第70話 オタとエアホッケー

「雷火ちゃん、もう許して……」

「しょうがないですね。これくらいで勘弁してあげます」


 あれからバイク型の筐体に三回乗って、さすがに疲れてきた。

 まぁ全ては俺が綺羅星キララのおっぱいを触ったのが悪いのだが。

 雷火ちゃんはどういうふうにやったか検証しますと、痴漢の現場検証の如く綺羅星にしたことと全く同じことを要求してきた。

 結果、今雷火ちゃんはノーブラである。


「ちょ、ちょっとわたし下着直してきますから」


 そう言ってトイレへと向かう雷火ちゃん。

 彼女のスカートのポケットからは、ブラジャーのバックベルトが覗いている。


「雷火ちゃんの胸にも触ってしまった……」


 いや表現が悪いな、あれはあくまで協力プレイの一環であり決してやましいものではない。

 あんなに揺れるゲーム側に問題があるべきと、責任転嫁しておこう。

 まさか対戦相手も、コクピットで乳繰り合いながら戦っているとは思うまい。

 しかもなんだかんだで3戦全勝した。


「雷火ちゃんは単純にゲームが上手いんだよな……」


 ゲーム上手い人、何やっても上手い説は概ね当たりだと思う。

 雷火ちゃんを待っていると、コスプレ衣装を買いに行った火恋先輩と静さんが帰ってきた。


「ユウ君ただいまぁ」

「お帰り。なんか良い衣装ありました?」

「ああ、かっこイイボディースーツがあったんだ」

「へーボディースーツですか?」


 コスプレ用ボディースーツと言えば、エヴァリオンとかが有名だが。

 火恋先輩は嬉しそうに紙袋から紫色のスーツを取り出す。


「サイバーくの一装備らしい」

「……これ完全に退魔忍ですね」

「そうなのかい? ゲームが原作だと店員さんは言っていたが」


 はい、ハード陵辱エロゲが原作でございます。

 現在は全年齢版のソシャゲが稼働中らしいですが。


「これは感度が3000倍になりそうな衣装ですね」

「すまない。用語にあまり詳しくなくてね」


 知らなくて大丈夫です。


「静さんはなにか買ったの?」

「わたしはヴァンパイアセイバーのサキュバスを」

「ほー、格ゲーで人気キャラだ。でもかなりエッチな格好だよね?」

「その……胸のサイズに合うのがこれしかなくて」


 さすが魔乳秘剣帳の静さん。

 実際巨乳の人って、日常生活の服にも苦労するらしいし、サイズバリエーションの少ないコスプレ衣装だとなおさら選択の幅は少なそうだ。

 それに静さんのサイズは、巨乳の中でも更に規格外だしな。


「ところで雷火は?」

「トイレに行きましたよ」

「そうか、あいつに伝えたいことがあったんだが」


 そう言ってるうちに雷火ちゃんが帰ってきた。


「あっ、皆さんお帰りですね」

「雷火、お前の好きな俺のスーパーヒーローアカデミックのイベントをやってたが、行かなくていいのか?」

「は? どこでやってたのそれ?(威圧)」

「コスプレショップ奥のゲーMARSというところだ。声優さん? が来ていたぞ」

「ちょっと行ってきます」


 雷火ちゃんはビューンとゲームセンターを出ていく。

 あの子ちょっと行ってきますって言って、真っ先に財布出したぞ。

 オタコンテンツに飼いならされすぎだろ。


「俺たちはどうします?」

「私はあまりゲームセンターに来たことがないから、少し遊んでみたいのだが」

「お姉さんも~。取材のことすっかり忘れちゃってた」

「じゃあ行きましょうか」


 俺は両手に花状態で、火恋先輩たちと共にゲームセンターを見て回る。



 30分後――


「さ、最近のゲームは難しすぎると思うのだが……」


 やはりゲームに慣れていない火恋先輩では苦しかったか。

 プレイしたすべての対戦ゲームで敗北。

 ガッツリメンタルを折られていた。


「俺はレースゲームでいきなり逆走する人を初めて見ました」


 フワフワの雲に乗ったカメが必死に『逆走してんぞお前!』と警告してくれてるのに、完全無視してコースを逆走。

 オンライン対戦中のプレイヤーに、次々正面衝突していくという大惨事を起こした。


「先輩、免許とっても高速乗らない方がいいと思います」

「私を老人ミサイルと同じ扱いしたな君は!」

「だって……ねぇ……」


 火恋先輩を避けようとした他プレイヤーが、壁に衝突したり沼に突っ込んでいったりと地獄絵図だった。

 彼女に悪意は全く無く、ただ純粋に下手なだけなので対戦したプレイヤーは許してほしい。


「くっ、なんとか汚名を返上したいが……」

「じゃあ、あれなんてどうです?」


 俺が指差した先には、長方形のエアホッケー台があった。


「エアホッケーやったことあります?」

「馬鹿にしないでほしい。パックをゴールに入れる、テーブルサッカーのようなものだろう?」

「知ってるんですね。古いゲーセンとかだと絶対あるやつです」

「私はスポーツクラブで見たが」

「あぁなるほど、そういうところにもあったりしますね」


 これなら運動神経の良い火恋先輩なら、健闘できるんじゃないだろうか。


「じゃあ俺とやりましょうか? 静さんも一緒にやる?」

「えっ、でも3人でできるのかしら?」

「火恋先輩と静さんの2対1でいいよ」

「完全に我々をなめているね」

「そうですね……残念ながら……」


 今までの内容でなめるなと言う方が無理があるだろう。

 正直火恋先輩のオール自殺点オウンゴールで、俺が勝つ未来しか見えない。


「そこまでバカにされると、私にもプライドというものがある。何か罰ゲームを決めないか?」

「いいですね。何にしますか?」

「コスチュームショップに男用退魔忍というボディースーツがあった。我々が勝ったら、君にはそれを着てもらう」


 ガチの罰ゲームだ!


「いいですよ。じゃあ俺が勝ったら、二人にはあっちにあるカプセル筐体に乗ってもらいます」

「戦場の運命? あれが罰ゲームなのかい?」

「乗ればわかります。あっ、ちなみに乗るときはノーブラでお願いします」

「「???」」


 邪悪な笑みを浮かべる俺を不気味がる二人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る