第160話 玲愛と首輪Ⅰ

 翌朝、狭いマンションの一室で朝の着替えを行い、そろそろ出ようかと思った頃合に藤乃さんがリムジンで迎えにやってきた。

 ご厚意に甘えさせてもらい、伊達家と水咲家、静ファミリーを乗せた車はアリスランドへと向かう。


 到着したアリスランドは以前とは違い、きっしょいマスコット達ではなく、可愛らしいゆるキャラのようなマスコットが出迎えてくれる。それによってお客さんの受けもよくなったのか、閑古鳥がないていた以前とはうってかわって遊園地らしい賑わいを見せていた。

 入場ゲート前を歩くカップルや家族連れ、陽キャっぽい友達集団を見て俺と雷火ちゃんが軽い吐き気を催す。


「うっ、人に酔ってきました」

「俺も」

「なんで陽キャってこんな光の下で元気なんでしょうね……」

「さぁ、わかんないよね……」


 闇属性の我々とはやはりステータス耐性が違うのだろう。


「お前ら大丈夫かよ。これだから日陰の人間は」


 光属性の成瀬さんが呆れるが、あなたの真凛愛相方もかなり苦しそうですよ。


「……人混み……苦しい、眩しい……ツライ。太陽嫌い……」

「吸血鬼かよ……」


 我らオタの者、日向の道は歩けないのである。


「それじゃ皆、イベント開始は午後1時から、場所はアリスランド東のスポーツドームよ。遅れないように注意して。それまでは自由に遊んでくれていいから」


 月はやはり主催とあって忙しいのか、金髪ツインテと短いスカートを翻しつつ、藤乃さんと一緒にスタッフオンリーと書かれた扉の奥に消えていった。

 その姿を見送ってから雷火ちゃんが手をあげる。


「はい! わたしプール行きたいです。おニューの水着も買ってありますし!」

「さんせー、あーしも泳ぎたーい」


 雷火ちゃんと綺羅星が俺の手をとり、後ろに火恋先輩、天、玲愛さん、成瀬さん、真凛愛さん、静さんと続く。

 しかしながら時刻は9時、じきに一人目のお見合い候補者がやってくるのでのんびりと遊んでもいられないのだ。

 


 着替えは予め俺も玲愛さんも下に水着を着ているので、トイレで手早く脱いで済ませることができた。

 スポーツドームに入ると、以前開催していた冬なのに海キャンペーンと同じ、敷き詰められた本物の砂浜に人工の波が寄せては返す。

 屋内の気温は高めに設定されていて、じっとしていると汗がでそうなくらい暑い。

 雰囲気を出すために海の家に模した売店が、赤文字で氷と書いたのれんを下げ、製氷機が涼しさと夏っぽさを演出している。


 隣にいる玲愛さんは以前購入した水着を着用しており、本来なら瑞々しい胸元が見えるはず……だったのだが、上に薄手のロングTシャツを着てらっしゃるので、その双乳は見えずジョンボリーヌな気分を味わうことに。

 下も水着の上にデニムのホットパンツを穿いてらっしゃるので、露出度は控えめである。

 それでも玲愛さんの美しさは目を引くので、彼女が歩くだけでビーチにいた男性は振り返り「オイオイお前声をかけろよ」「相手にされるわけないだろ、あんな上玉」などの会話が聞こえてくる。

 そうだそうだ、お前たちじゃ相手にされん。失せろぶっとばされんうちにな(玲愛さんに)。俺は小物ベジータみたいなことを考えつつ、せかせかとレンタルしてきたパラソルやシートを広げ、玲愛さんのスペースを確保する。


「どうぞ玲愛さん、寝転がっていただければオイルを塗りますよ」

「いらん。なぜ屋内でオイルが必要なんだ」

「一応天井はガラス張りですし、日差しは入ってきてるんじゃないでしょうか」

「こんな弱い日差しで焼けるか」

「しかし冬の紫外線も油断できないといいますし」


 果敢にオイル塗りを慣行しようとするも、玲愛さんはツーンとしたままだった。


「じゃ、じゃあ水の中に入りませんか?」

「なにかよからぬことを考えてそうな顔をしている」

「そんなとんでもない」


 俺は気が乗らなそうな玲愛さんの背を押しつつ、人工波が寄せる波打ち際までやってきた。

 オイル塗りが無理ならば、濡れスケTを見ればいいじゃない作戦に変更する。

 玲愛さんのTシャツは白。すなわち水に入れば……透ける。

 ちょっと水をかぶるだけでも、シャツの下に隠されたドスケベな水着を見ることができるだろう。

 IQ2000の知略を胸に秘めつつ、俺は先に水の中にザブザブと入っていく。


「玲愛さん、気持ちいいですよ入りましょ――」


 俺が振り返った瞬間、飛来する足の裏が見えた。


「ちょいやさ!」

「おごぉっ」


 突如鳩尾に飛び蹴りが入って、俺はつんのめりながら水の中に倒れた。


「ぶはっ! えっ、何!?」


 手錠のヒモを長くしていたので玲愛さんを巻き込まずにすんだが、一歩間違えば引き倒してしまっていたぞ。

 いや、でもそうすれば透けT作戦成功じゃ? しまったもっと勢いよくコければよかった。

 そんな邪なことを考えながら顔を上げると、綺羅星と雷火ちゃんの妹コンビが悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。


 綺羅星の水着は光沢のある真っ白パールホワイトなビキニタイプで、日に焼けた肌によく映える。足元は白のグラディエーターサンダルで、自分の体に自信があるのであろう、その16にしてはわがままに育った胸を逸らすようにして立っていた。


 逆に雷火ちゃんはピッチリと体にフィットしたレモンイエローの競泳タイプで、何がとは言わないが切れ込みが鋭い。

 一見するとワンピースタイプというのは露出が低く見えるが、ビキニ以上に体のラインが出る。そのため大人と子供の中間に位置する雷火ちゃんの発育中の体に吸いつくようにフィットし、くっきりわかる胸の形なんかは目のやり場に困る。

 あとお尻の食い込みを直している姿がオタ的にポイント高し。


「ブラックスター、イエローサンダー」

「プ〇キュアですか?」


 そんなキャラはいないのだが、なんとなく二人のイメージ。

 続いて火恋先輩が遅れてやってくる。

 火恋先輩は肩ヒモのないビキニタイプで、腰に真紅のパレオを巻いている。

 高校3年にしてグラマラスなボディを持つ火恋先輩の体は、全国の女性がこんな体になりたいと願う理想のスタイルだった。


「すまない、待たせたね」

「レッドファイアー」

「なんだいそれは?」

「いえ、なんでもないです。他の人は?」

「アマツ君は先に着替え終わったはずだが」

「あれ? まだ来てないですけどね」


 周囲を見渡すと、凄い人だかりができている。

 もしかして変なナンパ男に絡まれてるのでは? と思ったが、よく見ると集まっているのは女性ばかりだ。

 なんだろうかと近づいてみると、その中心に天がいた。


「お兄さん、私たちと遊びませんか?」

「ごめんね、友達がいるんだ」

「一緒でも構いませんよ!」

「ホテルどこにとってるんですか?」

「高校生ですか?」

「いや~はは……こ、困るなぁ」


 瞳をハートマークにした水着女性から質問攻めにあう天。

 どうやら水着がパーカーとホットパンツな為、いつものように男と思われているらしい。俺もビーチで逆ナンされるようなイケメンに生まれたい人生だった。

 

「あいつ……」


 しょうがない、俺は手錠のワイヤーを伸ばして人だかり突入していく。

 天の隣に並び立つと、彼女の腕をとった。


「あっ」

「友達ってのは俺のことだ。俺ならいくらでも一緒に遊ぶよ!」


 カモーンと手を広げて言うと、女性陣は露骨に顔をしかめ「自分たちモンスターハンターじゃないんで……」と引き下がっていく。

 誰がモンスターやねん。合コンの外れゲストみたいに言わないでほしい。

 まぁ予想通りの反応だからいいけどさ。

 人払いがすむと、天はペコリと頭を下げる。


「あ、ありがとう」

「天は昔から人気あって、絡まれると抜け出せなくなるからな」

「う、うん。毎回助けてくれるのは兄君だったね」

「そのせいで俺はめっちゃ嫌われてたけどな」

「ボクから好かれてるからいいでしょ」

「天おっぱい出したらよくね?」

「セクハラ? 殺すよ?」

「ちげーよ、普通の女性水着を見せたら絡まれないだろ」


 俺は服を着ると、なぜか萎む天の胸を見やる。


「そのパーカー前開けたら、性別なんて誤解されないだろうに」

「昔こんな感じで泳ぎに行ったとき、子供から男におっぱいついてるって言われて、以降トラウマなんだよね。だからバストホルダーで無理やり小さく見せてる」

「努力の方向間違ってない?」


 バストホルダーとは胸をつぶして小さく見せるブラジャーである。

 そんなことするから女が寄ってくるんだと言おうとして、胸出したら今度は男が寄ってくるだけだなと気づいて言うのをやめた。


 美女が五人(内一人イケメン)が同時に集まれば目立たないわけがない。


「す、すげぇ華やか」

「何アレ? 何の集まり?」

「アイドルグループとかじゃないの?」

「動画の撮影とかやんのかな?」


 一般客から様々な声が上がる。

 俺も何も知らなかったらアイドルなんじゃないかって思ってただろうな。


「おーい」

「ユウく~ん」

「……暑い」


 おっ、静ファミリーも来たなと思い声の方に視線を向けると、派手なレオパード柄のビキニを着た成瀬さんと、紫の眼帯ビキニの静さん、胸にドクロが描かれたフリル多めのゴスロリっぽいビキニ姿の真凛愛さんがやってくる。

 その……なんというか、皆すごい体をしている。グラマーというよりもはやダイナマイトの域。歩くたびに揺れる胸や、むちっとした太ももの肉感が凄い。

 この三人がグループに加入したことにより、一気にアダルト成分が上がる。


「前も来たけど暑いわね」


 静さんの爆乳の上を滑り落ちる汗。糸目で優し気な雰囲気から、あふれ出る人妻的フェロモン。


「これ勝手にカメラ撮影したら怒られっかな?」


 スマホを取り付けた自撮り棒をふるう成瀬さん。金のウェストチェーンが太陽に反射して眩しい、Kira☆Kiraお下品スタイル。


「あう……暑い……倒れそうです」


 体力なさすぎ、よわよわな真凛愛さんは、遠慮なく俺の背にもたれかかり体重を預けてくる。

 周囲にいた男性客が、大人組三人を見て若干前かがみになった。


「なんか……この三人が加わると一気にAVの撮影みたいに見えますね」


 それは言っちゃダメだよ雷火ちゃん。

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