第36話 フネとは

「マギスさんのお肌って、すごく綺麗だね!」


 デュークが薄桃のマギスのお肌――生きている宇宙船の強固な生体積層装甲をしげしげと眺めます。


「ねぇ、その肌の下にも武器を持っているんでしょ? どんなのがあるの? 触れるな危険ってコードが邪魔してわからないんだ」


 デュークはマギスのカラダの各所に大小の射出口がたくさん有るのを見つけました。


「あまり見せるものではないけれど……まぁ、子どもだからいいか」


 マギスはそう言いながら、カラダについている無数の射出口をカシャカシャと開閉させ、中にあるは様々な兵器をチラリと見せます。


「多くは生体誘導弾よ、内蔵型の近接防御火器ユニットも入ってるわ。時々、カラダの代謝に合わせて変わるものなの」


 生きている軍艦の兵装は、歯が生えたり爪が伸びたりといった感じで生え変わるものでした。その数は成長と老化に会わせて調整されてゆきます。


「でも、やっぱりメインなのは、この主砲ね」


 マギスは背中に付いた四つの砲塔をくるくると回しました。


「そういえば、敵と戦うのが戦艦って言ってたね。戦争? それがお仕事なの?」


「どちらかって言うと、戦争が起こらないように睨みを利かせるのが仕事かな。ここから先は通さないぞ……戦艦というものは、そこにいるだけで敵を下がらせることができるの」


「でも、それでも敵が向かってきたら、どうするの?」


「攻めてこられたらやるしかないわねぇ。最前線でドンパチをするのが私たちの仕事だから。今はコンスルフリート所属だから、あんまりやらないけれど、昔はそんなことがあったわ」


 マギスは、共生宇宙軍での仕事についてかいつまんで説明します。


「仲間たちと一緒に、殴り合いをしたものね。一歩も引かない覚悟で撃ち合っていれば、その内、敵さんたちは逃げていったわ」


 マギスは、どうだ! と言う風に砲身を振り上げました。


「凄いなぁ……戦艦ってすごいんだなぁ」


 デュークは大変感心しました。そして――


「僕も……戦艦になりたいなぁ」


 ――と言うのです。


 そんな彼の言葉に、切れ長の目を補足したマギスがこう尋ねます。


「あら、まだデュークは船か、艦か分からないじゃない」


「うん、でも、僕は昔いた大きな戦艦の名前を貰っているから。なんなく、軍艦になると思ってるんだ」


「そう……でも、それはマザーの思し召し次第よ。フネと言う生き物は、マザーが決めた設計図によって作られるものよ」


「うん、それは知ってる」


「それにね、デューク。我ら龍骨の民――生きている宇宙船――フネなの」


 マギスは、「艦とか船とかは、ホントのところはどうでも良いのよ」と言いました。そして彼女は、クレーンを伸ばしてデュークのお腹の辺りをポンポンと突きます。


「縮退炉を持ち、推進器官を動かす。そして、星の世界を自由に航海するのが私たち。それは艦も船も変わらないわ」


 彼女は、カラダの後ろについた推進器官を上下左右と躍らせます。デュークもそれを真似て、船足をパタパタさせました。


「貴方は一体何者?」


「えっと、僕は……フネだよ」


 マギスは切れ長の目をデュークに向けて尋ねると、デュークは少しばかり龍骨を捩じってから、そう答えます。


「そうね、星の世界を自由に航海するのがフネなの。さて、もう一度聞くわ。あなたは艦なの? 船なの? それとも――」


 マギスは切れ長の視覚素子をさらに細くしながら、改めて問いかけました。


「僕は、フネです! 生きている宇宙船です!」


「はい、大変良くできました」


 元気いっぱいなデュークの答えを聞いたマギスは、クレーンを伸ばしてデュークの舳先をなでなでしました。するとデュークの白いほっぺたに、花丸のような赤みが咲いたのです。

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