第205話 伊達姉妹のXDAY Ⅱ
火恋が玲愛のいた机を見ると、いつもは鍵がかかっている引き出しが半開きになっている。
「姉さん、人のプライバシーを勝手に開けて。ダメじゃないか」
玲愛が物色している最中に自分が帰ってきたから、あわてて逃げていったのだろうと予想がついた。
いくら許嫁関係であろうと、秘密にしておきたい事は存在する。
姉にはその辺りを注意しておかなければと思う火恋だったが、引き出しに近づくと、つい視線が中に吸い寄せられてしまう。
「むっ……これはもしかして、悠介君からのクリスマスプレゼントかな……」
いけないとは思いつつも、パンドラの箱を手にしてしまう。
「0.01mm超薄……?」
火恋は箱に書かれた文面を全て読むと、それが避妊具であることを理解した。
「これはあれだな……性交に使うものだな」
これがもしも開封済みならば大問題となるのだが、クリスマスプレゼント用のリボンが施されている。
「これが悠介君からのプレゼントということは……」
まずい、自分はとんでもない勘違いをしていたのかもしれないと火恋に稲妻が落ちる。
火恋は「チキンおいしー、ケーキおいしー、クリスマスパーチーたのしー、アハハハ」と呑気なファミリーパーティーを想像していた。
しかし、その考えは甘すぎる。クリスマスとは年に一度しかない恋人たちのXDAY。まして自分たちは跡取りを作る使命を持っている。
チキンを食ったら、その後に食われるのは自分たちである。
「クリスマスパーティーは雷火も玲愛姉さんもいるのに、なんて大胆なんだ……もしや……」
机の中を見ると、まだ一箱残っている。もしかして三箱あったのではないだろうか。姉が背中に隠したものが、コレだとしたら合点がいく。
つまり悠介はこのクリスマスで4Pを決行する気なのだと、想像がついてしまう。
普通の女性ならば怒り狂ってしかるべきところではあるが、あいにくと火恋は普通ではない。
初めてが4Pとは、なんて豪胆な男なんだと感心してしまうくらいに頭のネジが外れている。
火恋は夜を想像して熱い吐息を吐いた。
自分は何番目なのだろう……。
そもそもこんなものなくても別に自分は一向に構わないのだが……。
いっそのこと全部に針で穴を開けて、使えなくしてやろうかとさえ考えてしまう。
思考がピンクに染まりやすい火恋は、とうとうこの時が来たのだと覚悟を決めた。
「こちらも準備がいるな。プレゼントにセーターはダメだ。下着……下着にしよう、それもとびっきりエグいものを」
急遽いやらしい下着を買うと決めたところで、玄関からガチャガチャと音が鳴る。
「こんにちはー、悠介さんいますー?」
今度は末妹の雷火がやってきて、火恋はビクッと体を震わせる。
「あれ、火恋姉さん何してるんですか?」
「な、なんでもない! ちょっと掃除しようと思ったけど、綺麗だったからやめておく!」
慌てふためく火恋に、雷火は首を傾げる。
「姉さん、今背中に何か隠しました?」
「隠してない! 悠介君ならまだ帰ってないから! 私買い物に行く用ができたから行ってくる! 雷火今年のクリスマスは大人になるかもしれないから覚悟しておけ!」
顔を赤くした火恋は「いつまでも子供でいられると思うな!」とわけのわからないことを言いながら外に出て行ってしまった。
その手にあの箱を持ちながら。
「変な姉さん。一体何を覚悟しろと……」
姉の奇行は今更ではないので、雷火は大して気にした様子もなく、悠介のベッドに勝手に寝転がりながら買ってきたジャソプを読む。
ジャソプを読み終えると、裏表紙に『クリスマス、素敵な夜に……』なんて書かれた宣伝広告が目に映り、雷火は小さくため息をつく。
「クリスマス、何かかわるのかなぁ……」
雷火がプレゼントに用意したのは自作のゲームだった。
並々ならぬ時間がかけられている、世界で一つだけの作品。
多分喜んでくれるとわかっているのだが、女性からのプレゼントとしてはどうなの? と自分でも思っていた。
「一歩何か踏み込んだものが必要かな……」
趣味プログラミング、オタ活の雷火が、いざ好きな男性にプレゼントと言われても全く何も浮かばなかったのだ。
本当は自分の体にリボンを巻いて「クリスマスプレゼントはわたしですよ」なんてやってみたかったが、周囲はバスト100センチオーバーの大艦巨砲軍団。戦闘力G~L級の中C級の自分の体は、それらに比べて見劣りしてしまう。
いざクリスマスプレゼントは私ですよ作戦をやって、悠介に「戦闘力たったのCか、ゴミめ……」なんてラデッツみたいなことを言われたら死んでしまう。
「そんなの遺伝なんだからしょうがないじゃないですか~。できればわたしだってボインボインになりたかったですよ!」
ベッドをのたうちまわりながら、ふと視線をあげるといつもは鍵のかかっている引き出しが目に以下略。
「なんですかこれ?」
雷火は引き出しをあけると、巨乳年上のエロ本の山を見つけ瞳のハイライトが消える。
これは禁書として後で燃やしておこうと思っていると、雑誌の下にプレゼントリボンをされた箱が見えた。
「わーなにこ……暗闇でも光る、超薄うす……」
それが安全戦士だと気づくと、雷火の顔は一瞬でボンっと沸騰した。
同人誌やエロゲーをしている雷火には、これがどういう意味をなすアイテムなのかすぐに理解できた。
「これがあるってことは、つまりは……このクリスマスで勝負かけにきたってことですよね……」
自分が思っている以上に向こうも本気だったのだ。
火恋が大人になる準備をしておけといった意味を理解する。
「でも、これがもし姉さんとする為のものだったら……」
ごめん雷火ちゃん、今日のクリスマス俺はお姉さんたちとセッ――するから、君は部屋の端で体育座りしててくれ。
自分が膝を抱えてる横で、姉の嬌声なんか聞かされたら自殺ものである。
「違う、悠介さんは絶対そんなことしない! そうきっとこう!」
ほわほわと雷火の頭に120%美化された悠介の妄想像が浮かぶ。
「雷火ちゃん、俺は君としたいんだ。あんな駄肉をぶらさげたお姉さん達なんかより、君と……」
「そうですよね悠介さん!!」
雷火は妄想の悠介と会話しながら布団に抱きついた。
「ただいまー」
「はっ!?」
最高に無様を晒しているときに、部屋主である悠介が帰ってきたのだった。
雷火は慌ててコン◯ムの箱を布団に隠してしまう。
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