第79話 やめてエロ同人みたいなこと(ry

「相野のことはどうでもいいとして、静さん遅いな」

「ママ先生、サイズが合う水着がないって言ってましたから」


 急遽ここに来ることになったので、俺以外全員レンタル水着なのだが、やはり戦闘力100を超える静さんサイズを支えられるものはなかったか。


「多分紐で結ぶタイプのを着用してくると思いますけど」

「どうせ静さんのことだから、やべぇ水着で出てくるんだろうな」


 雷火ちゃんとそんなことを話していると、更衣室付近がざわついている。

 なんだろうかと思い視線を向けると、一人の女性が手を振りながらこちらにやって来ていた。


「ごめんね皆~。サイズの合う水着がなくて」


 それは言うまでもなく静さんで、母性的な糸目に長い髪を揺らす売れっ子少女漫画家兼俺の義姉。

 下はロングのパレオだが、上は四角い布に二本の紐を通して胸のトップ部分をおさえた、通称眼帯ビキニというやつでやってきた。

 その水着は彼女の圧倒的ボリュームを隠すにはあまりにも頼りなく、メタリックパープルのカラーが陽の光を反射して眩しい。


「「ほんとにやべぇので来た」」


 二人でゴクリと生唾を飲み込む。

 彼女が小走りすると、2個のウォーターメロンが上下に激しく揺れ、俺の眼球も上下に揺れる。

 当然砂浜の視線が一気に集中し、すぐに彼女の周りに男が群がってきた。

 日焼けした筋肉質な男達は、皆鼻息を荒くしながら静さんの行く手を阻む。


「奥さん、俺たちと遊ぼうよ」

「向こうにウォータースライダーがあるんだけど、一緒にやらない?」

「一人じゃ寂しいでしょ、俺達が遊んであげるよ」

「あ、あの私既婚者じゃ……」


 あかん、狼の群れに牛、じゃなくて羊が迷い込んでしまった。

 相変わらず悪い男を呼び込む、変なフェロモンを放出する人だ。


「悠介さん、このままじゃママ先生が!」

「エロ漫画家にされてしまう!」


 俺はダッシュで静さんの元へと向かう。



 なんとか陸サーファーどもから救出して、雷火ちゃんの元に戻ってきた。


「あ、ありがとうユウ君。ケガない?」

「いや、大丈夫」

「悠介さん、よくあの強そうなチャラ男たちから救ってこれましたね」

「それは……その……」

旦那主人ですって言ったら皆どこかにいったの」


 静さんは悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、ウフフと微笑む。

 対する雷火ちゃんは、無言で俺のスネをひたすら蹴ってくる。


「悠介さん、わたし最近ママ先生って実はヒロイン枠なのでは? と思ってるんですけど」

「ソンナコトナイヨ」


 特殊攻略枠とかそんなのではない。……多分。

 やはりこの人を連れてきたのは失敗かもしれない。

 そう思っていると、静さんは胸の谷間からコンパクトカメラを取り出しレンズを覗き込んだ。


「ちょうど背景資料がほしかったの」

「あっ、もしかして恋夜海水浴編ですか?」

「えぇ、公開はちょっと先になっちゃうけど」

「へー楽しみですね。ちなみにどんなストーリーなんですか?」

「うんとね、ひと夏の思い出に主人公ちゃんとヒロインちゃんが海に出かけるんだけど、そこで人喰鮫が現れてヒロインちゃんを食べちゃうの」


((ホラー!?))


 俺と雷火ちゃんの頭に同じことが同時に浮かぶ。


「それオチはどうなるの?」

「主人公ちゃんがサメの中に入って、ヒロインちゃんを救出して出てくるの」

「それどうやって出てくるんですか?」

「モリでお腹を突き破ってかな」

「主人公強すぎん?」


 ※三石冥先生は、時たま狂った回を描くことで有名。


「それ伊勢さん(静さんの担当編集)に何も言われないの?」

「えっと伊勢さんはネーム見せたら……」


『このサメ、手足をつけて四足歩行にしましょう。陸も歩けるように』


「って」

「あの人も狂ってる側だったか……」

「伊勢さん怪物モンスター好きだから」

「恋愛マンガの編集だよね?」

「悠介さん、足の生えたサメって、それもうワニでよくないですか?」


 雷火ちゃんは砂浜に、足の生えたシュールなサメを描いている。

 確かにコレ、口を伸ばせばただのワニだな。


「そ、そうだね……」


 そんなDOKI☆DOKI恋夜、ジョーズ編を話していると、水着女性に連れ去られた火恋先輩が帰ってきた。


「き、君たち一人くらい助けにきてくれてもいいんじゃないか!?」

「すみません、そっちは多分尊厳を奪われることはないだろうと思いまして」

「尊厳……?」

「姉さんならエロ同人にならないってことですよ」


 火恋先輩なら陸サーファーに囲まれても、蒼天御剣流でなんとかしそうだし。

 強い女子っていいよね。ぜひとも守っていただきたい。


「ま、全く私とて女だ。腕力では男にはかなわないのだよ?」


 女をやたらと強調する火恋先輩。


「じゃあ試しにちょっとやってみましょうか? 俺が悪いナンパ男をやりますから、先輩ははねのけて下さい」

「う、うむ」

「可愛いお姉さん、俺と一緒に遊ぼうぜい」


 俺は精一杯あくどい顔をしながら、火恋先輩の腕を掴む。

 しかし彼女はむぅっと首をかしげたままだ。


「どうかしました?」

「ヌルいな?」

「ヌルいとは?」

「悪漢ならば、もっとアグレッシブに来たらどうだ?」

「アグレッシブとは?」

「こう、いきなり胸に触れてくるとか」


 火恋先輩は俺の手をとって、自分の胸を触らせる。

 ぶにんと競泳水着越しに乳が潰れる。


「ちょ、ちょ火恋先輩! 手を離して!」

「もっと力強く私の尊厳を踏みにじりたまえ! それでも悪漢か!」


 痛烈な悪漢役批判。


「そんな極悪犯になったつもりはないです!」


 俺は必死に手を離そうとするが、火恋先輩の手はびくともしない。

 それどころか掴んだ手を上下に動かしている。


「やめてお願い離して!」

「いーややめない。前々から私は、君がちゃんと子作りをできるのか疑問だったのだ。ちょっとこっちに来たまえ」

「ちょ、ちょっと火恋先輩、これじゃ役が逆転――」

「いいから来るんだ! これは伊達存続問題でもある!」


 腕力では男に勝てないとは一体なんだったのか、火恋先輩は俺をずるずると引きずって、更衣室裏へと連れ込んだ。



 10分後――

 俺はメソメソと泣きながら皆の元に戻った。


「悠介さん、なんでそんなボロボロになってるんですか?」

「火恋先輩に酷いことされた……」

「なんで悠介さんがエロ同人みたいなことされてるんですか……」


 あの人と寝室に入ったら、マジでノンストップで最後までいきそう。

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