第84話 そのころ軌道ステーションでは
講話と称した戦争の現実を仮想空間で味わった後のことです。デュークたちは部屋に戻り、ベッドにもぐりこんでいました。戦争の現実についてとんでもない”お話”を体験シた彼らは――
「ぐごごごご、ぐが――」
「ガチガチガチガチ……」
「ごぉりごぉりごぉり」
「うにゃむにゃ」
若いということは良いもので、皆それぞれその種族らしい姿で眠っていました。パシスはうつ伏せになりながら、マナカは横たわり、スイキーとキーターは立ったまま毛布を被って爆睡しています。
「ううん……」
デュークも大変な経験を味わい、ベッドに入った当初は「戦争怖い戦争怖い」と呟いていたのですが、結局眠気には勝てずにクレーンを折り畳んで、静かにバイザーを下ろしていれば、活動体からは力が抜けてベッドに沈むことになるのです。
「結構ストレスを受けたけれど、彼の龍骨はビクともシないわね」
その様子は、軌道ステーションに接続された浮きドックでも確認することができました。
「ああ、デュークの思念波リンクが切断されました」
「本体に戻ってきたわね――眠っているから見た目はあまり変わらないけれど」
デュークの本体はドックに係留されてただ眠り続けています。それを監督しているのは、浮きドックの管理官であるマリアとその部下たちでした。
彼女らはデュークを固定しているチューブから伝わる電子コードや振動を拾って少年戦艦の龍骨や副脳から漏れてくるデータを拾っているのです。
「と入っても、龍骨の状態は疲労を示しているわね――」
「訓練一週間目が終わったところですからね。疲れがたまっているでしょう」
フゴゴ、フゴゴという振動がチューブを通して、浮きドックを震わせています。それは龍骨がリズミカルに振動する事で生じる――龍骨の民の鼾でした。
「気持ちよさそうに寝ているわね」
「いびきをかく宇宙船は龍骨の民くらいのものですな」
マリア以下のスタッフは造船官でもあり、共生知性体連合のフネであれば、一通り知っているのですが、寝息を立てる宇宙船は龍骨の民位でした。
「推進剤のある限り、宇宙をどこまでも進み続ける生き物――いい経験を積んでいるみたいね」
「おや? 縮退炉の挙動がおかしいな」
「あら、これは空腹信号じゃない。補給はちゃんと済ませたでしょ?」
マリアが「うもぉ?」といぶかしがりました。それに対して別の制御卓に座る補給担当のスタッフがこのように言うのです。
「1キロ級戦艦に必要な推進剤と各種物資を十二分に喰わせましたよ。満タンにするのが大変でしたがね」
「なら、しばらくは要らないはずだけど――変ね、口が開いているわ」
満タンになるまで補給を済ませた後は、最低限の食事で済むはずなのです。でも、デュークの口はなにか物欲しげにパクパクと動いていました。
「龍骨の民がご飯を欲しがる時の動きねぇ」
「水槽の中の魚みたいだな……あ、チューブを引っ張り始めたぞ!」
デュークがクレーンを使ってチューブを引っ張って口に運び始めます。そして、それをムシャムシャと食べ始めたのです。
「ッ――! 彼らはホントなんでも食べるわねぇ……って感心している場合じゃないわ。他の機材を食べ始めないうちに、追加でマテリアルを放り込んでおいて」
「了解!」
すぐさま、浮きドック内の作業員に指示が飛び、戦艦の口元に物資の詰まったコンテナが運ばれます。デュークは寝ているにもかかわらず、それらを次々に口にしてゆきました。
「重量計算が間違っていたかしら?」
「地表でのストレスで、ドカ喰いしてるのかもしれません。しかし、みてくださいよ、この笑顔」
デュークは眼を閉じながら、黙々とご飯を食べ続けています。一口飲み込むごとに、彼の口元はニマーとするのです。
「はは、美味そうに喰ってるなぁ」
「とはいえ、既に満タンを越えて、計算の2割増しまで食べてるわよ。大丈夫なのかしら。龍骨の民はこれまで何隻も見て来たけれど、この子は大きすぎるし――」
共生知性体連合全体には、1キロ超級の宇宙船はそれなりの数が存在しています。でも、生きている宇宙船――龍骨の民には数えるほどしかしないのです。
「どこまで食べさせればいいのかしら?」
マリアがそのように首をかしげる中、デュークは笑みを浮かべてモグモグと食事を取り続けるのでした。
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