第192話 巨大超獣

「ふぇぇぇえええぇっぇぇぇっ!?」


「でっかいエーテル超獣が出た~~デュークよりもでっかいよぉ~~!?」


「ば、化け物だわ……あんなに大きいのが居るなんて聞いてないわよ!」


 エーテル溜まりが弾け、ズゾォォォォオオォオォォオン! という鳴き声とともに、中からこれまでとは比較にならないほどのサイズを持つエーテル超獣が姿を現しました。


「3キロ以上もあります! 観測史上最大級の化け物です!」


 デュークに載る司令部ユニットでは、観測班のオペレーターが、量子レーダーを眺めながらそのように叫びました。


「うつ、連続重力震を確認――――!」


 続いてパン! パン! パン! と、巨大超獣が現れた時よりは比較的小さな衝撃が立て続けに沸き起こります。


「複数の大型種を確認! 100体以上の群れです!」


 巨大エーテル超獣の周囲を囲むように、数百メートル級以上の大型超獣がゾワゾワと出現しました。


「な、なんだって――――!?」


 巨大な超獣に加え、これまでとは比較にならないほどの規模を持つ群れが現れ、分艦隊内は驚愕から一時的な恐慌状態へ陥る寸前です。平素は冷静沈着なカークライト提督も、眉間に皺を寄せ、豊かに蓄えられた顎髭の中で「むぅ……」と口を歪めるほどでした。


 しかし彼は一瞬の後、すぐさま分艦隊全体に「全隊、第一種戦闘配置」を命じます。続けて「100隻程度の艦隊が居るのと変わらん。落ち着いて対処するのだ」とメッセージを放ちました。


 彼の的確な指示は、サイキッカー達の艦隊内即時通信により、全艦に伝達されます。すると、動揺を見せ始めていた艦隊内はすぐに沈静化しました。


「次元断裂内の歪曲が確認されています! あれは別次元から跳躍してきた模様です! 艦隊AIの分析では、断裂内のエーテルが変質し重力異常を引き起こしたことで、次元の壁がゆるくなり、普通ではありえないサイズのエーテル超獣が次元の間をくぐり抜けたとのこと!」


 司令部ユニットを住処としている分艦隊専用の機械知性が無駄に良い仕事をして、巨大エーテル超獣の出現の原因を引き出しました。


「次元断裂の主に、その取り巻きといったところか……」と独り言を漏らしたカークライトは、クイッと軍帽を被り直し、「動きは有るか?」とオペレータに尋ねました。


「超獣群は、艦体右前方を遊弋中……いえ、目標内に高熱源反応があります。おそらく推進器官を暖気している模様です。ッ――動き始めました!」


「ふむ……艦隊の頭を押さえる方向に進行しているな……速度はどうだ?」


「これまでのエーテル超獣に比べ鈍足ではありますが、進路予想地点で艦隊中段に到達します!」


 返答を受けたカークライトはそこで、しばし考え込みます。


「なるほど、交戦は避けられないか……では、やるしかない」


 そうつぶやいた彼は、航路の残りの予想距離を確認してから、このような指示を出します。


「小型艦および非戦闘艦は、通常空間への脱出ポイントに急行。指揮は臨時にデッカー特任大佐にまかせる」


 カークライトは、駆逐艦以下の艦艇の指揮権をデッカーに任せました。突然そんなことを言われたデッカーは、泡を食って驚きます。


「おい、なにをするんだカークライト――――」


「小型艦や装甲の薄い艦では、あの超獣群に襲われたらひとたまりもないだろう。私は大型艦を集結させて時間稼ぎする」


「囮になるってことか?」


 デッカーの問いに、カークライトは頷きながら「それが一番被害が少なそうだ」と答えました。


「艦母を中心に装甲のある大型艦を抽出しろ。旗艦部隊からもだ」


 カークライト提督は、これまでの経験と、次元断裂内におけるエーテル超獣の戦力を勘案し、確固たる意思を持ってそう言い放ったのです。


 提督の策はすぐさま実行に移されました。デッカー率いる大多数の部隊は、次元断裂を抜けるポイントに向かって全力加速を開始します。


 すると、エーテル超獣はそちらへ向かって、進路を変更しようと動きを見せました。


「あ~~! デッカーさんの方に、エーテル超獣が行っちゃうよ~~!」


「これは、まずいわっ!?」


「カークライト提督、どうしますか?!」


「予定通り、重力波ビーコンを全力作動させろ!」


 カークライトは、残った大型艦100隻ほどに重力波を投射するように指示をします。それは縮退炉を調整して作られる重力波の汽笛のことでした。


汽笛雄叫びを放て!」


 ドゴッゴゴォォォォオオオォオォォォオオン! ズバァァァァアアアアァァァン! 

ババババアァアァァァァン!


 デューク達を始めとする大型艦から、ブワリと広がる重力子の波が放たれ、空間内に広がります。すると、エーテル超獣の群れの動きが止まり、デューク達の方に向かってくるのです。


「うわぁ……やっぱり、こっちに来るわね」


「来ないで~~!」


「まぁ、うまく行ったからいいじゃない」


 ナワリンとペトラは、「最低――!」とか言いながら、縮退炉の熱を戦闘モードに引き上げました。デュークも手持ちのミサイルを引きだして、準備を整えます。


「全艦ミサイル投擲!」


 カークライトの指示により、1000発ほどのミサイルが投げつけられます。時限信管つきのそれは、エーテル超獣の群れの前面に一直線に飛んでいきました。


「あと後20秒で起爆するよぉ~~~~!」


「これで済めば御の字だけどぉ……」


「あっ?!」


 エーテル超獣たちは、投げつけられたミサイルに構いもせずに、前進を続けています。小型種は美味しそうな餌だと勘違いして食らいついていたのですが、大きな超獣からすれば、食いでのない小魚程度にしか見えないのでしょう。


「で、本命の餌は、私達ってことよねぇ。ああ、もう、最低!」


「ホントやだぁ~~~~!」


 ナワリンとペトラは口々に「いやだわぁ」と言うのですが、彼女達も軍艦の端くれです。実戦経験もそれなりに積みつつある二隻は、スルリと動いてデュークの両脇を固めました。


「全艦、艦首艦外防壁に全エネルギーを回し、艦首を縦にせよ! 一匹も逃すな!」


 カークライトは、エーテル超獣に真っ向からぶつかるように、全艦に指示を出しました。


「超獣群の進路確認……各艦の担当を確認せよ」


 迫りくるエーテル超獣に対して、艦ごとの割当が振られています。


「旗艦デューク・オブ・スノー以下、龍骨の民は巨大エーテル超獣を抑え込め」


「了解です!」


 緩やかに近づいて来る超獣の群れの中心に、巨大なエーテル超獣がいます。カークライトは、もっとも装甲の厚いデュークにそれを割り当て、僚艦であるナワリンとペトラにサポートさせるつもりでした。


 巨大な超獣の推進力に対して、デューク一隻では対抗できないとカークライトは判断したのです。


「よぉし……まず僕が突っ込んで頭を抑えるよ」


「私は、右舷から支援するわ」


「ボクは左から~~」 


 デュークたちは、艦外障壁を全開にしながら、艦首を縦にします。エーテルの波濤を乗り越えて迫りくる異界の化け物達を見据え、デュークたちは龍骨を震わせながらも、決して目をそらさずに、それを待ち受けるのです。

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