第189話 襲撃
次元断裂の中に入ると、そこは濃密なエーテルが漂う空間でした。
「うわっ、酷い時化だなぁ。高波が押し寄せてくる」
次元断裂の中は、エーテルが渦を巻いていました。カラダに押し寄せる波はいつもより高く、大型の艦体をもつデューク達をも翻弄します。
「部隊ごとに密集隊形――小型艦は大型艦の間に入って波を避けろ!」
カークライトは分艦隊の各部隊に密な艦列を作るように指示を出しました。大きなフネが外側に位置することで、エーテルの波濤を凌ぐのです。
しばらくすると、エーテルの波がある程度収まってくるのですが――
「ねぇ~~なんだか変なエコーが聞こえるよぉ~~」
「おいでなすったな……」
――遠くから、ギョォォォォォンン! という鳴き声がエーテルを震わせて聞こえてきました。
「あ、右前方に複数の艦影!」
「エーテル超獣だわ!」
デュークが鳴き声の方を見ると、エーテルの流れに沿って、ぼんやりとした固まりが見えました。クリッパー船程度の大きさをもつ物体が、ウネウネとカラダを動かしながら、泳いでいるのです。
「ありゃぁ、小型種の群れだな。固まってりゃ近づいてこね―と思うが……気をつけろよ、あれだけの数に襲われりゃ、大型船でもイチコロだ」
「こわっ!」
デューク達は密集隊形をとって防御を固めます。小さなエーテル超獣の群れは、自分達よりも大きなフネ、それも艦列を敷いた部隊には近づくこともなく、鳴き声を上げながら分艦隊の周囲で踊りました。
「近寄ってはこないですね」
「アイツラはただの獣だが、多少は知恵を持っているらしい。だがな――」
しばらくすると、エーテル超獣がだんだんと増えてきます。それは数百にも及び、無視できないほどの数となってきました。
「まずいな、仲間を呼んで、どんどん集まりやがる」
「あっ、右上方から近づいてくるぞ!」
数をましたエーテル超獣の群れが、分艦隊に向かって泳いでくるのです。
「電磁投射砲搭載艦は、射撃を開始――――」
カークライトが実弾を放つレールガンを持つ艦艇に射撃を命じました。すると長大な砲身を持つ電磁投射砲搭載艦がエーテル超獣に向けて威嚇射撃を開始します。
レールガン砲塔から、バキュッ! バキュッ! と閃光と轟音が響くと、電磁加速された銃砲弾が、高速度でエーテル超獣の群れに飛び込んでいきました。
「あっ、群れが散ったぞ。やったか?」
「いや、あまり当たってないぜ。群れを散らすにゃいいが……効果が薄い」
レールガンは超高速の重砲弾を発射していますが、光学兵器のように光速度で進むわけではありません。
その後もバキュッ! バキュッ! バキュッ!と立て続けの閃光と射撃音が上がるのですが、エーテル超獣達は巧みな回避行動で、それを避け続けました。
「発射光を見てから、回避しているみたいだわ」
「見てから余裕って感じでムカつく~~!」
「主砲が使えれば、違うんだけれど。僕たちには、近距離射撃用の実体弾兵装しか無いからなぁ」
デューク達の主砲は長距離射撃を行うためのガンマ線レーザーなのです。実体弾を打ち出す砲は近距離射撃用のものしか有りませんでした。それは他の艦艇の大多数も同様でした。
「ミサイルでも撃ってみる~~?」
「アホぅ! エーテルの中で使ったらどこに飛んでいくかわかりゃせんぞ!」
ペトラがカパリと多目的格納庫の蓋を開けたので、デッカーはクレーンの先でポカリと艦首を叩きました。通常空間の真空の宇宙と違って、エーテルが支配するこの空間では、ミサイルの類は航路を捻じ曲げられるのです。
「下手をすれば撃った自分に戻ってくることすらあるんだぞ!」
「そうだった~~ごめんなさい~~」
効果の薄い射撃が止まると、エーテル超獣達は、散開したまま分艦隊の周りをウニョウニョと泳ぎ続けます。そして、時折、あざ笑うかのようにギョォォォン! と鳴き声を上げました。
「ふん、揺さぶってきやがる。大方、はぐれブネが出るのを待っていやがるんだ」
小型のエーテル超獣達は、幾つかの群れとなり、遠巻きにしながら近づいたり、離れたりを繰り返します。それは小型の獣が、大きな獲物を狙う狩猟行動にも似ていました。
「まぁ、集まらなきゃ危険は少ねーな…………」
デッカーが「やれやれだぜ」と呟いた時でした。
「左舷上方、大きな群れがいる! あれって50m級から100m級の個体の群れですよ! 中には200メートル級のやつもいます」
デュークが少しばかり離れたところに、小型種よりも10倍以上のサイズを持つ群れがいるのに気づきました。
「ううむ……中型種か。デカイのは群れのボスだろう」
「げっ……こっちを見てるわぁ」
「舐められるような視線を感じる~~~~すっごいキモい~~!」
中型種の群れは、距離を取りながら分艦隊の頭を押さえるように進路をとっています。
「あッ、急加速した! こっちに向かってくる!」
「まるで駆逐隊の襲撃行動みたいだよぉ~~!」
分艦隊に向けて、中型種が100ばかり向かって来ます。先頭は比較的大型のエーテル超獣でした。
「先頭に集中射撃――!」
危険を察知したカークライトが、集中砲撃を開始するように指示を出しました。重砲弾は少なからぬエーテル超獣達にヒットするのですが――残ったエーテル超獣の突撃の勢いは止まりません。
「全艦防御態勢を厳とせよ! 近接火器を使ってフルモードで迎撃!」
小型の艦砲がドンドンドン! とう唸りをあげ、回転する銃身をもつ機関砲がドラタタタタタタ! っとタングステンやら劣化ウランの弾丸をばらまき始めました。
「エーテル超獣、急降下してきます――――!」
「外周のフネに光学兵装の使用許可! 近距離ならある程度は効果が望める!」
そして、分艦隊はキュバッ――――! と、主砲を発射します。デュークらも主砲にチャージしたエネルギーを発射しました。
「ヒットしたわ――――!」
「あ、でもあまり効いてないみたいだ」
強力なガンマ線やX線レーザーは、エーテルを切り裂いて異次元の生き物たちに当たるのです、それほどの効果はありませんでした。
そしてエーテル超獣の群れは、上方から分艦隊の端の方を掠めました。すると、ガキン――グシャ――――バキッ! とした音が響きます。
「うわっ、端の方で何隻かやられたみたいだ!」
「馬鹿め! 動揺して回避行動を取るからだ!」
防御隊形を密にという指示を守らなかった数隻の小型艦艇に、エーテル超獣が食いつきて、そのまま引きずるように飛び去っていったのです。
「ひぃぃぃ~~やばい~~あれ、やばい~~!」
「小型艦とはいえ、正規艦艇を軽々と……なんてヤツラかしら」
「ああなりたくなければ、しっかりと防御を取るんだ。まぁ、お前達のような大型艦に向かっては来ないかもしれんが…………って、おい、どうしたデューク?」
デュークを弾除けにしていたデッカーが、デュークがクレーンを振り回しているのに気づきました。
「何かが上の方から降ってきて、思わずクレーンで受け止めたんですけれど…………あの、これって……もしかして……」
龍骨の民は、高速度で動く物体を拾い上げる癖を持っています。それは幼生体を受け止めるために龍骨に刻まれた本能ですが、デュークのクレーンが握っていたのは幼生体などではなく――
「あんた……それって…………」
「ピクピクしてる~~!? まだ生きてる~~!? ひぃゃあ~~!?」
――砲弾に引き裂かれた20メートルほどのエーテル超獣の残骸――頭部だけになったエーテル超獣が、デュークのクレーンの中で、「喰っちまうぞ!」というほどに、ジタバタと暴れていたのです。
「ふぇぇぇ……」
流石に頭だけになったエーテル超獣はしばらくすると、「バタンキュゥ」という感じで昇天するのです。デュークは「な、なんて生命力だ……」と龍骨を震わせました。
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