第340話 第二世代型量子ホログラフィックメモリ

「おっと、随分と頑丈なつくりの扉じゃないか。なにか重要なものがあるかもしらんぞ。よし、デュークかかれ!」


「うん、それじゃ溶断するね」


 艦内に入ったデューク達は通路を進んで情報源となるものを見つけるため、いくつかの部屋を探索し、艦橋下部のあたりで随分頑丈な扉を見つけています。しかしいくら頑丈とはいっても軍艦の装甲板を溶断することのできるデュークの前にはただの扉でした。


 数分もせずに彼らが扉をくぐると――


「…………なんだここは、随分としっちゃかめっちゃかになってるぜ」


 中は大変な状態でした。何事もなければ、箱型の物が整然と並んでいたようなのですが、それらが折り重なるようにして倒れているのです。


「これはあれか? サーバーかスパコンか……だが、まるでドミノ倒しだぜ……」


「ちょうどこの上が艦橋だからね、衝撃が集中して倒れたんだね。ああ、部品が飛び散ってや」


 艦橋は溶けてなくなっているくらいであり、直下の衝撃はすごかったに違いありません。コンピュータが倒れ伏すだけでなく、なにやら基盤のようなものやチップセットのようなものがプカプカと浮いたような状況になっているのです。


「だが、情報機器ってことには違いない」


「なにか情報を得るのにはうってつけだね。メディアやメモリの類があるだろうね」


「記憶素子か……ここに散らばっているのが、それかもしらん」


 スイキーがバラバラと飛び散った電子部品の一つを取り上げ、しげしげと眺めます。それは半透明の小さな筒のようなものでした。


「ガワは半透明の硬化テクタイトか? ううむ、似たようなものを歴史の授業で見た記憶があるぜ」


「なんだか表面にひびが入って、液漏れしているよ……ええとこれは……」


 スイキーが何かを思い出そうととさかを振る中、デュークはクレーンの先で小さな筒を持ちながら「水だ」と言いました。続けて彼は筒を口の中に放り込みサクッと分析を済ませます。


「空気に触れて純度が落ちているけれど、純水か超純水だったものみたい」


「ああそうか、これは第二世代型量子ホログラフィックメモリだな。超純水と光電素子を組み合わせた安価な量子ユニットだな」


 それは共生知生体連合であれば骨董品ともいえるユニットですが、星系内航行種族レベルなら定番の技術でできたものでした。


「体積のわりに容量がデカいし、暗号化もしやすいと聞いた事がある。性能はなかなかなものだが、容器の中の水純度が落ちると途端に使い物にならなくなるんだ」


「じゃ、ひびが入ったこれ使い物にならないね」


 超純水型のホロメモリは、中身が漏れると不可逆的に情報が喪失する性質を持っています。外側のテクタイトはかなりの強度があるのですが、衝撃に耐えきれず壊れてしまっているそれを置いたデュークは無事なものがないか探し始めます。


「これもだめだ。こっちもひびがはいってる……なかなか見つからん。大丈夫そうに見えても、どれも微妙にひびが入ってるな」


「チュウチュウすると、水がしみだしてくるね」


「メモリをチュウチュウアイスがわりにするなよ……」


 スイキーは口の中でメモリを検品するデュークに呆れるのですが、生きている宇宙船の口の中には高度な分光計があるので合理的と言えば合理的です。


 そんなデュークは、壊れていなさそうなものを次々に口に放り込むのですが、相当の衝撃を受けたこの部屋で無事なものを見つけるのは大変なことどころか、小一時間ほども探索しても無事なメモリは一つも見当たりませんでした。


「仕方がないな、切り上げる――か」


「あ、ちょっとまって。これは水の味がしないんだ」


 デュークは唾液でデロデロになったメモリをクレーンでつまんで「つまり密閉が保持されてる、完品ってことだよね?」と言いました。


「なかの記録がどんなものかわからんが、まぁいい。中身は戻ってから解析にかけるとしよう。さて、あとは機関を確認するか。縮退炉があるわけじゃなかろうが……どこまで恒星間技術に近づいているかは知っておきたいところだしな」


 首肯したスイキーは「構造的には、この下の艦中央か?」と艦内の見取り図――艦のシルエットから推測したそれを眺めて言いました。


「もうちょっと後ろかも。主機か補機かはわからないけれど、融合炉を使っているはずだから、水かボロンの壁があると思うんだ」


「なるほど、中性子遮断壁か。ほんじゃ、艦尾に向かおう」


 それからデューク達はさらにいくつかのハッチを溶断しながら艦の後方へと向かったのです。

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