第127話 向かう場所は
「どうしたのですか?」
「今の君の話をな、思念波に詳しい者に聞かせようと思ってな。そいつは、この後に案内しようと思っていた場所にいるのだ」
メリノーはデューク達の見学コース先に、思念波の権威がいるのだと言いました。ニンゲン達が思念波を使っていることについて、なにかを教えてくれる人物――それもまた、デュークらが遭うべき人物なのだと説明するのです。
「ゴロワース、連絡を取ってくれ」
メリノーは使用人を呼びつけると、どこぞに連絡するように指示しました。使用人の一匹が額に手を当てて、なにやら思索をするような仕草を始めます。
それはサイキックレベルの能力者が行う、思念波通信の様でした。
「思念波通信かな……誰を探しているのか知りませんが、無線で連絡できないのですか?」
デュークは、訓練所時代とその後の軍歴でサイキックと呼ばれる能力者たちについて学んでいます。でも、セントラル・コア内には、通信電波が飛び交っているのに、わざわざ思念波を使うのは何故だろうと、彼は思うのです。
「うむ、相手はアナログなヤツでな……デジタル機器を持っておらんのだ。ゴロワース、連絡はまだとれないのか?」
「旦那様、ご友人は聖堂にはおられないようです。セントラル・コアの外部――おそろらく北方周辺都市のあたりへ向かったとのこと」
「なに? 先方でも、波が乱れてそれ以上は特定できないって? チッ――またぞろ悪所をほっつき歩いているのか」
メリノーは「またか」と、呆れ顔をするのでした。
「悪所?」
「治安や風紀の悪いところだよ」
メリノーは、セントラル・コアは政治的な中心都市であるが、その周辺には様々な役割を持つ都市機構が広がっており、その一部には連合執政府の統制が弱い地区もあるのだと説明しました。
酒、博打、暴力、そして性。欲望を抑制されたとはいえ、知性体たちに残る欲求を解消するための街――
「――雑多な種族が集まるこの星には、そういう場所も必要なのだ」
メリノーは、「ああ、君たちは、食欲を満たしていれば済むのだから……」と、微妙な表情をして、天を仰ぎ見るのでした。
「はぁ……なんだか、凄そうな場所なんですねぇ……では、探している人が戻るのを待ちますか?」
デュークの問いに、メリノーは頭を振って答えます。その顔には、少しばかり冗談めいた苦笑いが浮かんでいました。
「ふむ――君たちの滞在時間にも限りがある。執政官殿からは俗なところも見学させろと言われているからな」
メリノーは「直接行ってみるとしようか」と独り言つと、護衛達にエレベータを起動させるように伝えました。
息をひそめるようにしていた、執政府専用の乗り物は、その中に秘めた機関の熱をブワリと高め始めます。
「さて、子らよ。父は仕事に戻るぞ」
メリノーは、「そろそろお開きだ」と、子どもたちに館の中に戻るように言うのです。
「もう行ってしまわれるのですか? せわしないですねぇ。私たちもつれて行ってはくれぬのですか?」
一番上の子ども――ベルンハルトらが、尋ねます。
「お前たちにはまだ早い」
メリノーがすまなさそうに言うと、ベルンハルトら上の子たちは溜息をつくのです。そしてデューク達に纏わりついた下の子どもたちは、「え~~」と鳴き声を上げるのでした。
「すまんな……本当は、共生ライブラリなぞ、見学しようと思ったのだな……」
メリノーは、目を細めながら繰り返し詫びを入れるのです。それに対して、年かさの子らは「わかりました」と言い、小さな弟妹たちをデューク達から引きはがしたり、背中で眠っているのを抱えたりするのです。
「ほら、ほら、父上は仕事に戻られるんだ」
そして、彼らは「ごきげんよう」と丁寧なお辞儀をしてから、館の方に戻るのでした。小さな羊たちも名残惜しそうにしながらも、「じゃあね」と言ってトコトコと一緒についてゆくのでした。
「はぁ、よく躾けられていますね」
デュークは、メリノーの子どもたちの動きを眺めて、ふぅんと頷きました。
「聞き分けがいいと言うか……ベルンハルトらは10を超えたからな」
「へぇ、僕らより全然年上ですね」
「まさに、種族的差異だな」
メリノーは嘆息して、「12歳で成人し、軍に入るまでは、様々な学業――師匠について様々なことを学ぶのが、我が種族の常なのだ」
メリノーは、そんなことを言ってから、このように呟くのです。
「一番年上の子は、もう、外に出ているのだよ」
「ええと……もしかして、一番上のお子さんって、あの中にはいないと?」
デュークが訝ると、メリノーは蹄から手を振って、”α”に当たる文字を宙に描いて示します。
「アーダベルト……我が
メリノーは言葉を区切り、「行けば分かるさ」と言葉を漏らすのでした。
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