第299話 新居

 俺たち開発メンバーは、リフォームが終わった幽霊屋敷に戻って驚いていた。

 なんということでしょう、中からゾンビが出てきそうだった屋敷は、モデルルームのように白く輝いていたのです。

 腐りきってボロボロだった屋根は一新され、雨が降るとぬかるんだ泥になっていた庭には、青い芝生が敷き詰められています。

 妖怪ポストが置かれていた玄関には、新たに銀のポストと花壇が設置されており、全体的に茶色かった外観が明るくなっているのです。


 あまりの変貌ぶりに驚き、一瞬住所を間違えたかと思って二度見してしまったほどだ。

 その驚きは、屋内に入ってからも続く。


「おー……きしみが消えた」

「す、凄いよ兄君、割れてたガラスが新しくなってる」

「やばいですよ悠介さん。この家……wifiが……入ります」

「嘘でしょ、この家wifiとんでるの? ハイテクじゃん」


 何を当たり前のことをと思うかもしれないが、この家はそんな当たり前のことすらできておらず、今までモバイル回線でネットをしていたのだ。


「にゃ~ん」


 キャリーバッグから出てきた大福も、どこかオドオドしており、綺麗すぎて鏡みたいなフローリングに戸惑っている模様。

 俺は恐る恐る、囲炉裏のある談話室へと向かう。


「あっ、良かった……この部屋残ってる」


 残ってるというよりか、一旦潰して新しく作り直したと言ったほうが正しいだろう。

 ボロボロだった換気扇は、ごつくて強そうなファンになってるし、すす汚れだらけだった天井も新しくなっている。

 それぞれ皆が自室に荷物を置きに行き、俺も自分の部屋へと入った。


「おぉ……ボロボロの畳が、綺麗なフローリングに……」


 壁もどす黒いシミだらけだったのに、真っ白になってるし、おまけにベッドまで用意されている。

 天井を見上げると、照明も埋込み型になっていてオシャンティーだ。


「リフォームというより、ほぼ新築だな」


 これ住居費とれるぞと思っていると、隣室の静さんが凄い勢いで駆けこんできた。


「悠く~ん、ここダメよ、欠陥よ欠陥工事なの!」

「どうかした? 何か変なとこあった?」

「うん、悠君の押入れと繋がってた穴が塞がってるの!」


 それはちゃんとリフォームされているということでは?

 まぁ俺としても、のぞき穴がなくなったのは少し残念だが。

 そう思いふと自室の壁際を見ると、見慣れぬ扉が出来ている。


「ん? 新しいドアが……」


 嫌な予感がしつつ扉を開くと、静さんの部屋に繋がっていた。

 どうやら穴を塞いで、直通の扉が新しく作られたらしい。


「ここから入ればいいってことなのね♡」

「……くっ、このドア俺の部屋から鍵かけられない」


 欠陥工事だろ。自家発電してたら大変なことになるぞ。


「これなら安心ね」


 ほっと爆乳を撫で下ろす静さんだが、俺は全く安心できない。


「ん? あれ、床にも扉がある……」


 俺は床にある四角い扉を持ち上げると、木製の垂直階段が見えた。

 なんじゃこれ? 地下室があるぞと思い、頭を突っ込んで下を覗き見る。

 すると、メイド服に着替えている最中の一式と目と目があった。

 先にニーソから履く派なのか、純白の下着にガーターベルト姿で、白のニーソを履こうとしているところだった。


「…………一式?」

「御主人様!? ……一瞬生首かと」


 確かに一式視点だと、天井から頭が生えてきているように見えるだろう。


「なんで地下に? こんな部屋なかったよね?」

「はい、地下にも新しく部屋ができたらしく、こちら防音になっているそうで移ってまいりました」


 そりゃ歌の練習をする一式には丁度いい。


「御主人様の部屋も真上ですので、お世話もしやすいかと思いまして」


 俺は嫌だぞ、朝になったら床からマリオみたいにポーンっと一式が飛び出してくるの。

 ってか俺の部屋アクセス良すぎだろ。しかも全部俺の意志で鍵がかけられない。


「あ、あの御主人様、着替えますので一旦戻っていただけると助かります」

「ごめん」


 着痩せする胸元を隠している一式を、じっくりまじまじと見てしまった。

 本当なら叩き落とされてもおかしくないのだが、着替えの最中でも普通に話をしてくれる一式マジ天使。

 本当に凄いリフォームをしてくれたなと思っていると、玲愛さんから電話が入った。


「はい、もしもし」

『私だ、もう引越は終わったか?』

「今アパートの中を見て回ってます。めちゃくちゃ綺麗になってますね」

『そうだろ。私も近いうちに見に行く』

「あの、つかぬことをお聞きしますが、これめちゃくちゃお金かかってないですか?」


 多分1000万くらいかかってそう。


『お前が気にすることじゃない。ところで悠、お前の腎臓は元気か?』

「売りませんよ」


 リフォーム代金に腎臓要求されるの怖すぎる。


『冗談だ』

「あなたが言うと冗談に聞こえません」

『私とて、誰かに腎臓を要求したのは過去に二度しか無い』


 冗談ですよね? 伊達ってネットで検索すると、黒い話も出てくるんですよ?


「あの、玲愛さんはこっち来ないんですか?」

『そこはお前たちの開発室だろ。私が行ってもやることがない』

「別に開発関係なく来ればよくないですか? プロデューサーの立ち位置で」

『私は影ながら応援しているさ』

「あ、あの、でしたらローカライザーとか」


 ローカライザーとは、英語や中国語などに翻訳を行う役職のことである。

 英語版を出す予定なんてなかったのだが、出来る人がいるなら作ってみてもいいんじゃないだろうか。


『翻訳職か。英語なら雷火や火恋も』

「彼女たちには別で仕事がありますし」

『……しかし』


 俺が食い下がっていると、静さんが電話かわってと促してきた。


「玲愛ちゃん、私よ」

『あ、義姉上!?』

「私前に玲愛ちゃんに、ちゃんと悠君守ってくれなきゃダメよって言ったよね」

『は、はい……』


 静さんは別に怒っているわけじゃないのだが、声音が常に優しいので判断がつきにくい。

 玲愛さんは、静さんが怒っていると思って声が上ずっている。

 多分この世界で唯一、玲愛さんを畏怖させることができる人物だと思う。


「目の届く範囲にいたほうが、守りやすいと思わないかしら?」

『は、はい』

「じゃあ、こっちに来てくれるかしら♡」

『近いうちにそちらに移ります』


 こうして玲愛さんの移動も決まった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る