第330話 監察官代行
「まず再確認。デューク他三隻と高速機動艇のステルスは確保できてるわね?」
「イエスマム、影も姿も探知できないハズです」
「科学技術ともかく、サイキック防護は大丈夫かしら。この星系の住民は思念波能力に優れているわ。私達が到達したことを気取られていないわね?」
「高速機動艇内は私がカバーしています。デューク達の思念波はそれほど遠くまでは届きませんから、問題ありません」
エクセレーネはA級サイキックであり、主に通信やその欺瞞の能力に優れていました。また、龍骨の民の思念波は自分自身であるミニチュアにはかなり遠方まで届くものですが他人にとっては極めて微弱なものなので探知される恐れはありません。
「本艦およびデューク達の安全は確保できていると考えてよいわね……それでエクセレーネ候補生、星系内にいるはずの監察官の思念波を感知できない、これは事実ね?」
「はい、私は準S級サイキックですから、相手がA級以上のサイキックであれば、星系内のどこもでも感知することができます」
エクセレーネが「でも、まったくみつからないのです」と答えると、リリィは「むぅ……」と少しばかり瞑目して思考を巡らせます。
「…………他に波は感知できるかしら?」
「監察官以下執政府関係者の思念波はまったくありません。また、星系内には思念波の発信を認められません」
キツネ耳の美女が「雑音のようなノイズのような波は感じのですが――」と言ったその時、よこちょでそれを聞いていたスイキーが「おいおいおい!」とトサカを上げて騒ぎました。
「ここの住民はたしか思念波技術に優れた種族なのに、雑音しか感じねぇってこたぁ、そいつはジャミングってやつをかまされてるんじゃねーのか?」
「かもしれないわ。でも、一体なんのために……」
「理由はわからないが、監察官が定刻通りに現れない、星系内住民は思念を閉ざしている――星系内に電磁波の類も観測できない――デューク候補生?」
「はい、星系内を丹念に観測していたけれど、ほとんど電磁波を検知できませんでした。未開星系といえどもそれなりの科学があれば信号の一つや二つ拾えるはずですよね」
デュークは半刻ほど視覚素子を伸ばして星系内を観測していたのですが、有意なシグナルを拾うことができていませんでした。
「これは無線封鎖・灯火管制状態というべきものか」
リリィ教官は「戦時下におけるそれね」と指摘したその時です。デュークが「ッ――⁈」と声を上げてから、すぐさま報告に入ります。
「星系内に大規模な赤外線反応を確認――これは核分裂反応か融合反応です! 中性子とガンマ線バーストも検知しました!」
「位置は?」
「第六番惑星の公転軌道上――あっ、次々に反応が現れてます。これって人為的なものですよ!」
天然の核反応炉や恒星の核融合反応は自然が織りなす物理現象ですが、限定された宙域で連続して爆発を起こすようなものではありません。
「近辺にステルシーなフネの反応が複数あります! これは艦隊が同士が核を投げあって……」
「核反応と核融合ね? 対消滅はない?」
「そこまでの熱源レベルはありません」
核爆発は、核分裂、核融合、対消滅と、乗数的に威力が増してゆくのですが、どうやらこの星系においては核融合までが限界のようです。
「光学兵器は観測できるかしら?」
「ええと、レーザー的なものはありませんけれど、なんだか判別しがたいエネルギーの球を投げあっています。それがヒットすると核爆発が起きているみたいです」
デュークは「威力は平均100メガトン級くらいです」と報告を重ねました。
「100たぁ、それなりの威力はあるが、どうみても恒星間勢力の殴り合いレベルに達しておらんな……」
恒星間勢力の艦船が投げあう投射兵器は1000メガトンが最低限で、100メガトンとはいえばデュークが持っている一番小型のミサイルの火力程度にすぎません。
「ありゃぁ、ここの惑星国家同士――内惑星同盟軍と外軌道連合軍の戦いのようだ」
スイキーは手元のデータを確認し、惑星間航行能力を有する二つの勢力の名を上げました。
「ふむ、こういった未開星系では星系内戦争なんて珍しくもないけれど。監察官は何らかの形で、あれに巻き込まれた可能性があるわね」
リリィは「本来であれば介入は禁足事項なのに」と呟いてから、こう続けます。
「監察官の指揮権が確認できないため、私を共生知生体連合星系監察官代行と指定します」
自らを監察官代行と宣言したリリィは、高速機動艇の電算機にその旨記録するように命じ、そして――
「現時点をもって士官候補生実習隊を監察艦隊に編入。これより監察官の安否確認のため、星系内直接監察行動に入る」
という決断――現状一般白紙命令下にある現状で許され得るものなのか、法律の専門家でも判断しがたいもの――を一切の迷いなく下したのです。
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