第197話 花嫁強奪作戦

「ほー、これが優勝賞品か」


 俺がイベントホールに到着すると、様々な賞品が並べられていた。

 バイクや液晶テレビやら白物家電、1位~3位入賞者に配られる予定みたいだが、順位表記はなくどれが貰えるのかはわからない。

 まともな賞品の中に、異彩を放つチャリを見つけしばしそのディティールを眺める。

 美少女アニメ、リリカルサザンカさんがラッピングされた電動痛チャリ。左側面はサザンカさんで右側面がファテちゃんという凝りよう。


「かっけぇ……ほしい」

 

 マンションにドヤ顔で停めておきたい。

 いや、そんなことしたらパクられるし部屋に飾って……それだとスペースが苦しいが。

 いかん、こんなところで指を咥えて見ている場合ではない。早く衣装室に行かなくては。


「雷火ちゃん達、一体どんなコスプレするんだろうなぁ」


 メイド? ナース? ポリス? 女教師? 今からコスプレミスコンが楽しみだな。

 イベントホールにある衣装室へと向かうと、既に着替えを終えた参加者数人とすれ違う。


「もう着替えが終わったのか」


 確かイベントは夕方からって言ってた気がするが、別にその格好のままパーク内で遊んでいてもかまわないのだろう。

 雷火ちゃんたちは一番奥の衣装部屋にいるらしく、どうやらそこをウチのメンツで専有しているとのこと。

 俺はコンコンとノックして扉を開ける。

 すると白い下着にガーターベルト姿の雷火ちゃんや、綺羅星たちの姿が目に入り――


「「キャアアッ!!」」

「失礼しました!」


 謝ってから慌てて扉をしめる。

 び、びっくりした。まさかこんな古典的なラブコメ要素が降ってくるとは思わなかった。

 数分して、赤い顔をした雷火ちゃんがそーっと扉から顔を出す。


「もぉ悠介さん、いきなりなんですから」

「一応ラインしたしノックもしたよ」

「すみませんラインは見てなかったです。今成瀬さんトイレ行ってるんで、帰ってきたのかと勘違いしました」

「ごめんね」

「まぁ悠介さんなので別にいいですけどね」


 女神に慈悲をもらい、俺は衣装部屋へと入る。

 すると今度は別の意味で嫌な汗が流れる。

 なぜなら全員が細かい差異はあれど、白いウェディングドレスの衣装を着ていたからだ。


「な、なぜこのチョイス?」

「え~特に深い意味はありませんけど~。強いて言うなら六等分の花嫁のパロディですね」


 絶対嘘だ。凄まじいメッセージ性を感じる。


「いや、しかしこのウェディングドレスというのは動きにくいな」


 火恋先輩の衣装はミニスカウェディングなのだが、後ろ側だけスカートが長くなっており、ヒラヒラを気にしてらっしゃる。

 先輩、あまり脚を開かないで、何とは言いませんが見えます。


「いや、兄君ウェディング女子が揃うと壮観だねぇ」


 後ろから声をかけてきたアマツは唯一タキシードで、イケメン顔も相まって美少年にしか見えない。


「なんでお前は男役なんだ」

「バランスだよバランス。ボクああいうフリフリ、可愛いドレス! っての似合わないし。こういうスラッとした男衣装のほうが似合うでしょ」


 確かに天は足が長くシュッとしているので、隣に並ぶと俺が公開処刑みたいになってしまうが。


「相変わらずお前はカッコイイ」

「でしょ~これでも役者だからね」

「だが、俺はお前のウェディング衣装も見てみたい」

「……や、やだなぁボクはそういうの似合わないんだって」

「お前は昔から自分が好きなものじゃなくて、自分に似合うものを選んでやる癖みたいなのがある。俺はそうじゃなくて好きなことをやってほしい」

「…………」

「その方がお前はもっと輝く。ショートカットも綺麗だけど、少し髪を伸ばしてもいいんじゃないか」


 天の美しく光沢のある髪に触れる。うっわすっごサッラサラ、何使ったらこんなサラサラになるんだ。


「……はい。伸ばしてみます。兄君好みの女になりたい」


 ふと天の方を見ると、耳まで顔を赤くしている。

 そしてなぜか突き刺さる他女性陣の視線。


「あれ、なにこの空気?」

「せっかくウェディングドレス着たのに、タキシードの天さんと蜂蜜空間形成されたら皆怒りますよ」

「あーあ天姉、完全にメスの顔になってるし」

「いや、別にそんな意図は全然ないんだ――ふべらば!」


 誤解を解こうとする俺に突然の暴力が襲う。


「オタメガネ!」


 いきなり入ってきた月からドロップキックをくらい、俺は床を三回転半して転がった。

 金髪ツインテの悪魔は、盛大に転がる俺の胸ぐらをつかんで起き上がらせる。


「大変なの!」

「俺も君のせいで大変だよ」

「血まみれになってる場合じゃないわよ! あんた優勝できないわよ!」

「は?」


 俺は月からかくかくしかじかでと経緯を聞く。

 今現在水咲家は伊達家から圧力がかかり、玲愛、内海ペアを優勝扱いにして結婚式を執り行おうとしている。

 内海家の家族だけでなく、剣心さんまでやってきて二人の逃げ場をなくし、その上で強制的に結婚させてしまおうとしているとのこと。

 多分俺たちに負けたと聞いて、このままではマズイと思った剣心さんが強硬手段にでたのだろう。


「そんな、内海さんは一之瀬さんと一緒に駆け落ちするって言ってたのに」

「駆け落ちって家からの脱獄みたいなもんよ。看守の両親が目を光らせてる中、逃げるなんてできないわよ。それは伊達玲愛も同じことね」

「子供の幸せなんて何も考えてないんだな」

「それが金持ちの思想よ。子供ですら自分の駒程度にしか思っていない。いや、多分それで本当に幸せになると思ってる」


 話を聞いて雷火ちゃんと火恋先輩が、実の父に対して憤る。


「いくらなんでも酷すぎますよ、それに優勝セレモニーと式は本当なら悠介さんが受けるはずだったんですよ」

「他人の勝利を横取りし、姉上も内海氏も望まぬ婚約を強要する。二人の幸せになる権利を奪う父上は恥を知った方がいい」

「式は何時から?」

「急ピッチで準備されてるけど、どれだけ早くても夜になるわね」

「よし、ぶっ壊そう」


 俺の結論は早かった。だってそうだろ、新郎新婦双方が望んでない結婚式をぶっ壊したところで問題あるまい。


「大丈夫かい悠介君、これはイベントではないからルールなんて存在しない。我が父が非道を行っていることは確かだが、歯向かえば警察沙汰だ」

「悠介さん、わたしたちではあなたを助けることができないかもしれません」

「それでも……君たちは俺に指を咥えて見ていてほしいかい?」


 彼女たちは首を横にふる。


「玲愛姉さんを……助けてほしいです」

「元からそのつもりだ」


 今更バッドエンドなんて許さないぞ。

 すると、衣装室の扉がガラッと開き、三つ編みの女性が姿を現す。


「三石君、話は全て聞かせてもらったわ」

「あ、あなたは、一之瀬さん!」


 俺と同じく、内海さんが強制的に結婚させられることになった一之瀬さんは、燃え立つような怒りに震えていた。


「なんなのもう、昨日内海君から君と結婚するために全てを捨てる。こんな僕についてきてくれるかい? ってプロポーズの言葉まで貰ったのに、今日になったら伊達さんと結婚するとか、なめてんのかって思うわよ!」

「ま、まぁ御本人の意思を無視した政略結婚ですから……」

「結婚式ぶっ壊すなら協力するわ。あたし今無敵の人だから、執行猶予程度の犯罪ならやるわよ」

「恐ろしいこと言わないで下さい」


 一之瀬さんが仲間になってくれたのはいいが、俺と一之瀬さんだけで結婚を妨害するのは難しいだろう。

 その時衣装室の外に出ていたウェディング成瀬さんが、眉を寄せながら戻ってきた。


「おい、どうなってんだ? 外黒スーツにサングラスの逃亡中に出てくるエージェントみたいな奴だらけになってんぞ」


 俺たちは衣装室の窓から外を見ると、アリスランドにリムジンが次々とやって来ては、金持ちそうな男女が降りていく。


「あれ政治家の汚食オショク議員ですよ。あっちは金暮カネクレ議員」

「俺でも見たことある大物政治家ばかりだ」

「ダーリンあれ俳優の阿波博じゃない、あっちはポニーズ事務所の相馬君じゃん! サインほしい!」

「これもしかして……皆玲愛さんの結婚の為に招集された政治家や芸能人か?」


 結婚させるって決めたの昨日だろ? いや、剣心さん的には玲愛さんが負けるとは思っておらず、今日式を挙げさせるつもりだったってところか。

 剣心さんの外堀を埋めて、絶対に逃げられないようにしてやるという気概が伝わってくる。


「どうしましょう悠介さん、強そうな黒スーツが1000人くらいいますよ。これ全員ボディーガードってことですよね」

「そりゃこれだけVIPが集まってたらそれくらいいるよね……」

「み、三石君、あたしやるって言ったんだけど、さすがにこの警備をかいくぐるのはちょっと自信ないわ……」


 ビビる一之瀬さんだが、俺もそう思う。

 多分だけど、俺と一之瀬さんは最重要危険人物としてマークされてるんじゃないだろうか?

 外にいるグラサン警備と目と目が合う。あのインカムつけてる奴、明らかに俺の方見てたな。

 俺は怖そうなボディーガードに投げキッスをしてから、衣装室のカーテンを閉める。


「悠介さん、このままだと本当に姉さん結婚させられちゃいますよ」

「大丈夫、俺がなんとかする」


 結婚式は絶対に阻止する、だが無策で突っ込んでもつまみ出されるだけだ。

 少なくとも俺の影武者を用意しないと。

 俺はスマホからアドレスを呼び出し、悪友『相野』にコールをかける。

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