第三艦隊分艦隊旗艦

第180話 旗艦

「ふぇ、僕が艦隊旗艦Fleet flagshipですかっ?!」


 突然カークライトから旗艦になれと言われたデュークはあまりのことにびっくり仰天です。脇ではナワリン達が「旗艦になるのって凄い名誉なことだわぁ!」とか、「一番偉いフネってことでしょ。すごぉい~~~~!」と言うほどに、旗艦になることは大変な名誉でした。


「それから、ナワリン、ペトラの二隻も司令部付きの護衛艦に任ずる」


「お子様三隻をねぇ……」


 司令部付きというのもやはり名誉なことなのですが、デッカーから見るとデュークたちは、まだまだおこちゃまなので心配になっているようです。


「あんまり子ども扱いするのものではないぞ。先ほども言ったが、彼らの力は良く知っている。それにこれは――」


 カークライトは、天を仰ぎ見るように「上の方からの肝いりということもあるんだ」と言いました。


「上ってなんだ、第三艦隊司令官殿か?」


「いや、更にその上からだな」


「そいつは宇宙軍司令からってことか。あの魔女のばあさんってことか?」


「ああ、デューク君達をよろしくとのことだ」


 そう首肯したカークライトの言葉に、デッカーは「まじかよ」と呟きました。


「……お前ら、あのバアさんとどこで知り合った?」


「え、首都星系ですけれど……」


 デッカーが「どこでそんなコネを……」と尋ねるので、デュークは「斯々然々かくかくしかじか丸々美々ご飯美味しかったです!」と、首都星系での話をかいつまんで説明しました。


執政官スノーウインドの館に呼ばれたってのかぁ!? そいつは随分と名誉なことだが……コネっていうか、そいつは魔女の婆さんの呪いってやつかもしらんぞ……」


 デッカーは「は、は、は」と、なぜか乾いた笑いを漏らしました。それを聞いていたカークライトは「龍骨の民にも色々あるのだな」と頷き、こう続けます。


「さて次に、軍令部からの伝達事項。デューク以下三隻はトピア星系での民間協力の功績により、二等軍曹へ昇進だ」


 カークライトは、デューク達に向けて「おめでとう」と、ウインクしました。


「え、昇進ですか!」


「わぁ、ああいうお手伝いも功績になるのねぇ」


「やったぁ~! お給料があがるよぉ~!」


 昇進命令を伝え、デューク達は驚いたり無邪気に喜んだりする姿にカークライトはウンウンと満足げな笑みを浮かべました。


「それでは、すぐ艦隊旗艦構築に入ろう。私は司令部ユニットの準備にかかるので、デッカー大佐はデューク君の指導を頼む」


「あいよ提督。ガキどもは任されましたぜ」


 そう言ったデッカーは、「憲兵特務大佐デッカー、旗艦構築任務に入ります」とサッと色気のある敬礼をして、デュークを連れ出したのです。


 それから30分後――


「よっしゃ、ここいらでいいだろう」


 カークライトに準備を整えるように言われたデュークは、少しばかり離れた宙域で、デッカーの指導を受けています。


「あのデッカー少佐……あ、大佐」


「デッカーって呼び捨てでいいぜ。それでなんだよ?」


「ええと、デッカーさん。旗艦を命じられて嬉しいことは嬉しいんですけれど。よくよく考えたら僕には旗艦としての機能なんて無いんです。だって僕には船乗りを乗せるようなスペースがありません」


「ああん? たしかにお前は見たところ座乗型じゃねーからなぁ」


 龍骨の民は基本的に自己完結している自律型艦船なので、客船や一部の例外を除いて乗組員を乗せるスペースはないことが多いのです。


「ええと座乗型って?」


「こいつを見てみな」


 デッカーは自分の背中をポンと叩きました。そこには、小振りな島のような出っ張りが備わっています。よく見ると、そこには小さな窓が幾つか付いており、そこから普通のサイズの知性体がデュークに向かって手を振っていました。


「あ、乗組員が入ってる……」


「おおよ、俺のカラダは他の種族を乗せるための機能があるんだ。随分昔に、改装工事を受けてな。中にいるのは俺っちの部下手下の特務武装憲兵だ。そういうわけで、俺はフリゲート艦デッカー改め、憲兵艦デッカー様ってわけよ。


 デッカーの中から、「風紀の乱れは宇宙の乱れ!」「不正は絶対に許さんぞ――!」「少佐! 少佐殿! あ、違った、大佐殿!」などという声が聞こえてきました。


 デッカーは特務武装憲兵大隊の大隊長であり、その部下たちが冗談交じりに無線を発信しているのです。


「へぇぇぇ、そうやって船乗りを乗せることが出来るんですね! じゃぁ、僕も改造を受けるのですか?」


「いや、本格的な改装には時間もねーから、応急的にやるんだ。さってと、まずは甲板上部の弾庫を開放して、弾頭を不発にしてから吐き出しな」


 デッカーは、デュークが持っている背中の武装――ユニバーサル規格の多目的格納庫にあるミサイルを全部吐き出すようにいいました。


「ええと……よいしょっと!」


 デュークは弾頭を凍結させてから、背中に付いた多数の格納庫を開放し、中の物を「ペッ!」っと吐き出しました。すると、大量というよりは無数のミサイルセルが湧き出るように現れます。


「ハッ! デカイ図体だけあって、阿呆みてぇな数だなァ……おい、これで全部か? 制御コードを回せ。始末は俺がつけてやる」


 デッカーは、デュークから受け取ったミサイルの制御コードを受け取り、「あっちに入っとけ」と言いました。あっちには弾薬運搬艦――ミサイルを発射するだけの機能に特化し兵器搭載量を増大させたアーセナル艦が控えており、デュークが放出したミサイルを回収するようです。


「もしかして、僕のミサイルって、他のフネでも使えるのですか?」


「俺たちの生体武装はユニバーサル規格だからな」


 デッカーがそう教えていると、司令部船がズゴゴゴと遅い脚を引きずるようにしてやってきて、。微速航行をしながらデュークの背中の方に向かいました。


「デューク、絶対に動くな、動くなよ! 動いたらマズイことになるからな」


「は、はい」


 デッカーはビームセーバー誘導灯を振るって、「ようそろ、ようそ――――」とデュークの背中に司令部ユニットを誘導します。


「よっしゃ、そのままおろせ――――!」


 デッカーが「接続――――!」と言うと、ガキョン――! という響きとともに、デュークの巨体の上に司令部船が鎮座したのです。


「ふぇっ、司令部船がくっつきましたよっ?!」


 デュークの背中の格納庫の隙間に接続ユニットがしっかりとはまり込み、一つのフネのように一体化し、司令部船が艦橋のように機能しています。


「なるほど。戦艦の上に司令部ユニットを乗っけて、艦隊司令部旗艦になるのか」


 司令部ユニットからは旗艦と司令官座乗を意味する旗がスルスルと伸びてゆき、ガスを吹き付けられたそれらはデュークの背中で悠々となびき始めました。


 そのようにして、デュークは艦隊司令部かつ、旗艦としてのフネになった頃――


「超空間航路の様子は? 何か連絡はあったか?」


 第三艦隊司令部兼、艦隊旗艦戦艦クリティカルヒットにてラビッツ提督が超空間の様子を尋ねています。


「超空間内防衛線のカスタル・メカロニア対機械帝国要塞1からは、特段の報告はありません。カスタル2および3も同様です。エーテル流の先には機械帝国の艦船がいますが、要塞を超えられるほどの戦力は集結してはおりません」


 機械帝国との間にある主要な超空間には、第三艦隊隷下の衛星級軍事要塞が控えており、特に最大の航路に置かれたカスタル・メカロニア1・2・3は、強大な力を持ったものとして知られています。


「ふぅむ。超空間航路からの大規模侵攻も想定していたのだけれど、こっちはなさそうだね。となれば、スターライン航法による通常空間からの侵攻かぁ」


「その公算大です。勢力圏ギリギリの星系に、機械帝国の艦艇が集中していますから、始まるとすれば通常空間での叩き合いになります」


「よし、主戦力は通常空間の防衛に回せるな。予備戦力――分艦隊の編成はどうなっているか?」


「いくらかの遅延は有るものの、概ね想定内の範囲で構築が進んでいます」


「へぇ、いくらかの遅延だけ? 寄せ集めの艦船なのに、よくまとめているね」


 そこでラビッツ提督は「さすがということか」と笑みを見せました。


「頼りになる予備戦力があれば、何かの際に安心だ……よろしい、それでは艦隊主力を進発させるのだ」


 ラビッツ提督は第三艦隊主力をいくつかに分け、機械帝国からの侵攻が見込まれる星系に向けて、艦隊を発進させたのです。

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