第198話 オタ集結

 俺はある男に電話連絡を行う。

 こちらの要請にいつでも応えてくれる頼もしい男。


「緊急事態だ……お前の力が必要だ」


 電話先の我が悪友は『とうとうオレの出番が回ってきたようだな』と、何もわかっていないのに勝手に話に乗っかる。


「相野、詳細はラインで送るが、できるだけ人を連れてアリスランドに来てほしいんだ」

『いや、アリスランドってめっちゃ遠いが。今から行ってもつくの夕方だぞ』

「それでいいんだ。来る時チェック柄のシャツにジーパン、バンダナ、指ぬきグローブで着てほしい」

『太古のオタクスタイルじゃねぇか、そりゃ構わんが』

「とにかく人数がいるんだ。皆の交通費と入園料は、俺がバイトして全額返す」

『お前それいくらになると思ってるんだ。そんで、そこでオレは何すりゃいいんだ?』

「とある人が望まぬ結婚を強いられている。それをなんとかぶっ壊してやりたいが、俺は今エージェントに張られていて身動きが取れない。俺の影武者になってくれ」

『エージェントに影武者て中二病乙』


 ネタだと思って笑う相野。SNSならwwwwwとつけてそうだ。


「頼む、全部本当のことなんだ」

『お前それサザンカさん女神フィギュアに誓えんの?』

「ああ誓える。盟約に誓ってアッシェンテ

『……どうやら本気のようだな。伊達絡みってやつか』

「そうだ」


 笑っていた相野にこちらの本気度が伝わり、真剣に話を聞いてくれる。


『人数がほしいってのは、影武者を山ほど用意したいってことか?』

「そういうことだ。ロパン3世の花嫁強奪をイメージしてくれ」

『なるほど、カリオストロなんだな。ほんとに大丈夫か、そんな大暴れして?』

「頼む、ここでやらないと俺は一生後悔する」

『……悠介、やるんだな、今、ここで』


 相野は、任せろオタク友達1000人くらい連れて行ってやると意気込む。

 まぁこいつに1000人も友達はいないので、多分多くても50人くらいだろう。

 電話を終えると、雷火ちゃんが心配気に尋ねる。


「今のは……?」

「高校のオタク友達。一之瀬さん、あなたもできる限りお友達を呼んでください。この作戦はとにかく物量作戦です、多ければ多いほどいい」

「わかったわ」


 結婚式をぶっ壊すには、とにかく人数が必要だ。俺と一之瀬さんだけで集められる数は知れているが、それでもやるしかない。

 その様子に成瀬さんが助け舟を出してくれる。


「おい、人がいるんだな」

「え、えぇ。さっき指定した格好をしてくれる人ですけど」

「あたしもツイッターで声かけてやろうか? この格好してアリスランドに来たら握手してやるとか言ったら何人か来るだろ」

「いいんですか?」

「いいぜ」

「ユウ君、私もやってあげようか?」

「わたしはやっても人来るかな……」


 静さん真凛亞さんも同じように、ツイッターを使って人集めを手伝ってくれる。

 成瀬さんのツイッターを見ると『【凸待ち企画】集まれキモオタ、オタクの格好でアリスランドに来た奴は、あたしがじきじきに罵ってやる』と酷い文面が書かれている。

 これで来るのだろうか? と思ったが僅か数分でイイネが1万件ついて引いた。なるるリスナーマゾ多すぎでは?


「兄君、人を呼べばいいのかい?」

「そうなんだ」

「ならボク達も協力するよ」

「あーしも明とかに声かけてみる。六輪高校の皆もきっと協力してくれるっしょ」

「ありがとう」


 人数はそこそこ集まってくれそうだが、それでも多くて500人くらい。

 その程度でいけるか……。もっと沢山集めないと、警備の隙をつくのは難しそうだが。

 するとアリスランドのオーナーである月が、凄い提案をしてくれる。


「ねぇあんた、同じ格好をした人間をパーク内に配置したいんでしょ? ならあたしがアナウンス出してあげるわよ」

「えっ?」

「コスプレイベントの一つにしちゃえばいいじゃん。ちょうどコスプレミスコンなんだし、この格好をしてくれた人にはドリンク無料とかにすれば、結構やってくれるんじゃない?」

「月姉ドリンク一杯とかケチくさ~」

「そうだよ月。元はと言えば運営が伊達家の圧力に負けちゃうからじゃないか」

「わかったわよ、じゃあこの格好した人は入園料返却するわ! オタメガネのおかげでこのアリスランドは存続できたんだから、それくらいやるわよ!」

「すまない、本当にありがとう」



 それから数時間後、俺もオタクファッションに着替えて、友の到着を待つ――


 夕暮れを背景に相野を筆頭とした、チェック柄のシャツにジーパン、バンダナ、指ぬきグローブのオタクたちがアリスランドに集結する。

 その中には友人入江や、綺羅星の元同級生の明君、六輪高校のヤンキーも混じっている。

 俺はその数に驚かされた、恐らく成瀬さんや静さん達のファンも合流したと思われるが、約3000人を超える人間が皆同じ格好をしているというのはかなり異様である。

 風になびくロンゲ、ガリ、デブ、希少種のイケメン、古今東西歴戦のオタクたちは眼鏡を白く光らせ入場門をくぐる。

 その様は劇場版マスクドヒーローで、ピンチの際過去作のヒーローが駆けつけるシーンのようにも見える。


「相野伝示推参。SNSでオタクオフ会inアリスランドを募ったらこれだけのメンツが呼応してくれた。ゲーオタ、アニオタ、ドルオタ、ミリオタ、鉄ちゃん、レイヤーに、様々なオタたちが集まっている」

「すごいオタクの数だ。覇王色の覇気を感じる」

「どいつもこいつもコミケを生き抜いてきた猛者だ。面構えが違う」


 確かにカメラをもったものや、エアガンを持ったもの、サイリウムを両手に持ったものなど多種多様なオタ達は、その瞳の奥に強い信念を宿している。

 好きなことに情熱を持ち続ける戦士が、これほどまでに集まってくれたのは心強い。


「さすがだ、お前たちといると日本のオタクがまだ死んでいないことを確信できる」



 剣心はメイク室に入り、肩と背中を露出し、隠しきれないたわわな胸を白薔薇の装飾が包む 、美しいウェディングドレスを纏った玲愛を見て大きく頷く。


「ふむ、良いではないか。お前は何を着ても似合うな」

「ありがとうございます」

「花嫁衣装を簡単に決めてしまって本当に良かったのか? まだ時間はあるから他にも試着しても良かったと思うが」

「何を着ても一緒なので」

「ふははは、お前は本当に自分のことに無頓着だな」


 剣心はわりと本気でそう思っている。

 だが一生に一度かもしれない結婚式の格好を、何でもいいという娘がどれだけ異常なのか理解できていない。

 彼女の何を着ても一緒というのは、死ぬときの格好なんて何を着ても一緒という意味だとわかっていない。


「これで許嫁の話も片付き、また仕事に打ち込むことができるな」

「はい」


 剣心は玲愛の声に全く感情がないことに気づいておらず、大きな仕事を一つ終わらせたと言わんばかりの安堵のしようだった。

 玲愛は鏡に写った自分を無感情な目で見やると、鏡の中の自分が何を着飾っているんだ? と嘲笑的な視線を返す。

 本来祝福されるであろう結婚式のはずが、盛り上がっているのは外野だけで彼女の心は氷原のように冷たい。

 そこに黒スーツの部下が現れ、剣心に耳打ちする。


「総帥、テレビ局が来ています」

「うむ、通せ」

「それともう一つお話が、同じ格好の――客が多数――」

「なに? どういうことだ」

「恐らく三石様が――」


 その名前にピクリと反応する玲愛。


「猛烈に嫌な予感がする……式を急がせろ。ホールの警戒度を最大に上げ、不審者はつまみ出せ」

「かしこまりました」

「玲愛少し出てくる」


 剣心は忌々しいと言わんばかりに、歩いているのに走っているような速度でメイク室を出ていく。

 すると入れ替わりでタキシードに身を包んだ内海が入ってくる。


「ヒュゥ、世界一美しい花嫁姿だと思うよ」

「世辞はいい」

「君のお父さん眉間にすごいシワが寄っていたけど」

「恐らくエイリアンでも出たのだろう」

「あぁ三石君」

「よくわかったな」

「剣心さんからしたら彼はもうエイリアンだろうね。全く理解不能な生物だと思う」

「お前は恋人がいるのに随分と余裕そうだな。このままだと私と結婚だぞ」

「当初の予定通りに進んでいるのに、今はなぜかその通りにいってほしくない。人生とは不思議だね」


 内海はスマホを取り出すと、悠介とのラインのやり取りを見せる。

 玲愛はその文面を読むと、眉を寄せた。


「”一之瀬さんと共に花嫁は頂く。協力されたし”なんだこれは?」

「三石君最後の戦いってことでしょ。彼は必ず式の最中に仕掛けてくる」

「期待しすぎだ、あれは大人の力をなめすぎている」

「彼の目的はあくまでハーレムエンドだよ。ここが最終分岐ってわかってるから絶対に君を奪還しに来るさ」

「お前の言っていることは意味がわからん」

「ギャルゲの話だよ」







―――――

玲愛編佳境なので、ユリプラ少しお休みでオタオタ更新します。

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