第16話 暗闇の中へ

「今日はどこにいこうかなぁ」


 活動体を得たデュークはこれまでいけなかったネストの探検を始めています。それは天井裏や、装置の隙間など、本体ではいけないところでしたが、今の彼ならば入ることができました。


「あ、こんなところに穴ぼこがある。行ってみよ!」


 デュークは、ネストの片隅に直径5メートルほどの隧道トンネルがひっそりと穿たれているのに気づきました。


 本体でネストを探検していた時には、そんなものがあることわかりませんでしたが、今はそれがよく見えるのです。


「奥は暗いなぁ。良く見えないや」


 穴には照明などはついておらず、電波を発して中を探っても、奥の方は曲がりくねっていて、よくわかりません。


「ライトを照らせばいいかな」


 デュークは本体と同じように活動体に仕込まれているライトを照らして、進み始めます。


「うわぁ、凄く暗いぞぉ」


 しばらく進むと、差し込んでいたネストの淡い光が届かなくなり、頭に付けたライトだけが頼りとなりました。


「うーん、曲がりくねってる」


 彼は立ち止まったり、怖々こわごわと前後を確認しては、穴蔵の中を進みます。


「龍骨がゾワゾワするぞ……先の見えない航路みち――う、なんだろうこのコード」


 龍骨がキュッと心細くなったデュークが、ハフゥと排気しました。彼は自分の中にあるコードをじっくりと味わうのです。


「怖い……これが怖いってこと」


 それは”恐怖”というコードでした。先の見えない危険な航路みちに対して、龍骨が持つ本能的な感情です。フネにとって、行き先が見えないというのはとても不安なことなのです。


「どうしよう……」


 ここから、戻っても別段問題はありません。デュークの龍骨で「今日はここまでにしようかな」、そんな気持ちが段々と大きくなってきます。


「うにゅぅ……」


 彼は龍骨を捩じりながら、しばらく逡巡ためらいの波間に入り込みます。そうしていると、龍骨に新しいコードがにじみ出てきます。


 デュークは、そのコードを龍骨こころで味わいます。すると、ジワリとした熱い気持ちが膨らんできます。彼はそれを自分なりに解釈しようとします。


「前へ進め……?」


 何故か前に進まなければならないという気持ちがジワジワとにじみ出てくるのです。これは彼がフネとして持つ特性でした。龍骨の民の中には、行き先の見えない航路であっても、恐れず進むフネがいるのです。


 デュークはそれに従うことが自分には必要であると直感しました。だから彼は龍骨こころを定めて、決断します。


「両舷全速――! 前進だぁ!」


 ただ前へ、前へ――その時の彼は、ただそれだけを考えていたのです。

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