第266話 援軍との合流
カークライト提督がゴルモア放棄を決定してから数日後、スターライン航法を用いて星を超えたデューク達は、共生宇宙軍の補助戦力として投入されたフリッパード・エンペラ帝国星系軍の主力と合流しつつありました。
「すごい数だ……あれが援軍……」
幽体化したカークライト提督と一緒に艦載母艦ゴッド・セイブ・ザ・クイーンズの戦略指揮所に入ったデュークが星系軍の規模に驚きます。
「ああ、相当なものだ」
司令部ユニットを失ったカークライト提督は艦載空母を次なる旗艦として定め、戦略指揮所を司令部として活用していました。そしてデュークは旗艦任務を解かれて艦母の下甲板で補修を受けながら提督の従兵を務めていたのです。
「フリッパード・エンペラ帝国――通称ペンギン帝国の艦艇は20000隻を超えているという。皇帝直属の近衛艦隊5000隻を中核として、勢力下にある近隣種族の艦艇と民間軍事企業や宇宙傭兵の艦艇が15000隻程度らしい」
ペンギン達が有する星系軍――皇帝直属の義勇兵的なそれらは機械帝国の侵攻において急遽編成された艦隊でしたが、その総数は20000隻を超える大艦隊です。平均的な星系が保有する艦艇はおおよそ1000隻程度ですから、その20倍にもなる艦艇をペンギン帝国は送り出している計算になります。
「ずいぶんと大きな戦艦がいるわ」
「あれって、デュークよりも大きくない~~?」
艦橋ではナワリンとペトラ達がプカプカ浮かびながらゴロゴロしています。彼女たちはデュークと同じくして艦載母艦にて整備補修を受けながら「デュークだけ提督と一緒でずるい」とか言って、暇にあかせて乗り込んでいたのです。
「近衛艦隊旗艦にして種族旗艦フリッパード・エンペラ、あれを超える戦艦は、共生宇宙軍総司令部が持つ連合旗艦だけだ」
カークライト提督は「我々は彼らと協同して、この星系で防衛線を貼り直すことになる」と言いました。
「あれだけの戦力がいれば、ゴルモアを守れたのにねぇ」
「来るのが遅かったよぉ~~」
「おいおい、そいつは仕方がないんだ。位置関係が近かったとは言え、第五艦隊主力よりもこちらに来るのが早かったということは、彼らが相当な実力を持っているということなんだぞ。分かるかフネの嬢ちゃん達」
提督の参謀長として司令部を切り盛りしているラスカー大佐が訳知り顔で説明すると、ナワリン達は「へぇ、そうなの」とか、「そうなんだ~~」とやはりプカプカ浮かびながらゴロゴロします。
「というか、軍務中なんだから艦橋で寝っ転がるなっ!」
「私のスラスタ、すごく調子が悪いのよ! 私らの本体ってば超疲れてるのっ!」
「そうだよぉ~~大佐にゲロマズの小惑星食べさせられて、それから全力で押し出すって、すっごく疲れたんだよぉ~~」
あまりにも無体な彼女たちの様子に、ラスカー大佐からお叱りの言葉が掛かるのですが――ダルそうにプカプカしている彼女たちは馬耳東風という風体です。ただ、彼女たちの言うことはたしかな事実なので、ラスカー大佐は「ぐるぅ…………」と何とも言えない鳴き声をあげることしかできません。
「大佐、中身のダメージはナワリン達の方がひどいんです」
激しい戦闘の後デュークは外装を全滅状態にしていましたが、実のところ内部器官にはまだなお余裕を有していました。戦闘中一時的にエネルギーが欠乏する状況にあったとしても、24個の縮退炉はいまなお健在です。
「だがなぁ……」
「大佐、敵がいない安全な星域なのだ。のんびりさせてやれ」
幽体化しても知性は変わらぬ提督が、懐の大きなところを見せました。ラスカー大佐は「はぁ、仕方がないか」とため息を漏らしてから、ペンギン帝国の星系軍を改めて見据えます。
「しかしあれですな、これだけのフネを動かすには相当のカネがかかります。共生知性体連合随一の商業国と呼ばれるだけのことはありますなぁ」
ラスカー大佐は「俺の故郷のウイスコン星系じゃぁ、これだけの艦艇を一日動かしただけで破産してしまうぞ」と呆れた面持ちでペンギンたちの艦艇を眺めました。
「ふぇ……フネってお金が掛かるんですか?」
「おいおいおい、お前フネのくせに知らんのか。例えば、連合の平均的な軍艦の年間維持費は、大体これくらいになるんだぞ」
タタン! と立体タッチパネルを操作したラスカー大佐が「ほれ、一日で俺の給料半年分がぶっとぶんだ。それも一隻でだ」と言うと、デュークは「うわぁ僕のお給料だと何年分にもなっちゃうぞ……」と絶句します。
「とにかく、それほどお金の掛かるフネをあれだけ動かせるのがペンギン帝国なんだ。彼らは連合の中でも一二を争うほどのカネを持っているんだぞ!」
「デューク君、あの超大型戦艦――近衛艦隊旗艦のフリパード・エンペラを見たまえ。君よりも1キロは大きな戦艦だ」
「大きいですよねぇ」
ラスカー大佐は「羨ましい……羨ましい! 俺にも少し分けてくれ!」とちょっと情けない声を上げました。高級軍人である彼はそれなりのお給料を貰っているのですが、複数の星系を
「へぇ……じゃぁ、その皇帝は凄いお金持ちってことですか?」
「うむ。ペンギンの皇帝はフネどころか、星系いくつも買えるだけの資産を持っているという」
カークライト提督は「あれらの艦艇も皇帝の財布から出ているらしい」と付け加えました。
「じゃぁ、スイキーって凄いお金持ちの家のペンギンだったんだな。
「新兵訓練所で一緒だったあいつね。皇帝の家柄とか言ってたあいつ」
「デュークにアルコール飲ませて、ゲロさせたペンギン~~!」
デューク達がそう言うと「ほぉ、君たちは皇子様と同じ新兵訓練所にいたのだな?」と提督は小首をかしげました。
「はい、すごく気のいいヤツでした」
訓練所の思い出を思い起こしながらデュークがそう言うと、ナワリンは「でも、あいつかるそうで、王子様って感じじゃなかったわ」という感想を漏らし、ペトラは「エロペンギンって感じだったぁ~~」と口にしました。
「あのぉ、提督や大佐も新兵訓練所にいたことがあるのですか?」
「ああ、あれは18の時だからもう30年以上前のことだが――おい大佐、君は何年前かね?」
「私は大体20年ちょっと前ですな。同期は貧乏人ばかりで、皇帝の息子なんぞ見かけたこともありませんが」
などと大佐が言い、提督が「私はあそこで家内と――」と言いかけた時です。ペンギン艦隊からの通信波が環境に飛び込みます。
「これは――――ああ、ペンギン星系軍の指揮官が直接挨拶をしたいと言っております。むぅ、既に艦載艇でこちらに向かっているとのことです」
「そうか、受け入れ態勢を取り給え。星系軍とはいえあれだけの艦艇を率いる指揮官をないがしろにはできん」
そう命じた提督は「通信ですむところを、ずいぶんと腰の軽いことだな」と呟いたのです。
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