富なカークライトが驚愕の表情を見せ、「我が旗艦は優れた龍骨頭脳を持っているのだな」と褒めました。


「やるじゃねーかデューク!」


 デッカー大佐も手放しで喜んでいます。


「だが、俺のミサイルじゃぁ、効果が薄そうだな…………となると、一つ手を加える必要があるな」


 彼は小型のフリゲートですから、小さなミサイルしかもっていません。エーテル超獣に対して大きな効果を有無には威力が不足しそうです。


 そこでデッカーは、「野郎ども――――作業開始だ!」と、配下の特務武装憲兵隊に指示を出しました。


 すると「よぉし、拘束ワイヤーもってこい!」「そっちを固縛しろ!」「時限信管は2分に合わせろ!」などと、デッカー直属の特務武装憲兵隊がわちゃわちゃと作業を始めます。


 彼らは、あっという間にミサイルを六本ほどをまとめました。「余りのC4もくくりつけろ!」「使用期限切れの弾薬が残っているぞ」「全部だ、全部使ってしまえ!」などと、どこからか持ち出した弾薬までミサイルに搭載します。


「へっへっへ、こいつは効くぜぇ……」


 デッカーは、収束手榴弾の如き様相になったミサイルを、「喰らいやがれ――!」とぶん投げました。エーテル超獣の群れに到達したそれは、デューク達の物と遜色ない爆発を巻き起こしました。

 

 しばらくすると、エーテル超獣の群れは艦隊のそばから、ほとんどいなくなります。


「よろしい、分艦隊、速やかに前進!」


 そして分艦隊は戦力を維持しながら、時空断裂の中を予定通りに航行し続けたのです。

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