第80話 渚の定番イベントがオタを襲う
「それより
「午前中は用事あるみたいなこと言ってたけどな」
「じゃあわたし達だけで遊びます?」
「そうだね、暑いし水の中に入りたいな」
「遠泳なら得意だが」
「この中で水中適正A以上ある人?」
俺が聞くと、手をあげたのは火恋先輩だけだった。
やはりこのへんは運動能力に依存するんだろうな。
かくいう俺も水中適正はCくらいである。
「雷火ちゃんはカナヅチ?」
「ん~平泳ぎくらいはできますよ。遅いですけど」
「お姉さんも不得意ね……」
「ママ先生泳げないんですね」
「静さんは泳いでも前に進まない」
「そう、頑張ってクロールしてもなぜか前に進まないの」
不思議ねと首をかしげる静さん。
雷火ちゃんの目がチラッと彼女の胸に行く。
その目は、その胸についてるタンクが邪魔してるんじゃないでしょうか? と正論を訴えていた。
「じゃあ足のつくところでチャプチャプやりますか」
「そうですね。ビーチボールとかやりましょう」
俺は美女三人と共に、水の中へと入っていく。
◇
砂浜で膝を抱える、二人の少年の姿があった。
「はぁ、相野がこういうとこ来たら彼女できるって言うから来たのに、1時間ナンパした成果がビンタ1発だけだべ」
「オレなんかビンタ6発だぜ」
ナンパに来ていた相野と江口は、頬に赤い紅葉マークを作りながらキャーキャーと賑わうビーチを見やる。
「あんなにいっぱい女の子がいるんだから、誰か一人くらい遊んでくれてもいいべさ」
「所詮オレたちは非モテってことだ。帰って悠介巻き込んで、非モテスマブラでもするか」
「傷のなめあいはさもしいべ。あれ……あそこにいんの三石じゃないべか?」
「あ? あいつ水中適正Cだろ。なんでこんなとこに……」
そう言って相野は江口の見ている方を見ると、美女三人と悠介がキャッキャしながらビーチボールで遊んでいる。
「あぁ伊達家とデートか。いいよなぁ金持ちの女の子と許嫁になれるとか、宝くじの1等10回連続で当たるよりレアだぞ」
「あれが噂の伊達姉妹べか。でもやっぱ肉が足りないべさ。あと100キロくらい足してほしい」
「太すぎだろ!」
「太くねーべ! 女の体重は3桁乗ってからだべ!」
「どんだけDB専なんだよ!」
「そのへんは宗教の違いだべ。相野は三石と立場かわれるとしたらかわるか?」
「いやぁ、伊達はちょっと金持ちレベルが高すぎて、めちゃくちゃ羨ましいって感じしねぇな。社交界とか出たくねぇし、相手の親怖そうだし、結婚してからめちゃめちゃ肩身狭そう」
「そうさな。多分マスオさん以下の扱いだべ」
「そう考えると悠介は気の毒だな」
「だべだべ。宝くじも美人も裏があるべ」
二人でうなずいていると、遠くに見える悠介は雷火が突然後ろから抱きついたり、静がよろけて前から倒れてきたりとラッキースケベの限りを尽くしている。
「あいつやっぱ許せねぇな」
「ああ、マスオとしての自覚が足りないべ」
音速の手のひら返し。
「恋愛異端審問官として、
「なにするんだべ?」
「まぁ見てろ。渚の白き狩人と言われたオレの恐ろしさを」
相野は水中に潜るとスイーっと潜水して、悠介の背後に近づいていく。
「ぶはっ、天誅完了」
「なにしたんだ?」
「あいつの海パンのゴム抜いてきた」
「オメェほど恐ろしい男はいねぇべ」
◇
腰まで水につかった俺達は、四角形に分かれビーチボールで遊んでいた。
「いくわよ、ユウく~ん。1、2、さ~ん」
静さんがサーブすると、ボールは山なりの軌道を描き俺のもとへと飛んできた。
すかさずレシーブするが、手首の変なところに当たってボールを沖の方へと弾いてしまう。
「あっ、ごめん。とってくるね」
「悠介さんレシーブ苦手ですね~」
ケラケラと笑う雷火ちゃん。
言えない。サーブするたびに弾む静さんの胸に視線が吸い寄せられ、レシーブをミスってしまっているとは。
「下が水でほんとによかった」
俺は泳いでボールを取りに行くと、そのとき大きな波が頭から覆いかぶさった。
勢いが強く、一瞬水中に飲まれたがすぐに水から顔を出す。
「ゴホッゴホッ! あぁびっくりした」
たまにおっきい波が来るんだよな。
といっても、足がつくので溺れる心配はないが。
ボールを回収して、踵を返す。
「早く戻ってエロバレーしなきゃ」
ん……? あれ、腰に違和感というか解放感が……。
俺は嫌な予感がして、下を見下ろす。
すると水中に【禁】のモザイクが見えた。
「ウッソだろ。海パン流されるとかある?」
慌てて周囲を探すが、流されてしまったのか見当たらない。
オイオイオイオイ、水着流されちゃった系イベントは女の子がやるからいいわけで、オタクの海パンが流されても誰も得しないぞ!
「うぉぉぉぉ! 俺の海パンどこだー!?」
リアルにこの格好じゃ水から出られないぞ!
その頃――
「悠介さん、なかなか帰ってきませんね」
「なにしてるのかしら?」
女性陣が首を傾げていると、そこに先程悠介が穿いていた海パンが流れ着いた。
「ん? なんですかこれ?」
雷火が黒のハーフパンツ型の水着を拾い上げる。
「それ、ユウ君の水着じゃない?」
「もしかして波で流されたんですかね?」
嘘でしょ、ドジっ子過ぎません? 可愛い。となぜかトキメく雷火。
「多分……」
「どうします? とりあえず被りますか?」
「被るかバカモノ。困っているだろうから、届けた方がいいだろう」
「ん~お姉さんが届けてくるわ」
静は悠介の海パンを受け取ると、水の中を歩いていく。
「静先生、大丈夫ですか? 泳げないなら私が行きますが」
「深いところでも足がつくから大丈夫よ。それに多分ユウ君も、火恋ちゃんたちに見られたくないでしょうし」
ウフフと母性的に微笑んで、静は悠介の元へと向かう。
「あぁ、やばいんじゃ~。このままじゃお宝もろ出し野郎として、伊達家に怒られてしまう」
というか水中ゴーグルをした人が通りかかったら、俺の人生詰む。
なんて儚くガラスのような人生なんだ。
「ユウく~ん」
「し、静さん、お願いこっち来ないで!」
「ユウく~ん。これユウ君の水着でしょ?」
彼女の手に握られているのは、まさしく俺の海パン。
波で流されていたのか。
「ありがとう静さん!」
これでモザイク野郎と言われずにすむ!
やっぱり頼れるのは有能な義姉。
「受け取って~」
静さんはパンパンマン新しい顔よ、と言わんばかりに水着をポイと投げる。
しかし水を含んだ海パンは思いの外飛ばず、目の前に叩きつけられた。
俺は慌てて水着を掴もうとしたが、その時また大きな波が襲来し、海パンをさらっていった。
「…………」
「ご、ごめんね……」
「いや、いいよ。また探そう」
「その……ユウ君。できればお姉さんのも探してほしい……」
見ると静さんは両手で自分の胸を隠していた。
どうやら先程の波で、眼帯ビキニが流されてしまったらしい。
『状況悪化!』
プールで水着を流される三石姉弟。
これはまずいですよ。
俺は水中に潜って探そうとしたが、その時仲よさげなファミリーが俺たちの周りで遊び始めた。
「まずい」
「ユ、ユウくぅん……」
「静さんは俺の後ろに回って」
「う、うん」
静さんは俺の後ろにぺったりとくっつき、なんとか見えないようにする。
背中で生のウォーターメロンが潰れているが、それに意識を集中させるわけにはいかない。
俺はビーチボールを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます