第300話 リテイクで

 新居への引越が完了し、俺たちは本格的にゲーム開発の話し合いを行っていた。

 談話室で、囲炉裏を囲んで勢ぞろいする開発メンバー一同。

 その中で俺は月の書いてきた、シナリオのプロットを読んでいた。


【ブレイド(仮)】


ジェイク・ステイン(仮)

物語の主人公で、元技術工兵。卓越した機械操作技術を持っていて、正義感が強い。

2年前に起きた異星生物襲撃事件で、極秘裏に開発していた人型機動兵器【ロデオ】に搭乗。

自国である【シャルステイン公国】の市民を守ったものの、ロデオの無断使用について軍法会議にかけられ、現在軍事刑務所にて服役中。


ヒロイン1(仮)

新型ロデオ開発に関わっていた、人型機動兵器研究の天才科学者。高い創造力を持ち、それを実現する頭脳もある。

しかし彼女の言うことは常人離れしており、社交性も低いため会話が噛み合わないことが多い。主人公と喧嘩することも多いが、物語の中で信頼関係を築いていく。



あらすじ


『宇宙から飛来した未知の巨大生物【グリフォン】

主人公ジェイクの活躍によって一度は退けたものの、グリフォンは月面に基地を作り、繰り返し隕石と共に人類に攻撃を行ってきた。

軍事基地で服役中のジェイクの元に、グリフォンによる攻撃が行われ、基地は火の海に包まれる。

炎から逃げるジェイクの目の前に、ヒロイン1が開発していた新型機動兵器ロデオが起動状態で登場。

二度とロデオに乗るつもりはなかったジェイクだったが、持ち前の正義感から襲われる人々を守るため、再び機体へと乗り込む。


グリフォンを撃退したジェイクの元に、ヒロイン1が現れる。

ヒロイン1はジェイクの腕を見込み、刑期の減刑を条件に新型のパイロットと、結成される予定の新部隊ブレイドの指揮官を頼む。


それを引き受けた主人公は、ブレイド部隊員と衝突しつつもお互いを守り、協力しながら危機を乗り超えていく。

その中で、ジェイクは部隊の誰かと恋愛を行い、最終戦闘で一番好感度の高いヒロインと未来を切り開く』


 あらすじの後は、仲間兼ヒロインになるブレイドの部隊メンバーの設定と第1話目が書かれていた。

 全てを読み終え、俺は大きく頷く。


「…………これでいこう」

「えっ、OKなの? あたしリテイク覚悟してきたんだけど」


 俺の1発OKで、月は素っ頓狂な声を上げる。


「ああ、ロボものの王道を抑えてるし、ストーリーの広げ方で壮大にもラブコメにもなりそうでいいと思う」

「ほんとに大丈夫? ビジュアルノベルってシナリオがめちゃくちゃ重要なのよ?」

「一旦これで走らせたい」

「一旦って?」

「ゲームの作り方って二種類あって、1つは完成図を明確にしてミスのない完璧なものを一発で作り上げるやり方。もう一つは、とにかく開発を走らせ、テストプレイと修正を繰り返してゲームを作り上げる方法」

「なんだっけ、それって確かウォーターフォール型とアジャイル型ってやつよね?」

「そう、どっちもメリットデメリットがあって、ウォーターフォールは完成図が見えてるからスケジュール管理がしやすい。デメリットとしては、途中から仕様変更ができない。アジャイル型は短期目標を設定して、その目標が達成出来たら品質テストを行う」

「品質テストって何よ」

「皆でプレイしてみて、ここまで面白いかどうかフィードバックを行うんだ」

「なるほど、一気に全部作るんじゃなくて一歩一歩確認しながら進んでいくって感じね」

「そう、とくに今回予定しているゲームは、1話ずつ読み進めるアニメ形式だから、こっちの設計にもってこいだと思う」

「つまり、1話を作って面白いかどうか皆で考えていこうってこと?」


 俺はコクコクと頷く。


「その通り。神崎さんからのアドバイスで、素人が高すぎる目標を持つと9割方完成しないって。俺はこれをR●Gツクールの法則と呼んでる」

「あぁ、壮大なゲームを作ろうと思ったけど、途中で飽きちゃうって話ね」

「この方法だと、全員でテストをできるからイラストが今何やってるかわかんないとか、プログラムがどこまで進行してるのかわかんないってことがなくなる」

「何か面白いこと思いついたときも良さそうよね」

「うん、イラストとかで、これアニメーションさせたいけどプログラムで出来る? とか疑問点をすぐに話し合える」


 全員がなるほどと頷く。


「でも兄君、イラストはそんなすぐに完成しないよ?」

「大丈夫、絵や音楽はフリー素材とかで代用していく。それにさっきもいった通り、この開発の仕方はリテイク前提の進め方だから、最初からフルパワーでやるんじゃなく、イラストなら線画だけで上げてほしい」

「イメージにあわなかったら修正するわけだね」


 俺は天に頷く。


「そう、設計→実装→テスト→設計→実装→テストを反復してやっていく。あまり効率が良いやり方じゃないんだけど、完成までいって、これ……クソゲーじゃない? ってなるのを防ぎたい」

「た、確かに、時間かけて完成させた後だったら、もう修正ききませんしね……」


 全員の意思疎通が出来たところで、ここから俺の仕事が始まる。

 各セクションに向けて、指示書を書くことだ。

 イラスト担当に、とりあえず立ち絵描いといてくんない? というのは指示ではない。

 主人公、ヒロインの立ち絵が一体何枚必要なのか、表情差分は何パターンいるのか? 画像サイズは? 保存形式は? など、細かく具体的な数と種類、納期、優先度をまとめていかなくてはいけない。


「月は2話目を書いていって。俺は指示書書くから。でき次第ゴーグルドライブで回してくよ。指示書待ちの人は、参考になるゲームがあるからそれをプレイしててほしい」

「わかりました」

「OK」

「あっ、そうだ悠介さん」


 自室に戻って作業しようとしたところを、雷火ちゃんに引き止められた。


「なに?」

「このサークルって、名前何にするんですか?」


 そういえばずっと名無しのままだったな。

 コミケに出るには、ブレイクタイム工房みたいな名前が必要だ。


「…………オタクゲームズとかどう?」


 俺のネーミングセンスに、皆の顔がちょっと曇った。


「コミケまで皆のアイデア募集するよ」

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