第117話 首都星を巡る衛星にて
デュークたちが乗る高速艇が、
「共生宇宙軍のコード――それも執政府付のものが増えてきたぞ。皆、華麗な装飾がされているなぁ」
艇の光学系で捉えた軍船たちは、金文字でRIQSとステンシルされて、艦の縁には同色の装飾が美々しいラインを描いていました。
「それは首都星警護の防衛部隊のモノね。正確に言うと、執政府の直属の
ナワリンは、連合首都星への航路は宇宙警察の管轄だけども、衛星の周囲は執政府が管理していると言ってから、こう続けます。
「連合の政治中心、執政府と元老院は首都星じゃなくて、あっちの衛星の方にあるからだって。ここからは執政府関係者しか侵入できないルートになるわ」
「へぇ、良く知っているね」
「あたしたちの氏族は軍艦ばかりで、共生宇宙軍の精鋭――執政府付きの近衛艦隊に配属されるフネも多いのよ。あなたも知ってる戦艦マジェスティック――マギス姉さまもそうだったでしょ」
「ふぅん、精鋭と言えば第一艦隊じゃないのかな? 僕の爺ちゃんたちもそこに居たって聞いてるよ」
第一艦隊は、敵対的な勢力――オリオーン腕を根拠地とする人類至上主義者と対峙する前線配備の貼り付け艦隊でした。過去数十年ほどは大規模な攻勢は鳴りを潜めているものの、時折武力衝突が発生する防衛の任になるのです。
「まぁ、実戦部隊としては、第一の方が上よね。あの面倒なニンゲン達の主力と戦い続けているからねぇ。近衛艦隊はどちらかと言えば、儀礼的な側面が強い艦隊だって聞くわ」
「そうするとさ、ニンゲン達と戦った僕たちも、精鋭って奴なのかなぁ?」
「どーかしら――確かに厄介な戦術をとるヤツラだったけれど、内海艦隊たる第五艦隊、それも少数の部隊で対処できたわけだし」
「ン――ボッコボコにされちゃったもんなぁ。あはは、精鋭って感じじゃないねぇ」
デュークは、遠く離れたところにある、自分の本体を確かめるように、龍骨を捩じりました。
「精鋭とかぁ――船ばっかりの氏族生まれのボクにはとんと縁のないことだよぉ」
「そうはいっても、ペトラも結構まともな軍艦として働いてたじゃない」
辺境における戦闘ではペトラも、重巡洋艦としてその力を遺憾なく発揮していました。
「ボク、ホントは商船になって、のんびりと航路を進む生涯がいいなぁ――って思ってたのにぃ」
「そうかぁ……。でも、ペトラが傍にいてくれたから、僕もあの程度の損害で済んだと思うよ」
「え⁈ そう言われるとぉ、軍艦も悪くないかなぁなんて思っちゃぅ~~」
デュークが感謝の言葉を掛けると、ペトラは頬を赤くしながら、モジモジしました。
「ぬ――――! 私にも感謝しなさいよ!」
「あ、うん、ナワリンもありがとう」
「心がこもってなーい! やり直し――!」
むくれるナワリンをデュークが宥めていると、高速艇は目的地たる衛星に近づきます。直径4000キロ超の巨大な衛星の姿がどんどん大きくなり、その表面が様子が鮮明なものとなってきました。
「衛星の表面が光ってる。あれは全部人工の光――ってことは衛星の表面は全てが都市化されているのか!」
恒星の光を受ける昼の面も、暗い夜の面にも幾何学的な複雑な文様のような都市構造物がびっしりと覆っているのがわかるのです。
「あれが首都星クレメンティアの月、衛星カステルね。城塞の名を関する完全機械化された星――長い年月をかけて開発されてきたんだって」
「へぇ、マザーとは違うなぁ。衛星って言うから、マザーみたいな岩石の星をイメージしてたけれどぉ」
衛星カステルは、元はクレーターが穿たれた岩石質の天体でした。それらは全て埋め尽くされて、多重多層の都市構造となっていたのです。
「受け取ったメッセージには、一番大きな所に降りろってあったわ」
「大きなとこって……アレか?」
デュークがカステルの地表データを照会すると、少し先の地平線の向こうにそびえたつ山の様な場所があるのに気づきます。彼は高速艇の舳先を調整して、進路をそちらに向けました。
「山――いや違う……綺麗な正四角錐した人工物か。測距データは高さが100キロ、全周600キロか……
「データによるとぉ、あれがカステルの中心都市セントラル・コアねぇ。共生世界での有数の巨大建造物みたい」
ペトラが、高速艇の中にあった共生世界ガイドブックをめくり該当部分を確かめます。セントラル・コアは執政府や元老院などの施設が設置された、連合の政治的機能が集中しているところでした。
「表面が黒光りして、なんだか分厚い装甲板みたぃ~~戦艦の主砲や核攻撃にすら耐えうる構造なんだってさぁ」
「ふぅん、執政府ってのは、こんなところにあるのか……」
デュークがそのセントラル・コアの外周を眺めると、たくさんの宇宙船が駐機している発着場が見えました。
「麓に発着場があるみたいだ。へぇ、龍骨の民のコードもいくつかあるな。だけど、アームド・フラウの識別符号は見当たらないね」
「セントラル・コアの中にいるのかしらね?」
発着場では無数の宇宙船がひっきりなしに発着しているのですが、受け入れるとメッセージを送信してきたナワリンの親族の姿は見えませんでした。
「まぁ、なんにせよ降りてみないとわからないね」
デュークは、高速艇の重力スラスタを調整して、セントラル・コアへの降下を始めます。
降下を続けてゆくと航宙管制から、麓ではなくセントラル・コアの中腹へ進むように誘導指示が入りました。
「あれぇ、ここでいいのかな?」
「受け取ったメッセージにある座標もこの近くだから、間違いないわ」
デュークが高速艇のスロットルを絞りながらコアの外壁を伝ってゆくと、セントラル・コアの中腹にある装甲板がバシャリと開きました。
「おや、あそこにRIQS(共生知性体連合執政府)の文字があるなぁ。するとここは、執政府関係の施設だろうか」
「重力装置でシールドされているわね。とにかく入ったら」
外壁に空いた隙間にするりと機体を滑り込ませると、そこはこぢんまりとした発着場になっていました。
「ボクたちの他にだれもいないよぉ~~?」
デュークが艇を停止させて、下船しても出迎えも何もありませんでした。彼らが周囲を見渡すと、内壁に大きな扉がついており、その上には特徴的なシンボルが浮かんでいるのがわかります。
「あのマークは……輝く天秤と大きな目って、たしか――」
それは、共生知性体連合執政官を記すシンボルだったのです。
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