第295話 連合ニュース!

「ふぇ? 死せる英雄って……?」


「まぁ、この情報データの中にある動画を再生してみなさい」


 デュークの問に対してドクトルは、先程渡したデータの中の動画を見るように言いました。デューク達が副脳に収まった映像の再生ボタンを押すと――――


連合ニュースunion top news!」


 勢いのあるナレーターが連合執政府の公式宣伝番組を始めます。


「市民諸君、本日のトップニュースだ! 卑劣なるメカどもの帝国が共生知性体連合の準加盟星系に近づいている!」


 そのようなアナウンスとオドロオドロシイ音楽とともに、機械人たちの艦隊が姿を表し、膨大な量の艦艇を横一直線にならべて加速するイメージが流れます。その下には「辺境軍閥を支配下においたとみられる中央政府軍が武力侵攻の模様」という文字が浮かんでいました。


「連合諜報局によると機械帝国軍の主力は総数5万以上という――これに対し連合執政府は共生宇宙軍第三艦隊の派遣を決定した!」


 共生宇宙軍第三艦隊の根拠地が映し出され、1万隻程度の艦艇が続々と進発する映像と「第三艦隊中核部隊、このほかに第三艦隊は3万隻を有する主力艦隊」というテロップが映し出されます。


「第三艦隊はかねてより予定されていた行動計画に基づき戦力の集結を図る! 膨大な数の艦艇を持つ機械帝国艦隊だが、精鋭たる第三艦隊ならばこれを一撃で叩けるはずだ!」


 ナレーターが「艦隊を集結させ、艦隊決戦に持ち込むのだ!」と叫ぶと、場面が移り変わり、とある星系が映し出されて各地に駐留されている第三艦隊の艦隊が続々と集結する様子が伺えました。


「第三艦隊本隊は数日中にも――――」


 動画データは複数の連合ニュースをまとめ、時系列順に編集したもののようで、数日後のニュースに移行しています。


「なんということだ!? 集結星系の主星が重力異常を起こし、スターライン航法が一時的に不可能となったのだ!」


 随分と大きな赤色巨星がユラユラと揺らめき、第三艦隊の艦艇が翻弄される様子が映し出されました。このような状況では、恒星と恒星の量子的な繋がりを利用した超光速航行はできません。


「恒星の重力異常の原因は不明だが、共生宇宙軍諜報部は、機械帝国のスパイ船が恒星に対して特攻を掛けた可能性が否定できないとのことだ」


 星系内に潜んでいたスパイ船が超光速で恒星に飛び込み、恒星を揺さぶるという暴挙――そのようなイメージ図が映し出されます。


「おのれ、悪辣な機械帝国人め!」


 ナレーターは大変憤慨したような口調で罵りの声を上げつつ、「現在、連合諜報局の特殊AIがフル稼働で、連合内を探査している――市民はこれに協力されたい」と言うと、彼の背後でピンポーンとチャイムの音が鳴り、彼は「おや、こんな時間に誰か来たようだ」と言いました。


「続報! 第三艦隊は当初の計画を放棄し、プランB――オペレーション・カルネアデス――敵勢力に脅かされつつある準加盟星系の住民を疎開させるという緊急計画を発動した!」


 機械帝国の勢力圏にほど近い連合準加盟星系――もちろんゴルモア星系も含まれているそれから多数のフネが飛び立っています。中には宇宙コロニーを改造したと思われる超大型の疎開船の姿も見えました。


「共生宇宙軍の準加盟星系駐留部隊はこれを全力で支援中だ! 疎開先については連合内各種族に配分される。市民諸君、哀れにも故郷を去るほかない知性体を受け入れて欲しい!」


 ナレーションの声の主は、そこで「さらに続報!」と言いました。


「最も住民が多いゴルモア――メカロニアの侵攻正面にあたる星系の住民をすべて救うには、時間が不足している!」


 疎開船団の脱出状況が示されるのですが、予想される完了時刻はメカロニアが居住可能惑星に到着するまでの予想時間を大幅に越えていたのです。


「現地駐留部隊はゴルモア星系軍とともに小惑星帯に立てこもった! 住民を避難させる時間を稼ぐため、彼らは捨て石となることを決意したのだ! 忠勇なる兵士諸君よ――――義務を、果たせ!」


 涙声となったナレーターが、共生宇宙軍の部隊とゴルモア軍が小惑星帯を要塞として立てこもり、命を賭して可能な限りの防戦を行うと解説しました。


「ゴルモア防衛戦が始まった! 奴隷民を多用するメカロニア軍の統制は弱いが、衆寡敵せず――小惑星防衛隊は雨あられと降り注ぐ敵の攻撃にすり潰されんばかりだ!」


 機械帝国の艦艇からは多数の重ガンマ線レーザーや対消滅弾頭入りの対艦ミサイルが放たれ、小惑星の表面を叩きに叩きます。小惑星を盾にしている防衛隊も無傷とはいえず、多数の爆発の中、爆沈するフネも現れました。


「絶対絶命の危機! しかしそこへ援軍が現れた――別ルートを航行していた第三艦隊分艦隊が到着したのだ!」

 

 共生宇宙軍の艦艇数千隻がどこからともなく現れます。そして、その先頭がクローズアップされると――


「白い特殊装甲、巨大な重ガンマ線主砲、長大な推進器官――若き龍骨の民、分艦隊旗艦デューク・オブ・スノーの勇姿! なんと頼もしいんだ!」


 ドーン! という衝撃音とともに、生きている宇宙船には珍しい白い装甲を見せるフネが、巨大な目を光らせ大きな口を開いて牙を剥いている様相が現れます。艦体には艦隊内の余剰リソースをあるだけ搭載した、ゴテゴテの重武装艦で実に頼もしい姿でした。


「小惑星を攻囲するメカロニアに対し、分艦隊は旗艦デュークを先頭に突撃を敢行した模様! 詳報がまとまりしだい、結果をお伝えするぞ!」


 矢じりのような、宇宙空間におけるパンツァーカイル陣形を保った分艦隊がメカロニアを奇襲し、指揮系統をズタズタにする様子が映し出されました。


「勝利だッ! メカロニアは一時的に撤退を開始。分艦隊はゴルモア防衛隊の撤退支援に移った!」


 分艦隊の艦艇が小惑星アーナンケを推進する様子が映し出され、合わせて「小惑星をフネにするというアイデアは、旗艦デュークの発案」というテロップが入ります。


「だが、機械帝国側も手をこまねいているばかりではない――」


 メカロニア軍が追撃を仕掛ける光景が映し出され「撤退する部隊が捕捉されるのは時間の問題だ!」というナレーションが入ります。


「旗艦デュークは敵の追撃部隊の足止めに入る! なんと、龍骨の民戦艦ナワリン、重巡洋艦ペトラの二隻のみを率いて、だ、と?!」


 襲い来るメカロニアの追撃部隊に対して、これを迎えうつ白い超巨大戦艦の映像が映し出され、その側方には紅い戦艦と蒼い重巡洋艦の姿が映し出されていました。


「若き龍骨の民三隻の活躍によりメカロニアの追撃の手は緩んだ! その間、共生宇宙軍およびゴルモア軍は星系外縁部まで避退を完了!」


 そこでナレーションが一時止まり「共生宇宙軍第三艦隊分艦隊、ゴルモア星系放棄を開始――」という文字が映し出され、続けて「同刻、旗艦デューク以下三隻は苛烈なる敵の攻撃により、指揮官もろとも撃沈された模様」と表示され、動画が終了します。


「ふぇ……? 撃沈? えっと…………これって僕たちのことですよね」


「うむ、そうだな」


 ドクトルにもらったデータ――ここ数ヶ月のニュースをツギハギにしたものを視聴したデュークは「なにこれ?」と口をあんぐりとさせました。それもそのはず、ここにいる自分たちはすでに死んでいるというのですから、仕方がありません。


「享年、3年と少し、若い身空で沈んでしまったなァ。残念なことだ」


「いや、あの、僕、沈んでませんけれど?」


「そうよ、私達は沈まず帰ってきた。ここにいるのは幽霊とでもいうのかしら?」


「このニュース、途中から、なんか違う~~事実と違う~~!」


 デュークは「はぁ?」と怪訝そうな顔をし、ナワリンは「勝手に殺さないでよ」と憤り、ペトラは「あのときボクは、石っころ小惑星押してたよぉ~~!」と断言しました。


「まぁ、それもそうだな。実は、あのニュースは途中から情報操作が入ったものになっているのだ」


「ふぇ……ニセ情報ですか」


「フェイクニュースってことね?」


「でも、なんの意味があるの~~? 意味わかんな~い」


 デューク達は「何で僕らが沈まなければいけないんだ?」とか「敵を欺くためかしら? でも、そのあとの戦いで思いっきり見られているわよ」やら「わかった~~! わからないのがわかった~~!」などと宣います。


「それはな、デュークを筆頭にあれだけの活躍をしたからだ。奇襲攻撃の要となって、すさまじい突撃をやらかしただろう?」


 ゴルモア防衛隊救援のための奇襲攻撃の詳細が伝わると「龍骨の民をフルアーマー化したのか。アイアン・デュークどころかデンドロ・デュークだな」とか「パンツァーカイルの一番やりか! 燃えるな!」やら「少年と少女軍艦……はぁはぁ」などと、軍事関連のことが大好きで大好きで大好きすぎる民間人界隈ですごい人気が出てしまったらしいのです。


「兵器マニアってやつは、軍機だろうがなんだろうが食指を伸ばしてくるものだ。そのままにしておくと、機密上の問題がある――そういう判断があったんだ」


「ああ、軍オタね。軍艦を盗撮とかしてくるのよね」


「それだけならまだいいけど~~推力比とか調べてくるんだよぉ~~!」


 艦型データはある程度暴露されても仕方がないのですが、加速性能や推進剤搭載量というものは大変な機密情報であり、正確なところは民間には知らされているものではありません。


「やつら、ただ知りたい……という一点であの手この手でやって来るからな。ま、少しばかりの間、世間の目から隠してやろうという親心――スノーウインド執政官あたりの計らいだろう」


 そう言ったドクトルは「なにせ、お前さんらは士官学校に入学することになっとるからなァ」と続けたのです。

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