第368話 水咲奪還戦 Ⅳ
生放送は平均視聴者数1000人強くらいで安定しつつ、解説者がそれぞれのゲームを試遊するコーナーへと入った。
「いやぁ素人が作ったとは思えないデキですよ」
まず最初にブレイクタイム工房の新作がプレイされ、ヴァーミットの開発部長でもある伊也見さんはゲームを褒めちぎっていく。
「僕が君たちの年代で作ったゲームなんて、ブロック崩しに疑似パックメンくらいなもんだ。開発ツールの進化もあるけど、それを学生で使いこなせるというのは本当に凄い」
「そうですね。ゲーム素人の私が見ても、プロと遜色がないと思います」
インタビュアーの矢田さんも、うんうんと唸る。
そりゃそうだ。摩周兄弟が作ったゲームは実際は居土さん他プロのゲームクリエーターが作っているのだから、素人離れしているのは当たり前である。
「いやまぁ、それほどでもありますけどね」
誇らしげに腕組みする摩周兄だが、お前はそもそも作ってないだろ。
「ここでですね、事前にツイッターにて両サークルへ質問を募集していました。ブレイクタイム工房さんにも多数の質問が届いています」
「はい、オレ様になんでも聞いて下さい」
「この作品がインターネットに接続して、協力プレイできるようになるのはいつですか? と同一の質問が多く届いています。ネットワーク機能を実装する予定はあるのでしょうか?」
確かにこのゲームこれみよがしに
「えっ、ネット機能? つけてなかったっけ?」
なんでリーダーのお前が知らないんだよ。テストプレイすらしてないのか。
摩周兄は弟に確認をとると、弟も首を傾げている。
「ゲームの仕様は総監督が作ったから」
「総監督ですか?」
「ええ、居土さんっていうプロの――」
摩周兄が口を滑らせかけると、解説の伊也見さんが割って入る。
「いや、これはそういう作品なんですよ。一見協力プレイ推奨のゲームに見えますけど、CPUと上手く連携してクリアしていくというものです。アクションゲームの中に、戦術的な要素を盛り込んだということでしょう」
「そうそう、オレ様もそれが言いたかった」
俺はこの解説の伊也見さんが、実はこの作品はブレイクタイム工房が作ったんじゃなくて、居土さん含めたプロ集団が作ってると知っているだろうと気づいた。
(居土さんの名前が出た瞬間、慌てて助け舟出した感じだったな)
同人チームが作ってるからすごいってことになってるのに、中身は全部プロが作ってるって知られたら視聴者から怒られるだろう。
「なるほど、そういうことだったんですね。ちなみに仲間のCPUが非常に優秀だとコメントで流れていますが、このCPUはどなたが作られたのですか?」
「それはウチの天才プログラマーである弟っす。だよな?」
「知らないよ兄ちゃん、そのCPUのAI組んだの居土さんだし」
ほとんど居土さん一人で作ってないか? そんな気がしてきた。
「いやぁプロ目線から見ても素晴らしいAIだね! プレイヤーがしてほしいと思うことをCPUがやってくれるので、非常に心強い。きっと並々ならぬ情熱をかけて作られていると思いますね」
解説の伊也見さんが、都合の悪い質問は全て自分の発言を被せて流してしまう。
多分社長から直々に命令が出ているのだろう。摩周兄弟のボロが出ないように話をうまく誘導しろって。
「それではブレイクタイム工房の話は一旦この辺りにして、次に今いろんな意味で話題となっているサークル三石家の作品に触れましょう」
伊也見さんは、スタッフから新しいノートPCを受け取る。
そこには既に、俺達が作ったゲームのスタート画面が映し出されていた。
「こちらのゲームは、いい意味で経験が浅いチームが作ったのだとわかりますよ」
ゲームパッドのスタートボタンを押して画面を切り替えると、最初のADVパートが始まる。
「概要としてはADVとSLGを合体させたもので、良いところは素人にしてはプログラム遅延もなく、グラフィックも綺麗ですね。まぁADVメインのゲームで、グラフィック汚かったら終わってますけどね、はははは」
なぜだろう、褒められている気が全くしない。
「ただ残念なのはこの多すぎるシステム。自キャラだけではなく仲間キャラクターも管理することになり、見なければいけないところが多いですね。こういった数字管理が多ければ多いほど、やらされてる感が強くなります。後はキャラグラはいいのですが、戦闘パートの3Dに入ると一気にダメになるという声も聞きます」
伊也見さんは、ブレイクタイム工房のときは徹底的にネガティブな情報は遮断してきたのに、俺たちのゲームに対してはそういった情報をぶちまけていく。
「総評としては中の下というくらいですかね。また話題を呼んだDLCに関してですが、課金で最強のユニットが最初から手に入ってしまうのが賛否を呼んでいます。DLCを全て買うと、本体の倍以上に値段が膨れ上がるのもユーザーの反感を買っている気がしますね」
伊也見さんがDLC部分にも切り込んで解説すると、配信画面に「金返せ」「詐欺師」「DLCDLCDLC」とアンチが湧き始めた。
「それで三石君は、この作品にどういった感想を持っていますか?」
散々こき下ろした後に俺にコメントを求めてくる辺り、こちらに恥をかかせようとしているのがわかる。
本来反省点とか、謝罪の言葉を引き出したいのだろうが――
「俺は誇らしく思ってますよ」
「意外だね。ネット上の批判は知っていると思いますけど、それでもそう言えるのは豪胆だね」
「はい、仲間と協力し、何日も徹夜し、時には仕様を一から見直して面白いものを作ったつもりです。戦闘画面の3Dの作り込みが甘いと言われましたが、担当者はこのゲームで初めて3Dに触れたクリエーターです」
「そこは外注したほうが良かったんじゃないですか? このライフルなんて、ただの鉄パイプにしか見えませんよ」
伊也見さんは、ゲーム画面に移るロボットの3Dを見て鼻で笑う。同時にコメント欄も「鉄パイプwww」で埋まっていた。
「商業ベースで考えたらそうだと思います。だけどこれはあくまで同人ゲームです。仲間と楽しく作ることを最優先に意識しました。勿論そこに妥協はありませんし、開発者全員が自分の今持てるポテンシャルの全てを出し切って製作しました」
「しかしお友達との楽しさを優先して、クオリティの高いところと低いところが出るとまずいよねぇ?」
「俺はゲーム作りは、”こだわって楽しいを作る”ことだと思っています」
「こだわって楽しい……」
「自分が楽しめないゲーム開発では、良いものは作れません。またこだわりをもつことが、そのサークルの色となり味となると思っています。各セクションの担当者は、己の味を出してゲームを作ってくれました。だからつたないところがあっても、俺はこの作品が誇らしいです」
そう言い切ると、インタビュアーの矢田さんがパチパチと拍手してくれる。
「私はゲーム開発のことはよくわからないのですが、三石さんには何か一本信念のようなものを感じました」
予想した展開にならなかった伊也見さんは「クソガキが生意気に……」と言いたげな表情を浮かべていた。
そんなちょっと微妙な空気のときだった、バンっとドアを蹴破って誰かが入ってきた。
「「歌の時間だぁ!!」」
俺はメイド服で乱入してきた二人を見て、口をポカンと開けた。
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