第367話 水咲奪還戦 Ⅲ
番組の時間になり、俺は撮影会場となっている応接室へと入った。
そこには既にカメラが設置され、周囲にスタッフさんの姿が5,6人見られる。
中央の対面になったソファーには摩周兄と弟が並んで座っていて、兄の方は自身のスマホに向かって何やら話しかけていた。
「うぃっしゅ、今日は水咲と合併したヴァーミット本社ビルに来てるぜ。今回はなんと、若き天才クリエーターにインタビューするという番組で、オレ様達のサークルが選ばれた。オレ様達の人気もようやく世間に認められてきたってことだな」
自分でパチパチと拍手しながらテンション高く喋り続ける摩周兄。
俺はスタッフから彼の隣に座って下さいと言われたので、嫌々隣に座ることにする。
「よろしく。相変わらず一人でうるさいやつだな」
「おぉ、ミッチー! 今Pikpokで配信してるんだ。リスナーの皆紹介するぜ。こいつはミッチー、現在炎上中のサークル三石家のリーダー。オレ様の引き立て役だ」
嫌な紹介の仕方するな。
「どうも皆さん、引き立て役の三石です」
全くの無感情で肯定すると、スマホの画面には「誰?」「炎上?」「何したの?」というコメントだらけになっている。
そりゃそうだろう、ほぼ無名の同人サークルの炎上なんて誰が知ってるんだ。
「そろそろ個人配信切らないと怒られるぞ」
「それもそうだな。シーユー、オレ様のファンたち」
摩周が配信を切る。こんな奴でも視聴者数は100人くらいいたらしい。
「ミッチーは配信とかやんないの?」
「たまに人のMutyubeに出ることはあるかな。後最近モコモコ動画始めた」
「ぶはははは、モコモコ動画って配信サイトのスラムじゃん!」
「今日のインタビュー番組、モコモコ動画の公式だぞ」
「えっ、そうなの!?」
そんな話をしていると、司会らしき女性と開発者っぽい野球帽の男性が入ってきた。
「どうも本日の進行を務める、モコモコ動画運営の矢田優子です」
「解説を行う、ヴァーミット開発の
「オレ様モコモコ動画に前から出たかったんすよ! よろしくお願いします!」
「それはありがとうございます」
音速で媚びを売る摩周兄だが、そいつ今さっきまでモコモコ動画のことスラムって言ってましたよ。
挨拶が終わり司会と解説が対面のソファーに座ると、スタッフから少しだけ打ち合わせがあった後撮影が始まる。
「配信開始まで5秒前、4、3……」
ディレクターが2と1は指でカウントし、生放送が開始された。
それと同時にテーブルに置かれた、配信確認用のノートPCに俺たちの姿が映る。
「ゲームクリエーターインタビュー。モコモコ動画運営の矢田が、これより若き有望な同人クリエーターにお話を聞いていきます。本日お越し頂いたのは、ブレイクタイム工房の皆さんと、現在ネット上で噂になっているサークル三石家の三石さんです。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
全員がカメラに向かって頭を下げる。
「またヴァーミットゲーム開発部部長の伊也見さんに、それぞれの作品を開発者視点からコメントをいただいていきたいと思います」
矢田さんの紹介に、隣の野球帽の伊也見さんが頷く。
「両作品とも、学生が作ったとは思えないクオリティーのゲームですので、クリエーター目線で解説しながら進めていきたいと思います」
「はい、ありがとうございます。それでは早速インタビューに参りたいのですが、ここで一部放送に変更があります。ヴァーミットゲーム代表取締役、摩周社長にもお話を伺う予定になっていたのですが、急用が入ったとのことでこちらは中止とさせていただきます」
俺はインタビュアーの話を聞いて顔をしかめる。
やっぱり大越から話があったのか、摩周社長は生放送に姿を現さないようだ。
(弐号機と一式がひきずりだすのは任しとけって言ってたけど、大丈夫なんだろうか……)
不安になるが、今は二人を信じるほかにない。
「それではまず開発で苦労された点をお聞きしたいのですが」
俺の考えをよそに、摩周兄は凄い勢いでインタビューに答え始める。
「苦労したところですか~、いや~なんせブレイクタイム工房初のアクションゲーですからね。格ゲーをメインに製作してましたけど、この作品でオレ様達のサークルがどんなジャンルでも面白いものが作れると証明されたわけっすよ」
調子よく舌を回していく摩周兄。ほとんど開発に携わっていないという話なのだが、よくまぁ作ってもないゲームを我が事のように話せるものだと逆に感心する。
(一周回って、この
目立ちたがりの摩周兄のマシンガントークは止まらず、インタビュアーもなかなか切るタイミングが見つからない。
「ぇっとそうですね、何故今回は格闘ゲームではなく、アクションゲームへと路線を変更されたのですか?」
「えっ? いや……まぁ……。同じジャンルのゲームばっかり作ってたら進歩がないっすから。ブレイクタイム工房は常に進化することを目標に掲げてるんで、これからもいろんなジャンルに挑戦していきますよ」
「いや、あれは鬼の居土さんが、勝手に全部決めて仕様書も出来上がったものを渡され――」
摩周弟が口を滑らせると、テーブルの下で兄がおもいっきり弟の膝を蹴りあげていた。
「いてぇ! 兄ちゃんいてぇ!」
「なるほど、それではアクションゲームに限らず、これからは様々なジャンルに挑戦するということですね」
「はい、今オレ様の頭の中にはRPGやシューティングなどの企画書があります」
「また嘘ばっかり……。まともに企画書書いたことないじゃないか」
弟がぼそりと呟くと、再び膝を蹴られていた。
大丈夫か、弟膝痣だらけになるぞ。
「なるほど、今内容をお話できる開発中のゲームはありますか?」
「えっ……内容は、まだちょっと内緒なんで。まぁ楽しみにしてて下さい、近々良い報告ができると思いますよ」
「これは新作の匂わせってやつですね」
「次のゲームとか、まだ話にすら上がってな……いでででででで!」
弟が本当のことを呟くたびに、兄に蹴られている気がする。
しかし摩周兄が喋りまくってくれるおかげで、俺の方に質問はほとんどこないので正直ほっとしている。
その後もブレイクタイム工房のことばかりで、俺を除いた4人で盛り上がっていた。
動画の視聴者もすっかり俺の存在を忘れ、ごくごく普通のコメントしか流れない。
(コメントが少なすぎる……。おかしいな、毒は仕込んでおいたはずなんだけど。どうしたモコおじ達……)
俺の作戦はアンチを誘いこんでからの摩周社長の暴露と行きたいのに、コメントもまばらで画面に何も流れない時間の方が長い。
そこで俺はあることに気づいた。この生放送、リアルタイムで今何人の視聴者が見ているのか表示されるのだが、その数が880人とかなり少ない。
(3桁……これだけスタッフや機材を用意して視聴者数3桁……。これ見てるのほとんど水咲の社員だけじゃないか?)
これでは生放送中に摩周社長の横暴を吐かせても、大きな爆発にはならない。
俺としてはアンチにしっちゃかめっちゃかにしてほしいのに、ここまで過疎っているとアンチコメも書きにくい。
「まずいな……。視聴者数の計算は入れてなかった」
いや、特に話題性のある人間が出てるわけじゃないし、配信内容も摩周兄のオレすげぇ自慢が延々続いているだけだ。そりゃ数字がのびるわけがない。
「何かユーザーの気を引くことがないと、ダレて今いる視聴者もいなくなっちゃうぞ」
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