第331話 同乗者
「ひょぉう! さすがはリリィ王女殿下、即断即決ぅ!」
などという言葉をスイキーは心の中で押しとどめます。だって責任を押し付けられた女性が怖い顔をして睨んでくるのですから、仕方がありません。
「ええと、未開星系開発法に基づく……監察艦隊、と……」
横ちょでデュークが「ええと」などと艦首を捻りながら、続くコードを眺めます。
「条文を要約すると……監察官としての武力権限、当該星系における経済ならびに政治行為の全権委任を持つ艦隊? あれれ、もしかしてこれって執政官とおなじ権限があるってことですか?」
「そう、近衛と同じ、執政府直属艦隊扱いになるわ」
リリィ教官は執政府直属艦隊というところに力点を置いて答えました。そんな彼女の言葉に――
「でも、三隻で艦隊というのも違和感があるわねぇ」
「そうだね、百隻は欲しいよね~~!」
ナワリン達は「なんというか、駆逐艦やらフリゲートのお供が欲しいわ」やら「ボクは補給艦がほしいぃ~~! ご飯、ご飯、ご飯」などとのたまいました。
「おいおい、ここは未開星系――核融合程度の火遊びをしてる連中相手に、龍骨の民のデカいヤツ三隻ってのは、オーバーキルにすぎる戦力だぜ」
スイキーが苦言を呈す通り、未開星系と共生知生体連合のような恒星間勢力とでは科学力が違いすぎます。その上に、監察艦隊となる三隻は超大型戦艦、高速戦艦、重巡洋艦であり、かつ龍骨三倍則が適用される龍骨の民なのでした。
「やろうと思えば重巡洋艦のペトラちゃんだけで、星系を制圧できるかもな」
スイキーは「お前らそこんとこ良く知っとけ」と先輩風を吹かせるものですから、ナワリン達は「わかったわよ」とか「へーい、スイキーパイセンの言う通りですぅ~~」などとブー垂れます。でも、彼の言うことは事実なので仕方がありません。
「とはいえ、サイキックスキルに優れる種族は危険だわ。どんな手管をもっているか、わからないもの。いまだって、私の探知を免れているレベルなのよ」
サイキックによる星系内探査を継続しているエクセレーネがキツネ耳をピョコピョコさせながら「うん……パッシブだけにしないと、逆探されるかもね」などと、独り言ちました。
「エクセレーネ候補生の言う通り何があるかわからないわ」
リリィは両手をスリスリさせながら首肯しました。なお、アライグマがスリスリしているときは何事かを考えている時でした。
「まずは、星系なの情報を収集したいところだけれど」
「偵察ですか? では、自律型ドローンを忍び込ませますか?」
リリィにポイっと指揮権を返上したスイキーですが、星系軍の少佐であることから、その手の戦術に詳しいところを見せました。
「本艦隊に艦載AIがあればそうしたいところだけれど、あいにく艦橋部たる高速機動艇にはそれが搭載されていないのよねぇ……」
実習ということもあり、司令部ユニットとして機能している高速機動艇には高性能な機械知性が存在していません。
「ふむ、自我を持たないプログラミング型はありますが……」
「それだと、電子遣いがいたらハッキングを受ける可能性もあるわね」
電子遣いとは、サイバー空間でサイキック能力を使う能力者の事であり、リリィは「リスクがあるわ」と懸念を示しました。
「リリィ教官――いえ、指揮官殿のお考えに賛成します」
A級サイキックなエクセレーネは「ネットがつながっていなくても強制的に介入してくるような電子遣いだっていますから」と告げました。
「となれば、実地に見てくるしかありませんな……それじゃ俺が艦載機で偵察してきましょうか」
「そうねぇ……」
スイキーの提案にリリィは「リスクはあるが、やむを得ないか」と言いながらなおも両手をスリスリし続けます。その勢いは摩擦熱で炎が上がるがごとき勢いであり、ラスカー大佐のそれを知っているデュークなどは「アライグマの習性というか、似たもの夫婦なのかな?」などと場違いな思いを頂くほどでした。
「デュークに装備されたあの新型艦載機は、二人乗りだったわね?」
「ええ、こないだ飛ばしましたが、普通の二人乗りです。ああ、近場なら一人でもいけますが、同乗者が必要ですな。そういう決まりですから」
共生宇宙軍の艦載機は基本的に二人以上の乗組員が搭乗するものです。パイロットと機械知性かそれに準ずるアストロメクロボでチームを構成することで、不測の事態に備えて冗長性を確保する意味合いがあり、規則としてもそうなってました。
「ええと、指揮官殿は論外として――エクセレーネを載せたらサイキック探知ができなくなっちまう。そしたら、あれだ。デューク、お前後ろに載れ」
「え、僕? 活動体で艦載機に入るの?」
「ナワリンちゃんやペトラちゃんでもいいが、やっぱ新兵訓練所の動機の方が気ごころがしれて気楽だからな。なんせ艦載機の中はせめぇんだ」
と、スイキーは同乗者にデュークを指名したのです。
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