第269話 タスクフォース

「一つ手前の星系に残置した電子偵察艦がメカロニア艦隊の姿をキャッチした。数はおおよそ2万隻と言ったところだ。現在我々がいる星系に到着するのは3日から4日後」


 そう言ったカークライト提督は「これに対して我が方は星系外縁部に陣を敷き、全戦力を持って防衛行動に移り、この星系でメカロニアの進攻を食い留めるのだ」と続けました。


「ゴッド・セイブ・ザ・クイーンズを中核として再編成した分艦隊をタスクフォースA、ペンギン帝国近衛艦隊をタスクフォースBとし、それぞれ陣の左右を担当する。中央は傭兵と民間軍事企業の艦艇を混成したタスクフォースCだ」


 スクリーンは現在彼らが居るチタデレ星系の概略図が浮かんでいます。その外縁部、スターライン航法の終着点と予測される地点には、既に共生宇宙軍の一部艦艇が先行し防御陣が敷かれ初めていました。


「正面戦力、主戦力となるタスクフォースCは防御陣の要であるが、部隊の組織力に難があるのは否めない――」


「――タスクフォースCは、鉄床かなとこですニャ。敵を受け止めるだけならば混成部隊でも問題ありませんぞ」


 カークライト提督の言葉を引き継いだトクシン和尚が「ハンマー役はA、予備兵力にBを据えると」と続けると、カークライト提督はニヤリとした笑みを見せました。


「次はデューク君についてだが――」


 カークライト提督は「旗艦任務から外れ分艦隊主力から離れもらう」と唐突に言いました。


「ふぇっ……?!」


 カークライト提督は「分艦隊主力、タスクフォースAはこの戦で高速戦闘を行うことになる。損傷の多い君は連れて行けない」と、豊かに蓄えた顎髭をしごきながら言いました。


「えっと、ご飯を食べて装甲もかなり回復したのに……推進器官だって……」


「いや、君が受けたダメージは相当なものだ。いかに龍骨の民とはいえ、機械帝国の先遣隊が到着するまでに高速機動が可能になるとは思えない」


 カークライト提督は船乗りとしての長い経験から、龍骨の民の回復力にも限界があることを知っていました。デュークのカラダは本来であれば全面的なオーバーホールが必要な状態なのです。


デュークは「で、でも僕は……」と、口ごもります。


「デューク、俺も提督の言う通りだと思うぜ」


 ペンギン帝国星系軍の責任者として会議に参加しているスイキーも「お前の気持ちも分かるがな」となだめます。


「デューク以下、ナワリン・ペトラ両名はタスクフォースCに編入する。ラトウィッジ元中将の指揮下に入り混成部隊の旗艦を担うのだ」


「クイフォア・ホウデンは大破しておりますからにゃニャ、デューク殿の背中を借りますぞ」

 

 トクシン和尚は座乗していた重巡洋艦から指揮ユニットを外して、デュークに連結すると説明しました。


「ラトウィッジ元中将は、私よりも指揮能力を持っておられる歴戦の指揮官だ。その下で学ぶことは多いだろう」


「なるほど……これも勉強ですね」


 カークライト提督の言葉に、デュークは「わかりました」と艦首を振ります。


「はっ、考えて見れば、凄い待遇だなデューク。寄せ集めの軍勢とは言え1万5千隻の旗艦を務めるなんてよっぽどのことだぜ」


 スイキーはフリッパーをフリフリさせながら「しかもお飾りじゃない、ほんまもんの旗艦だ。さすがは大戦艦、さすがは俺の同期だぜ!」とクワクワっと笑いました。


「イコカ大佐、お飾りでいてもらっては困る。ペンギン帝国近衛艦隊は予備戦力として重要な役割を果たしてもらう必要があるのだ」


「わかっております提督。投入前提の後詰ということですからね」


 スイキーの答えを聞いたカークライト提督は「理解されていればよろしい、殿下」と笑みを見せたのです。


 そして数時間後――


「デューク一等軍曹、入ります! ラトウィッジ中将、接続作業が終わりました!」


 クイフォア・ホウデンの伽藍のような仰々しい艦橋部分を背中に据える作業を終えたデュークが、指揮ユニットに入ります。そこではトクシン和尚とその弟子たちが司令部的な機能を立ち上げていました。


「おお、デューク殿。ワシのことはトクシンと呼んでくだされ」


「でも、和尚様って、元中将なんですよね?」


「なるほど、デューク君はそういうことを気にする性質だったか」


 龍骨の民は階級や肩書というものにあまり頓着しない生き物ですが、デュークは少しばかりこだわりのあるという珍しい側面を持っています。


「では、ワシのことは和尚様と呼ぶように。これは命令だニャ。いいかねデューク君?」


「ふぇ……わかりました和尚様」


「ほっほっほ」


 ニマッとした笑顔を浮かべたトクシン和尚は「それでは、傭兵や企業の代表にあうとしようぞ」と言いました。


「代表ですか……あの、そもそも傭兵とか民間軍事企業というのがわからないのですけれど」


「うむ、簡単に言えば、お金を貰って戦いをするのが仕事な者たちだニャ」


 和尚が「世界最古の職業の一つと呼ばれてもいる」と説明すると、艦首をひねったデュークは「それじゃ、軍人と同じでは?」と呟きます。


「国家に所属しているか、していないかという、大きな違いがあるのぉ」


 トクシン和尚は「彼らの多くは共生知性体連合所属の知性体でもあるが、連合と違った独自の組織を持っているのじゃ」と言いました。


 宇宙傭兵の多くは辺境宙域や連合に加盟していない少勢力などを渡り歩き、軍事力を提供することで商売を成り立たせている軍事面での独立商人のような存在です。そして民間軍事企業は、それを会社組織として行っていて、規模が大きいのが特徴です。


「まぁ、それ以外にも仕事は色々とあるのじゃがニャ。海千山千の輩も多いしの」


 和尚いわく、共生宇宙軍の下請け、星系内に湧いた宇宙怪獣の駆除、星系内紛争への介入といったちょっとばかり法的にグレーゾーンな仕事があるそうです。デュークは「ふぇぇ、軍事力って連合を守る以外に使えるところがあるんだなぁ」と、世の中の後ろ暗い部分について少しばかり学ぶこととなるのです。

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