第116話 渋滞
「このフネって速いなぁ。もうこんなところまで来てしまったぞ」
ドクトル・グラヴィティから借り受けた高速艇は、出発から数日で連合首都星系近傍まで到達しています。
「概念機関を組み込んだ複合推進機関ってよくわからないけれど、とにかく早いわよ!」
「速さは正義、わかんだね~~!」
艇の速度は、通常のフネよりも1.5倍ほども速いもので、デュークは驚きを隠せませんでした。ナワリンとペトラもその速度にご満悦です。
「でもさ、仕組みが全然わかってないんだ……ドクトルにレクチャーしてもらったけどさ。むしろ良く分からなくなったよ」
出立前に、ドクトル・グラヴィティは「説明しよう!」と言い、黒板に数式をびっしり書いて説明してくれていたのですが――
「物理学者っていう人種は、頭の中身が違うんでしょ? 私も似たようなものね。宇宙の前の方に落ち込むように進む航行方法ってことだけはわかったけれどね。重力スラスタに似ている気がするけれどペトラ――あんたは理解してる?」
機関のデータを眺めるナワリンにも、高速艇に搭載された概念機関がどういう原理で動いているのか分かりませんでした。
「あはっ、ボクも全然わかんないよぉ~~! 推進剤が要らないからその分フネを軽くできるってことだけは、理解してるけどぉ~~!」
ペトラは「分からないことは分かってるぅ~~!」ところころと笑いながら答えました。
「なんにしてもぉ、船足が速いってのは魅力的ぃ!」
「確かに、そうだよなぁ。これが実用化したら、僕らも宇宙をもっと速く飛べるようになるのかなぁ?」
「どうかしら、ドクトルは、滅茶苦茶コストが掛かるし、まだ不安定な部分もあるって言ってたわ」
デューク達が概念機関について話しこんでいると、高速艇は首都星の軌道進入コースへ入ります。
「うわぁ、凄い混雑だ! 一万隻以上が列を作ってるなんて……さすが1000以上の種族が加盟する共生知性体連合の首都だ。第五艦隊の根拠地よりもフネの数が多いぞ!」
連合首都星へ向かう航路には、無数の艦船が並び、侵入のタイミングを待っているのがわかりました。
「フネとフネの間の間隔が、100キロを切ってるぅ。これじゃぁ、フネの上を渡っていった方が早いかもしれないよぉ~~!」
「航宙管制のデータはと……小型艇のルートは比較的空いているけれど、それでも1時間は待つわねぇ」
首都星系航宙管制からのデータを眺めたナワリンが溜息をつきました。航路は大変込み合い、長い順番待ちの列が出来ていたのです。
「どこかに、抜け道はないかな?」
「やめておきなさいよ、宇宙警察に捕まるわよ!」
首都星系における航路は共生宇宙警察によって管理が徹底されているのです。デュークらの所属する共生宇宙軍とは全く違った組織ですが、彼らのおじいちゃんたちからは「お巡りさんには逆らうな!」ときつく言い含められていました。
「しかたないなぁ。それじゃ――暇つぶしでもして時間つぶそかな」
「あんた、また三次元チェスの練習でもする気?」
「ふぇ、それはいい加減あきらめたよ。せっかくだから、首都星系の情報番組でも見ることにするよ!」
そう言ったデュークは惑星間レーダで電波を拾い、いくつかのチャンネルを試し、高速艇のスクリーンに投影しました。
「ふぇぇっぇえっぇぇ!? チャンネルがすごいたくさんあって、どれを見たらいいのか分からないほどだよ!
人口密度の高い連合首都星系の周辺では、数十万を超す電波チャンネルがありました。デュークはそれらの数に圧倒されたのです。
「じゃぁとりあえず、首都星系の情報を得ましょうよ」
「首都~~! 花の都~~!」
「そうだね。ええと――首都星系――で検索っと!」
デュークが検索コマンドを入力すると、自動的に再生が始まります。
『3分でわかる首都星系惑星解説! 連合首都星系――システム・シンビオシスの中心には、G型主系列星である恒星シンビオシスが安定した姿を現しています。その周囲には大小さまざまな惑星や準惑星が存在しています。
第一惑星アウローラは、恒星シンビオシスからとても近い場所にあるため、灼熱の星と呼ばれています。ここには太陽風を直接エネルギーに転換する発電所や、ヘリウム3の採取プラントが設置されています。
第二惑星ヴェスタは、古い昔は濃い硫酸の大気を持つ死の星でしたが、数百年に及ぶ惑星改造によって、現在では常夏のリゾート地となり、高度な医療機関が数多く存在する健康の星となっています。
第三惑星アノーナは豊穣の星を意味します。シンビオシスからの距離が農耕に最も適したこの星の地表面積の実に95%は農地や農業工場覆われ、海面は多数の養殖場が設置されて、貴重な天然食品で首都星系の住民の胃袋を満たしています』
「へぇ、アウローラにいたら日焼けしちゃうわね」
「惑星ヴェスタ開発史ってボタンがある……後で見ておこっと」
「アノーナで、お腹いっぱいご飯をたべたいなぁ~~!」
デュークたちは、番組を見ながら次々に感想を口々にしました。
『さて、首都星系で最も有名なのが第四番惑星であるクレメンティアです。寛容の意味を持つその星こそ我らが首都星ですが、実際の知性体連合政治の中心地は惑星を巡るコロニーや衛星の中に設置されています』
「目的地はこのクレメンティアだけど、行先はここの衛星だね」
デュークが航路のデータを確認すると、行き先は首都星を巡る衛星になっていました。
『第五惑星フェリキタスは、いわゆる工業惑星です。比較的重力の地表から大地の奥深くまでが高度に機械化された星であり、共生知性体連合の重工業の多くがここに居を構えています。なお、機械化されすぎたこの星の中心には、機械仕掛けの神が住んでいるとも言われていますが、執政府はこれを否定しています』
「なんだかしらんけど、あそこから”さぁそのカラダを捨てて、
「私たち、一応機械生物なんだけどね~~!」
『第六惑星は大型ガス惑星のパクスです。平和の名を関した惑星そのものは推進剤の供給地として知られていてるほか、100以上の衛星を抱え、共生宇宙軍はこれらの衛星群に中央司令部や大工廠、泊地などを設置しています。またパクスの公転軌道の反対側には、大型衛星を改造したセクリタス――安全を関した宇宙要塞が設置され、システム・シンビオシス防衛の要となっています』
「本体を置いてきたところね。そこの要塞に共生宇宙軍士官学校があるんだって……あんたのルームメイトのトリって確か――?」
「ああ、スイキーから便りがきてるよ。時間があれば寄ってみよう」
そんなこんなで、彼らが1時間ほどの待機を終えると、航路がクリアになりました。デュークは高速艇の速度と進路を調整し、首都星を巡る衛星の軌道上に向かうで
す。
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