第129話 火種はくすぶる


 雷火は自宅にて、姉火恋とアニメのブルーレイを視聴中だった。


「やはりデスティニーちゃんは世界で一番可愛いな」

「まさか姉さんとサザンカちゃんの話で盛り上がる日が来るとは思ってませんでした」

「キャラクターが可愛いというのもあるが、何よりストーリーが良い」

「ですよね。デスティニーちゃんの悲しい出自、最終話のサザンカちゃんの友達になろうは涙なしには語れ――」

「いや、そこではなく拳と拳で殴り合った末に仲間になるという展開がとてもいい」

「忘れてました。姉さんは肉体言語至上主義でしたね」


 姉に呆れているとスマホから着信音が響き、雷火はメールボックスを開く。


「はっ? ……ナニコレ?」


 月から送られてきた画像を見て、雷火は震えながらスマホを強く握りしめる。


「どうした? そんなに強く握ると液晶割れるぞ」

「割れるわけないでしょ、ゴリラじゃないんですから」

「大体何を見ている?」


 火恋は雷火のスマホを覗き込むと、そこにはウェディングドレス姿の月、綺羅星、中央にタキシード姿の悠介が写っている。

 写真にはへったくそな字で、『わたしたち~ケッコンしました~』と書かれていた。


「は、はは、よく出来た合成だな。こ、コラージュってやつじゃないのか?」

「当たり前です、こんなの本物なわけ……」


 雷火は送られてきた画像をPCに転送し、合成かどうかのチェックを行う。

 しかし、合成された痕跡は見つからなかった。

 

「これコラじゃなあああああい!!」

「ということは」

「「本物!?」」

「「どうなてんのよこれーーーー!!」」


 姉妹の慟哭が響くと共に、テレビモニターに映るサザンカちゃんがメテオライトブレーカーをぶっぱしたのだった。



 それは遠い極寒の地でも同じことが起きていた。


「ほぉ……舐めた真似をしてくれるな……」


 スマホを強く握りすぎて、画面には指型のヒビが入っていた。

 バックライトが壊れ真っ暗になった画面には、ブリザードのような冷たい怒りに震える伊達家長女の姿が映し出されていた。


「折檻が必要だな……」





 変化があったのは昨日の夜からだった。

 どうにも火恋先輩や雷火ちゃんの様子がよそよそしい。

 いや別に何かあるというわけではないのだが、雷火ちゃんも火恋先輩も毎日のように送ってくれていたラインが、昨日の夜から唐突になくなったのだ。

 一応おやすみ、おはようメッセージは俺から送っているのだが、完璧に無視既読スルーされることは一度もなかった。

 しかも昨日は雷火ちゃんの好きな深夜アニメの日。いつも二人で実況しながら見てたのに、それもなかった。


 何かがおかしい。


 たかが5,6回ラインが返ってこなかった程度の話なので、騒ぐことではないとわかっているのだが、胸の中に小さな棘として残った。

 たまたま忙しくて返せない、二人同時に寝落ちする時だってある。そう思いながら登校することにした。


 しかし、おかしなことは学校内でも続き、昼食に誘ってみてもやはり反応はない。二人の教室をたずねてみたが、友達と食べに出たと言われ留守。


 そんなすれ違いをもう三日も繰り返し、既に週の半分がすぎていた。


 昼休みになり、今日こそはと思いつつ二人に電話をかけてみるが、やっぱり繋がらない。

 俺はダッシュで一年の教室に向かってみた。

 ここ最近毎日顔を出しているので、俺の顔は雷火ちゃんのクラスメイト達に覚えられていた。いつも雷火ちゃんの事を聞いている男子生徒に話しかけると、予想通り肩をすくめている。


「今日もいない?」

「さっき逃げるようにして出て行きましたよ。何かしたんですか?」

「それがわからないから困ってるんだよね……」


 今日はいつもより早く授業が終わったから、急げば間に合うかと思ったのだが、雷火ちゃんはそれよりも早く教室をでているようだ。

 ここまで来ると、どう考えても避けられてるな……。


「先輩って雷火さんのファンクラブなんですか?」

「ファンクラブ?」

「知らないんですか? 雷火ISサンダーボルトと、雷火天使ライトニングエンジェルが有名どころじゃないですか」

「なにその暴走族みたいな名前」


 それ確実に本人知らないよね?


「親衛隊ですよ、周り見て下さい」


 一年の教室内をよく見ると、確かにチラチラとこちらを伺うように不自然な動きをしている男子生徒が複数人いた。

 皆陰キャっぽいのがアレだが、なんとなく雷火ちゃんがオタク受けいいのはわかる。


「彼女、転校して来て数日で一年のプリンセスですからね。あんまりしつこくお尻を追っかけてると、目をつけられてしまいますよ」

「そ、そっか、忠告ありがとう」


 うん、よく聞くと。あの男毎日なんなんだ? とか

 あの冴えない顔で雷火様にアタックするつもりか? 身の程知らずめ等。

 他にも、俺あの先輩、結構好みかもしれない。(野太い声)等など恐ろしい声が聞こえてくる。

 耳を傾けなかっただけで、実はもっと前から言われていたんだろうなと察した。


「今日も伝言頼めるかな?」

「帰ってきたら、三石先輩が探してたって言えばいいんですよね?」

「うん、ごめんね。よろしく」


 俺は一年教室を後にして、今度は三年の教室に向かう。


 一年の教室は全員が年下ということもあり、そこまで緊張することはないのだが、三年の教室は別だ。

 俺たちの学校は学年ごとで男子生徒は色の違うネクタイをしているのだが、三年生は赤色、二年生は紺色、一年は黄色をしている。その為赤に混じった紺が、とてつもなく目立ってしまう。


「あ、あのすみません」


 俺は剣道部の古賀先輩を発見して、火恋先輩の事を尋ねた。


「あー、許嫁か。今日も来たのか?」

「は、はい」

「毎日健気な奴だな」


 黒髪ショートにキリッとした目をした委員長風の先輩は、メガネのつるを指で押し上げつつ哀れなものを見るような目で俺を見やる。


「火恋先輩いらっしゃいますか?」

「授業が終わったら弁当箱持ってすぐ出てったよ」


 これもいつもの事だ。


「そうですか……ありがとうございます」


 本日も空振りでシュンと肩を落としてしまう。


「オイ、何か喧嘩でもしたのか?」


 俺の落胆具合を心配したのか、古賀先輩は腕組み足組みしつつ声をかけてくれる。


「その理由が知りたくて探してるんですけど、どうにもすれ違いが多いようで」

「……ここ最近火恋の奴、居眠りしてることがあるんだけど、なんか関係あんのか?」

「居眠りですか?」

「あたしも初めて見た。火恋は体力お化けだから、居眠りすることなんて今まで一度もなかったからビビったわ」

「そう……ですか、家の方が忙しいのかもしれないですね」

「……そうか」


 足を組み替え、ぱっつんの前髪をかきあげながら、古賀先輩はため息をつく。


「まぁあんま気落とすな」

「すみません、ありがとうございます。またお願いしてもいいですか?」

「お前が来たことを伝えておけばいいんだろ、言っとくから飯食ってこい。顔色悪いぞ」

「すみません、お願いします」


 俺は本日も収穫なしと、肩を丸めながら自分の教室に戻った。


 その帰り道、スマホに着信音が響く。

 もしかして火恋先輩か雷火ちゃんからかと思い、慌ててポケットから取り出すと画面には『社畜』と書かれていた。


「なんだオヤジか……こんな時間に珍しいな」





―――――――――

昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願い致します。


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