第204話 伊達姉妹のXDAY Ⅰ

 時は12月17日。

 クリスマスを一週間後に控えた街は、そこら中にサンタクロースや虹色の電飾に溢れている。


 そんな綺羅びやかな雰囲気に真っ向から反逆する、俺と相野陰気なオタクは電気街に立っていた。

 くそ寒い寒波がきているというのに、電気街にはそこそこの人がいてオタクに季節なんて関係ないとわかる。


「うー寒っ。寒さが傷に染みるわ」

「それで悠介君、オレが駆り出されてきたわけですが一体何用ですかな?」


 相野はマママップの店頭で映し出されている、最新ゲームのPVを見ながら俺に尋ねる。


「実は、クリスマスなんだが……」

「(∩゚д゚)アーアーきこえなーい」


 唐突に現実逃避に入る相野。


「女の子にプレゼントを買おうと思うんだが」

「(∩゚д゚)アーアーきこえなーい」

「何がいいと思う?」

「(∩゚д゚)アーアーきこえなーい」


 もうええっちゅうねん。


「彼女なしのオレに、彼女へのプレゼントの悩みとか拷問か。鬼か、悪魔か」

「そう言うなよ。マジで季節イベントはどうしたらいいかわからんから困ってる」

「お前の周りの女の子って伊達三姉妹だけじゃないよな? この前転校してきたイケメン女子とギャルの子もいるし」

「結婚式で見た通り全員で9人いる」

「よく刺されずにいるよな。お前だけ血のクリスマスになればいいのに」

「だが安心してほしい9人中6人は仕事やら用事やらでいないから、クリスマスは伊達家の3人だけだ」

「それ帰ってきたら結局残りの6人分も必要なのでは?」


 ぐぅの音もでないくらいその通りだった。


「そんだけいるとなんでもいいんじゃねぇの?」

「そう言わず、もうちょっとなんか考えてくれよ」

「いや、好きな人から何か貰えたらそれだけで嬉しいもんだろ。お前だって、火恋先輩からならクソゲープレゼントされても嬉しいだろ?」

「そりゃまぁ火恋先輩はゲームの知識ないからな、頑張って選んだんだろうなって思うと嬉しいさ」

「それと同じだろ? 別に好みがどうとかじゃなくて、選んで買ったものなら何でも嬉しいんだよ。ってギャルゲーで言ってた」


 正論なのに最後で台無しだった。


「選んでかぁ……」

「予算は?」

「2万で9人」

「無理だ諦めろん」


 ばっさりと一蹴されてしまう。


「なんでや!」

「アホか、クリスマスプレゼント一人2000円とかなめてんのか。オレが女なら即別れる案件だ」

「愛があればかけたお金なんて……」

「あれは金のない奴のただの言いわけだからな。ある程度ボーダーってのは存在するわけだよ」

「ぐぬぬぬ」

「お前のその右手じゃバイトも無理そうだし、あれしかないんじゃね?」

「あれって?」


 相野は近くの薬局に入ると、ものの数分で戻ってきた。


「はい、オレからのクリスマスプレゼント」


 手渡されたのは小さな長方形の箱だった。


「ナニコレ?」


 箱には暗闇でもブルーに光る! 0.01mm超薄薄タイプ! なんて文言が並んでいた。

 しかもご丁寧にクリスマス用のプレゼントリボン付きである。


「安全戦士コン○ム」


 いや、わかってはいるんですよ。クリスマスイブの午後9時から深夜3時までは性の6時間って言われるくらい、男女の営みが盛んになることくらい。

 そんなもの一生関係ないわーとか思ってたら、まさかそのことで悩む時がこようとは。


「お前去年の冬も俺にこれ渡してきたよな……」

「今年のバレンタインデーにも渡した」

「そういや、もし仮にチョコレートもらえたら必要になるかもしれんとかバカみたいなこと言って買ってたな……」


 俺の机の中には、既に2箱の安全戦士が眠っている。


「使う予定がないものを3箱も持ってるとか虚しすぎる」

「オレの気持ちだ、受け取ってくれってストイックに言ってみろよ。案外男らしい! って思われるかもしれん」

「こんなもん玲愛さんにプレゼントしたらぶち転がされるわ。……しょうがない、プレゼントは自作ケーキで許してもらおう」


 結局電気街に来たものの、近くの百貨店でケーキの素材と作り方の本を買って帰ることにした。


◇◆◇


 時は進み12月23日――


 玲愛は悩んでいた。当然目前に迫ったクリスマスについてだ。

 今年も分家や企業から山のようにクリスマスのお誘いがきたが、全部蹴ってやった。

 許嫁となった悠介と聖夜を一緒に過ごせるウルトラロマンティックイベントがきたのだ。これをみすみす見逃す手はない。

 好都合なことに水咲家はアミューズメント系会社とあって、季節イベント時は多忙を極める。

 月達には同情するが、これはまたとないチャンスなのだ。


「このクリスマスで水咲と差をつけ、一気に抜き去る」


 それにはプレゼントも悠介が気に入るものにしなくてはならない。

 かと言って彼の好きなゲームや玩具ではムードというものがないので、あくまで女性からのプレゼントを意識させなくてはいけない。

 本来なら夜景の見える高級レストランでディナーにしたいところではあるが、それでは悠介が萎縮してしまう可能性が高い。

 ムードがありすぎてもダメ、なさすぎてもダメとプレゼント選びに難航していたのだ。


「なにかヒントになるものはないか?」


 玲愛はそのヒントを求めて悠介のマンションにやって来ていた。

 今現在三石家の人たちは外出中。彼女たちも売れっ子マンガ家、Mutyuberとしてクリスマス時はやることが多いのだ。

 玲愛は当たり前のように悠介の部屋をマスターキーで開け、中へと侵入し部屋の中を物色し始める。

 何か見つかれば妹達とも話をして……。そう思っていると、鍵のかかった机の引き出しに視線が止まる。


「…………」


 怪しい……。どうせエロ本かエロゲーの類だろうと思ってはいるのだが、男なら所持して当たり前だろうとその点に関して彼女は寛容だった。

 抜群のスタイルを誇る絶対強者伊達玲愛が、所詮動画やゲーム程度に負けるわけがないと自信をもっていたからだった。


「悠、お前を知るためだ許せ」


 玲愛はどこのご家庭にもあるナイフとピッキングツールをポケットから取り出し、カチャカチャと鍵穴をいじる。

 するとものの数秒でカチャリと音をたてて机の鍵は降伏した。


「他愛もない」


 簡単に開いた机に、大怪盗玲愛は口の端を吊り上げる。


「ビンゴ」


 予想通りのエロ本。巨乳年上モノが多いのは想定の範囲内、むしろそれ以外の物が入っていたら禁書として処分してやろうと考えていた。


 だがその中で予想外のモノを見つけて一瞬硬直する。

 エロ本の下敷きになっていたそれは、暗闇でも光る超薄薄タイプ! ブルーverと書かれた箱。

 しかもそれがプレゼント用のリボンを巻かれて三箱並んでいたからだ。

 玲愛は硬直した後、よほど混乱したのか一旦引き出しを閉じた。


「アレは……アレか……避妊具か」


 混乱しながらももう一度引き出しを開く。

 そこには変わる様子もなくコンドムの箱が「やぁ、僕安全だよ」と鎮座していた。


「すー……(深呼吸)」


 玲愛はコンドムの箱を手に取り、まじまじと見据える。


「これがここにあるということは使うつもりなんだな……」


 玲愛は無表情ながらも、雪のように白い頬を真っ赤に染め箱を凝視する。

 確かに跡取りを作るにはそういう行為は必要である。

 いや、正確には跡取りを作るには必要ないのだが、そんなポンポンと懐妊するわけにはいかないので、本来避妊できて偉いと言うべきことなのだが――


「そんなはしたないこと言えるか!」


 とは言いつつも、既にABCのAは終わっているし、BCを同時に済ませるというカップルも少なくはないだろう。

 先日も帰ってこないはずの妹が、急遽帰ってこなければダイニングで致していた可能性は高い。


「するってことなのか……本当にするってことなのか?」


 引き出しの中を見るとまだ二箱残っている。

 これはつまりこれだけするということなのか? そういう事なのか?

 玲愛の高精度演算機能は完全にショートし、デッドロック状態に陥っていた。


「さすがに三箱は……待て、まさかこれは」


 玲愛に落雷の如き閃きが落ちる!

 これは自分と雷火と火恋の分なのではないかという天才的閃き。

 高精度演算機能が生み出した誤回答が、さらなる混乱を招いていく。


「えっ、一晩で三人も……る気なのかあいつは?」


 草食系に見えてとんだ肉食系である、夜のT-REXではないか。

 まさかこんなところにジュラシックパークを用意しているとは思わず、玲愛はプレゼントどころではなくなってしまった。

 しかもカラーリングがブルーver、イエローver、レッドverと三姉妹の好みの色と一致している。

 大人の立場からすればこんなもの捨ててしまえと思うのだが、何せ使用される可能性が一番高いのが自分である。彼女の高精度演算装置が処理をしきれず、煙をあげていく。


「こんにちはー。悠介君、いるだろうか?」


 玄関からの声にビクッとする玲愛。しかしその声は部屋主ではなく、妹の火恋だった。

 さすがにこれを妹に見せるのはまずいと思い、咄嗟に背中に隠す。


「あれ、玲愛姉さん珍しい、どうしたの?」

「おっお前、なんでこっちに帰ってくるんだ」

「私はたまに夕食を作ったり掃除をしたりしに、悠介君の部屋に来ているんだ」

「お前通い妻みたいなことをしてるな……」

「姉さんどうしたの? なんか汗かいてるけど」

「な、なんでもない、なんでもないから! 掃除とかあんまりあいつを甘やかしすぎるなよ! それじゃあな!」


 玲愛は背中の物を隠したまま、部屋を出ていく。

 火恋は不審な行動をする姉に首を傾げる。


「変な姉さん。あっ、もしかしてクリスマスプレゼントのネタ探してたのか?」


 既に手編みのセーターを用意している火恋にとって、別段クリスマスプレゼントに対して焦りはなかった。


「玲愛姉さん、初めてのプレゼントだから相当困ってるな。後でアドバイスでもしてあげようか」


 クスリと笑いながら火恋は玲愛のいた机の方を見ると、いつもは鍵がかかっている引き出しが半開きになっているのが見えた。


 







―――――――

※昔書いた奴を改稿したものなので、季節感ぐちゃぐちゃで申し訳ないです。

オタオタの世界はサザ◯さんなので、誕生日イベントがない限り年齢経過は基本ありません。

時系列がおかしいというクレームは聞きたくありません(∩゚д゚)アーアー

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