第369話 水咲奪還戦 Ⅴ
盛大にドアを蹴り破って入ってきたのは、真下シスターズ。
ギターを持ったメイドの乱入で、現場はポカーン状態。
「「「……………」」」
「あれ? なんか思ってた反応と違いますわね。もっとドンドンパフパフと喜んでくれてもよろしいのですよ?」
弐号機の盛り上げの擬音語が古い。
俺を除くキャスト全員が「誰これ?」となっていると、ディレクターからカンペが出された。
『サークル三石家、サウンド担当の真下一式と弐式です。新曲のプロモーションをかねて、急遽放送に参加されることになりました。彼女達にはゲームの挿入歌を歌ってもらいます』
長尺のカンペを読み終え、インタビュアーの矢田さんがあたかも最初から予定されていたかのように紹介を行う。
「はい、皆さん驚かれたと思いますが、こちらのメイド服のお二人はサークル三石家でサウンド担当をされている、真下一式さんと弐式さんです。えーっと彼女達は、プロ声優としても活躍しており機動戦士ガンニョムEXE、進藤リナ役としても有名です」
「どうも、サークル三石家の真下一式です」
「同じく弐式ですわ」
「お二人には、サークル三石家の新作フレームアームズの挿入歌
二人のアイドル声優の登場により、生放送の視聴者数がグンっと跳ね上がり1000人から一気に3000人に上昇。
配信画面も『本物?』『真下シリーズきたぁぁぁ!』『4ぬほどかわいい』『ドッペルゲンガー?』などのコメントであふれかえる。
俺は逆に心配になった。大丈夫か? 一式はともかく弐号機はこんなゲリラ出演して生歌歌うって経験ないだろう。
ハラハラしながら見つめていると、その視線に気づいた弐式がこちらに向かってウインクと同時に投げキッスをかえした。
違う、別に好意を伝えるために熱視線を浴びせていたわけではない。ってか、お前はいつもはじっと見つめてたら舌打ちして、中指立ててくるだろ。なんでそんな機嫌良いんだ。
今度は一式になんとかフォローしてあげてと視線で訴えてみるも、こちらも勘違いされたようで手ハートを返された。
(やめて、匂わせみたいなのほんとやめて……)
今3000人も視聴者見てるから邪推されたら燃える。
そう思い画面をみると『うぉぉぉぉ投げキッスきたぁぁぁぁ!』『chu!(^3^)』『♡♡♡♡』モコおじが二人の仕草に狂喜乱舞している。
(良かった、多分気づかれてない)
曲が始まり、メイド二人はギターを掻き鳴らしながら全くブレないユニゾンを見せる。
突然始まったライブとは思えない声の伸びで、ハイテンポのサビの部分は鳥肌が立つ。大した機材もないのに、これほどの歌が披露できるなんて改めて真下姉妹は化け物だなと思う。
彼女達のお陰で視聴者数カウンターはグングンと伸び、3000からあっという間に1万を超し、2曲めのセカンドイグニッションに入る頃には、2万弱まで数字を伸ばしていた。
なんて数字を持っている子なんだと思ったが、二人のよくないところがまた出る。
(一式、弐式、こっち見なくていいから。お願いだからカメラ見て)
多分気の所為やうぬぼれではなく、二人は俺を見て歌っている。二人共ちょいちょいウインク挟んでくるし、歌の情熱を全て俺にぶつけようとしているみたいだ。
(お願いだから、アイドルがライブ中に彼氏にしかわからないサイン送ってイチャつくようなことしないで)
二人の危険なパフォーマンスに冷や汗が止まらない。
「ミッチー見ろよ、さっきから真下姉妹オレ様にウインク連発してるぜ! これ完全に気があるだろ!?」
俺の隣で
曲が終了し、真下姉妹は肩で息をしていた。たった2曲に己の全身全霊を込め、完全燃焼したような姿。
スタッフ含めた全員が大きな拍手をすると、一式と弐式はギターを下ろして俺の両サイドに腰をおろした。
「どうもありがとうございました、一式さん弐式さんでファーストドライブ、セカンドイグニッションでした。お二人は、本来予定にはなかったご出演ということで驚いています」
「はい、我々社長から宣伝をしてくるようにと言われて。後ほど社長も来ます」
「社長ですか? おかしいですね、社長は今日急用があると聞いていたのですが……」
インタビュアーの矢田さんが首を傾げると、弐式が大声で煽る。
「社長、重大発表があるとおっしゃってましたけどー? ですよねー社長ー?」
社長見ってるー? とカメラに向かって問いかける。
なるほど、真下姉妹が摩周社長をどうやって引きずり出すかわかった。
大越の助言で急遽配信を休むことにした社長だが、後からきた真下姉妹が「社長来ますよ、重大発表をもって」と配信上で言ってしまうと、これが嘘でも顔を出さざるを得ない。
視聴者数が1000人程度なら無視することもできるだろうが、今現在は2万人超え。しかも真下姉妹の生歌のおかげで、視聴者の配信に対する熱量が高い。
画面には『重大発表なんだろ』『社長くんのかよ』『社長ちこくかー?』などのコメントで溢れかえっている。
流れが悪いと見た開発の伊也見さんが、慌てて否定する。
「社長は来ませんよ! 来るなら私に連絡があるはずです。そもそも社長は用事で社にいませんから!」
いい大人が居留守設定かよと思ったが、予想外の人間がその言葉を否定する。
「あれ、オレ様ついさっきオヤジ……じゃなくて社長とあったぜ?」
「僕も会いましたよ。配信のことラインで来てますし、多分番組見てますよね」
「元から配信出るって言ってたし来るんじゃねぇの?」
何も知らない摩周兄弟が、社長は会社にいるということを配信で言ってしまったのだ。
さぁこれで居留守も使えなくなったぞ。
その時カチャリとドアが開く。まさか社長もう来たのか? と思ったら、ドア影に見えたのは雷火ちゃんや静さん達だ。
「あれ、皆……?」
彼女達の顔には「来ちゃダメって言われたけど、来ちゃった♡」と書かれている。
来ちゃったかー来ちゃったなら仕方ないな、そりゃ顛末気になるもんな。
なら俺もここで畳み掛けるか。
「今そこにウチのメンバーが来てますね。多分社長が来てくださるみたいですし、問題のDLCの話を聞けるんじゃないでしょうか?」
俺が摩周社長との対決を匂わせると、一気にコメントが加速する。
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