第320話 新しい本体

 デュークが盛大なドラゴンブレスをかました男子会から1週間の時が経ち、一行は、共生宇宙軍大工廠から自分の本体が引き出されてくる様子を高速機動艇の中から眺めています。


「うわぁ! 完全に回復しているぞっ!」


お肌装甲板もピッカピッカだわ!」


「武装も完全復活しているよぉ~~!」


 大工廠から引き出された自分たちの本体を眺めたデューク達は、磨き上げられた新品同然の艦体や、生えそろった旋回砲塔に大歓喜しました。これほど短期間で元通りの姿になれるのは、共生宇宙軍大工廠による徹底的なオーバーホールに加えて、生きている宇宙船の回復力のなせるわざと言えましょう。


「ただ、元通りってだけじゃないぞ。少し大きくなったかな全長が200メートルくらい延伸しているなぁ」


「私も50メートルくらい伸びてるわね。眠りながら良いもの食べさせてもらったみたいだわ」


「ボクもほんの少し大きくなっているね。艦形が少し変わったみたい~~!」


 生きている宇宙船な少年少女達はみないまだ成長期であり、龍骨にある設計図に従ってしかるべき完成形に向かっているのです。


「装甲の厚みが増してる感もあるしわね。ちょっと、デブッちゃったかしら」


「それって出るところが出たってことでしょ~~? いいなぁ~~!」


 ナワリンのバルジは少しばかり膨れ上がって防御力が上昇しています。他の種族だったら胸部や腰部装甲胸や尻が大きくなっているようなものかもしれません。なお、重巡洋艦であるペトラの艦形は、よりスマートで流麗な巡洋艦としてふさわしいものになっています。


「デューク級級超巨大戦艦――1.8キロ超級なのね。生きている宇宙船の歴史において、このサイズにまで成長したのは数える程よ」


 共生知生体連合の歴史に詳しいエクセレーネは「過去には2キロ越えの戦艦もいたそうだけど」と続けます。


「それは伝説の戦艦ライデンだよぉ~~!」


「伝説


「なぁデューク。お前、前に見たときよりも砲の数が増えてねーか?」


 高速機動艇に同乗しているスイキーは、デュークの武装が増していることに気づきます。主砲である三連装重ガンマ線レーザーが三基なのは変わらないとしても、副砲その他両用砲は100基を超えており、ハリネズミ感がマシマシでした。


「また成長したのかな。それにしては数が多すぎる気もするけれど……あれ、見慣れない装備が付いているぞ?」


 デュークが艦の後部を見ると、そこには長い橋げたのようなものが備え付けられ、大型艦載機のような物が鎮座しています。


「あれは航宙戦闘機? でも、見たことのない形式だわ」


 教官として実習に同行するアライグマのリリィは、デュークに装備されている艦載機のデータを確かめ「Xで始まる形式番号ね、大工廠の試作機かしら?」と呟きました。


「教官、あれは小型縮退炉搭載型航宙戦闘機かもしれません。開発が進んでいるとは聞いていたが、もう実機が完成していたのか」


 星系軍では航宙戦闘機乗りであったスイキーは、航宙戦闘機に造詣が深く「サイズは100メートルか? 大型戦闘機というよりは最早フリゲートだぜ。推進器官は概念エンジンだったかな」というような言葉を口にしました。


「ということは、僕のカラダの中から生えてきたものではないものかぁ」


 なんでそんな物がついているのだろうと艦首を傾げたデュークに、大工廠からの通信が入ります。それは大工廠の責任者共生宇宙軍技術大将ドクトル・グラヴィティからのものでした。


「戻ったか、デュークよ。カラダは完全に整備してあるぞ」


「ありがとうございますドクトル――でも、なんだか砲や装備が増えているような気がするのですが? 多少は成長するものだとは思いますが、ちょっと違和感がありますよ」


 至近距離から本体とリンクしているデュークは、自分の諸元を詳しく確かめながら「特に主砲が変な感だ」と呟きました。


「ああ、オーバーホールのついでにあれやこれやと共生宇宙軍大工廠謹製の試作兵器を装備しておいた。ちょうどよいプラットフォームが転がっておれば試作品を装備したくなるのがマッドの性分というものだからなァ!」


 マッドなドクトル・グラヴィティ――共生宇宙軍技術大将である彼は「ヒャハハハハッハハ!」と狂ったような笑い声をあげました。デュークは「うへぇ……勝手に武装を増やされていたのか」と呆れました。


「完全にぶっ壊れておった主砲は砲塔ごと新しいのを移植しておいたぞ! 試作80サンチ重ガンマ線レーザー砲――こいつは実体弾射撃もできるというハイブリッド砲なんだぞォ!」


「あ、主砲の違和感って、それが原因か」


「ほぼ慣らしは終わっておるが、重量が増えているからな。ま、数週間もすればお前さんのナノマシンも完全に同調するだろう」


 グラヴィティは「新造艦ならともかく、普通の艦にこんなもの装備したらトップヘビー過ぎてバランスを崩すが、デュークなら問題なかろう!」と説明しました。龍骨の民にとっては、主砲の換装は歯のインプラント手術程度の感覚で行えるものなのです。


「それはいいとしても、縮退炉や推進器官に手を加えてませんよね」


「まぁ、それは本人の同意が必要だからな」


 心臓や脚の交換は一種のサイボーグ化手術であり、生きている宇宙船の命ともいえるものですから、仇やおろそかには交換できません。免疫機構が過剰反応して重篤な状況に陥ることがあるからでもあるのですが――


「だが、執政府の……ゲフンゲフン」


 ドクトルは「許可」という言葉を、あからさまな空咳でかき消したのです。


「ッ――――⁈ ドクトル、執政府って、僕のカラダに何かしましたねっ⁉」


「いやいや、しとらんしとらん。ソフト面なら多少の危ない橋も渡れるが、重要な具品に対して物理的な手段を講じるのは緊急事態でないとな」


「ソフト面ではしてるんだ……」


 デュークが青ざめるのを他所に、ドクトルは「安心しろ、試作兵器の装備に関する刷り込み教育を行っただけだ」と説明しました。彼は龍骨へのハッキングを認めたものの、装備を使いやすくするための調整を行っただけなのです。


「いやぁ、ホントは縮退炉の追加やら、新型Qプラズマ推進機関を実装したかったのだがなァ。あと、副脳の増量とかな! クハハハハハハハハハ!」


「そこまでやると、バランスが崩れるからやめてくださいよぉ……」


「まぁ、それは造船屋としても望むところではないからな」


 ドクトルは縮退炉技術だけでなく艦船の設計まで手掛ける天才であり、マッドな天災の側面を持つのですが、連合大工廠を預かる技術大将ですからまともな部分もあるという一種の万能人でした。


「とまれ、これでお前さんの戦闘力は大幅な向上を遂げた――そして戦艦としては現役最大サイズ――もうあれだな、ぶっちゃけ種族旗艦を名乗ってよいかもしらん」


 種族旗艦とは種族の威信を掛けて作り上げる強大な宇宙戦闘艦であり、ペンギン帝国のフリッパード・エンペラや、ルルマニアンのゴッド・セイブ・ザ・クイーンズなどが存在しています。


「今のお前なら、龍骨の民の種族旗艦である駆逐艦スノーウインドと渡り会えるやもしらんな」


「あれ? 僕らの種族旗艦ってスノーウインド執政官だったのですね」


 フネとして優秀な生きている宇宙船たちですが、肝心な情報ぽっかりと抜け落ちているという微妙なトンマさを持っていました。


「なんだデューク、お前も知っているはずだろ。幸運艦スノーウインドのことは」


 横から口を出したスイキーが「映画や物語になってるじゃねーか」と突っ込みます。彼は「決して当たらぬ敵弾、彼女を攻撃する前に砲は自壊し、ミサイルは自爆し、敵の縮退炉は自損する――運命の女神やら死神が出張ってきても殺せない幸運艦だぜぇ!」とも続けました。


「ええ、あれっておとぎ話みたいなものだと思ってたよ」


「ボクも幼生体あかちゃんのころ、そんなアニメを見たことあるけれど、作り話だと思ってた~~!」


「私は同じ氏族だけど、卓越した回避能力がそれを可能にしたんだって、おばあちゃんたちから聞いているわ」


 デューク達は幸運艦スノーウインドのことを優れたフネとして憧れてはいるものの「お話の方は、現実的にはあり得ないよねぇ。現実には脚に被弾して直らないのだもの」と少しばかり冷めた目で見ています。龍骨の民はフネとしての部分では変に現実主義なところがありました。


「現実にはあり得ない幸運艦か。あれは連合の、執政府のプロパガンダの一つだからな。クハハハハハハハ!」


 生きている宇宙船について詳しいドクトルも高笑いを上げ「回避能力がいくらあろうと、いずれは被弾するものだ」と言ってからこう続けます。


「ま、それはそれ――――。縮退炉も推進機関も万全の状態だ、これで万全の状態で実習先に向かえるぞ。それでもって、試作兵器をジャカスカ使ってくるのだ!」


「えーと、そうですね……ともかくありがとうございます!」


 そのようにしてデュークは感謝の言葉を口にしながら「でも、こんな武装が実習先――未開星系で必要になるかなぁ?」などとも思いました。

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