第23話 オタの妄想はエロゲじみている

 屋上に上がってきた俺に気づくと、二人は手を振ってみせる。

 それだけ見ると仲よさげな姉妹なのだが……。


「ごめん、遅くなって」

「いえ、構いません」

「こちらこそ毎回呼んですまない」


 そう言って火恋先輩はお弁当、いやお重と言った方が正しいだろう。

 三人分は有にある豪華お弁当を開け広げていく。

 中身はエビや野菜の天ぷらに、煮物、春巻き、ローストビーフと、おせちのごとく手間のかかる料理が並んでいる。

 これ全て火恋先輩一人で作っているらしく、アンタどんだけ女子力高いんだよと言いたい。


「どれも君の好きなものだと思う。食べてほしい」


 別に口に出してこれが好きとか言った事はないのに、ほとんどが俺の好物でしめられている。しかも味の調整も完璧。

 まずい、この人と結婚したら間違いなくデブにされてしまう。

 俺こんな料理のプロみたいな人に、手作り弁当作ろうとするってチャレンジャーすぎだろ。

 それを面白くなさそうに眺めているのは雷火ちゃん。ふてくされながらも、一緒にお弁当をつついている。


(姉さん、毎回卑怯)

(私は出遅れてる上に、借金を返済しなければならないんだ。必死にもなる)


 この姉妹、目だけで話し合ってるんですけど。


「ところで三石さん、今週の土曜は何処に連れて行ってくれるんですか?」

「そうだね、どうしよっか? ……というか二人共ブッキングしてる事実に気づいてるよね?」

「「はい」」

「じゃあどっちか日曜日にずらしていただけると助かるんですが」

「「嫌だ、です」」


 流石姉妹、見事なまでにシンクロする。


「あのですね、それだとデートにはならなくて単に三人でのお出かけに」


(姉さん引いてよ、許嫁はわたしでしょ)

(断る。私も候補に復帰したのはお前も知っているだろ。しかも何勝った気でいるんだ)

(あれだけ許嫁候補のことでかき回しておいて、よくデートに誘えたわね)

(その償いも含め、それでも一緒にいたいと思ったからここにいる)

(お弁当で胃袋から掴むやり口が卑怯よ)

(お前が料理の一つもできないのが悪い)

(は? 考え方古くない?)

(古かろうが現に今お前は困っている。逆に私は料理の腕を磨いて良かったと心の底から思っているよ)

(ぐっ……まっ、わたしは三石さんの手作り弁当食べたことあるし)

(くっ……自業自得ながら、あれは千載一遇のチャンスを逃した)


 ドヤ顔の雷火ちゃんにぐぬぬぬの火恋先輩。どうやらアイコンタクトでの戦いは雷火ちゃんが勝ったらしい。


「あの、両方引いてくれないんだったら、土曜は火恋先輩への罰ゲームにしようと思うんだ」


 その言葉を聞いて嬉しそうな顔をする雷火ちゃんと、顔をしかめる火恋先輩。


「罰ゲームってあれですか? 姉さんのコスプレ撮影会ですか?」

「悠介君、私は君だけならコスプレでもなんでもするが、雷火がいてはダメだ」

「じゃあ雷火ちゃん込みでの罰ゲームってことで」


 サクっと契約内容を変更すると、火恋先輩は眉をハの字にして困っていた。


「そんな、あれを見られるなんて」

「すっごい楽しみなんですけど、どんなコスプレですか?」

「何にしようかな、ランカとシェリルとか? グレンのヨーコとかでも良いなぁ」

「なかなかいいチョイスですね」

「土曜までに用意しとくんで、楽しみにしといて下さい」


 火恋先輩は妹に見られるのが相当嫌なようで、ちょっと泣きそうな顔をしていた。


「あの、悠介君やっぱり二人だけで、ね? た、頼むよ……」


 上目遣いが反則的に可愛いですがダメです。


「今度は俺の趣味のものを着てもらうんで、肌色成分が多いです」

「あのメイド服が限界だ。それ以上だと……困る」

「いいですか先輩、これは先輩が与えてほしいって言った罰ですから、何でも出来ますよね?」


 ちょっと意地悪な事を言うと、先輩は真っ赤な顔のまま「はい」と頷いた。


「はい! 質問いいですか三石さん」

「何? 雷火ちゃん」

「この話を聞いていると、コスプレ撮影会初じゃないような気がするんですけど」

「そうだよ、前電気街で偶然会った時にコスプレ撮影会やったんだ。その時の写真をデータ化して、今俺の携帯のホーム画面に……」

「わーーーー!」


 俺がスマホを取り出すと、火恋先輩は絶叫しながらスマホを奪い取った。


「本当に君は油断も隙もないな!」


 先輩は顔を赤くして怒るが、ホーム画面に映るメイド服を着た少女は笑顔でスリーピースしている。

 これが同一人物とは思えない。


「ちなみにこの前の撮影は、どのコスで何枚くらい撮ったんですか?」

「言っていいですか?」


 先輩は顔を赤くしたままコクリと頷いたので、教えてあげることに。


「メイド服にサザンカちゃんデスティニーちゃんコスで200枚以上……だと……?」


 予想の遥か上をいっていたようで、雷火ちゃんは目を見開いて姉を見やる。


「姉さんがサザンカちゃんとデスティニーちゃん……」

「な、なんだ、そうだ笑えばいい。アニメの知識もないのに衣装だけ着た私を笑えばいいさ!」


 吹っ切れたのか火恋先輩の声は若干キレ気味だった。


「いやぁ楽しかった、また撮影ができるなんて幸せだなぁ」

「はぁ……ほんと、君には主導権握られっぱなしだよ」


 小さく息をつく火恋先輩。


「あの三石さん、衣装ってわたしの分も用意できませんか?」

「えっ?」

「わたしもしたいです。コスプレ」

「えっ嘘、雷火ちゃんコスプレ好きだったの?」

「興味はありましたが、自分でしたいとまでは思ってませんでした」

「じゃあ何故?」

「この前200枚も撮ったってことは、二人共結構ノリノリだったわけですよね?」

「否定はしない」

「じゃあ次の土曜も二人でノリノリになって、わたしだけ蚊帳の外になりそうな気がしたんで」

「いや、でも今回のは火恋先輩への罰だから……」

「わたしもやりたいです。姉さんと二人でキャッキャッウフフしてるのに、わたしだけ放置プレイされて部屋の片隅で膝抱えるヴィジョンが見えました」

「そんな負けヒロインみたいなことにならないと思うけど。うーんどうしよう、二人を撮影するとしたらウチじゃ狭すぎるなぁ」


 いや、狭い部屋でコスプレした女の子二人と一緒って、実は天国じゃないか?

 俺の頭にコスプレした二人の姿が浮かぶ――

『三石さん』

『悠介君』

『『少し暑くなってきたから脱いでもいいですか?』』なんて言われたらソレナンテ・エロゲだろ。

 三石悠介のリア充ロード完全に始まったわ。OPオープニングはKOT○KOと神無月社で頼む。


「あぁ、わたし今から三石さんの机の引き出しに、どんなエロ同人お宝があるか楽しみでしかたありません」

「うん、やっぱ俺の部屋はやめよう」


 俺の部屋には姉モノも妹モノもある。

 コレハ危険ダ。(パスファインダー感)


「だとするとどこで撮影しようかな。撮影室借りるか……ん~む」


 俺は手頃な撮影スタジオがないかスマホで検索してみるが、前回行ったコスぱら含め土日の予約はすでに埋まってしまっていた。


「ウチでやったらいいんじゃないですか?」

「ウチって伊達家?」

「はい。ウチ広いですよ。撮影用のライトと背景ロールくらいはありますし」

「……マジで?」

「そうだな、自宅なら迷惑にならないし、誰かに見られることもない」


 最も見られてはいけない人に、見られる可能性があるって気づいてますかお二方。


「あのですね、伊達家のご家族に見られましたら、俺許嫁候補から外されることになりますよ」

「なんでですか? 目の届く範囲でデートしてるだけじゃないですか」

「届いちゃダメなんですが」


 からかうように笑う雷火ちゃん。


「冗談です。実は土曜日パパもお手伝いさんもいないんで、誰かに見られる心配はないですよ」

「玲愛姉さんはいるが」


 一番の大ボスがいるじゃないですか、普通に殺されますよ。カメラを貫通して目潰しとかされそう。


「いやぁ玲愛さんいるのはちょっとというか、かなり危険度が高く、リスキーなのではないでしょうか?」

「大丈夫です。玲愛姉さん昼間は寝てたり、お仕事とかでいなくなったりするんで」

「部屋から一歩も出ずに休日を終えることもあるね」

「むしろ玲愛姉さんなら喜ぶんじゃないですか?」

「なぜ?」

「玲愛姉さん三石さんのこと好きですから」

「えっ?」


 俺は全くそんな気がしないんですが、むしろ毎度殺意の波動を向けられています。しかし火恋先輩もそうだなと相槌をうっている。


「あのーその好きというのは一体どこから来たのでしょうか?」

「根拠はいくつかありまして、まず一つは三石さんを火恋姉さんの許嫁候補に推薦したのは姉さんです」

「うん、みたいだね」

「この話不思議な事に理由がないんです。玲愛姉さんの話のほとんどは根拠に基づいた、反撃を許さない理論武装でかたまった話ばかりです。でも三石さんの話については全く根拠がありません」

「父が居土君を推薦したとき、一番反対したのも玲愛姉さんだったな」

「そ、そうなんだ。なんでなんだろう」

「玲愛姉さんは意外と贔屓が強いんだよ」


 火恋先輩が何かを思い出すように腕組して話す。


「玲愛姉さんは誰にでも厳しいが、なんだかんだでやっぱり身内には甘い。身内に危害が及ぶ前に害になるものは潰してしまうんだ」

「その話からいくと、俺が最も害がなさそうだから候補にした感が……」

「いや、それも立派な理由だよ。伊達家目当てに近づいてくる人間は多くいる。その中で毒のない人間を探すほうが難しい」

「なるほど」


 大企業社長娘の婚約話にもなると、思惑のないやつの方がレアケースなのか。


「火恋姉さんが許嫁を居土さんに決めるって言った時の、玲愛姉さんの怒り狂いよう見せてあげたかったですよ」

「今思えば、あれは姉さんからの警告だったんだろうな。あのときはただただ恐ろしいとしか思わなかったが……」

「完全に伊達家のゴジラが覚醒してましたからね……」


 姉妹は身震いしている。よっぽど恐ろしい片鱗を味わったのだろう。


「でも好きな人はこの人ですって言って怒らられるのはどうかと思うよね。今度会ったら言っておこう」

「……三石さん意外と度胸ありますよね」

「そうかな? 俺玲愛さんには絶対嫌われてると思ってたから、物怖じせずにいけたんだけどな」


 意外と嫌われてるとわかってる方が、対人関係はやりやすかったりする。


「それで土曜はどうしようか?」

「そうですね、場所のアテもないので行かせてもらいます。後コスチュームは俺が用意するんで、リクエストなどあれば聞きますけど」

「わたしは仮面5の双葉ちゃんがやりたいです」

「私はサザンカちゃんが……」

「えっ?」


 度肝を抜かれるってこういうことを言うんだろうな、って表情をした雷火ちゃん。

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